バイオ事業大手のタカラバイオ株式会社 今後、注目されるのはタカラバイオが手掛ける遺伝子医療か?

2018年12月にキノコ生産大手の「雪国まいたけ」がタカラバイオ株式会社のキノコ事業を買収することを発表しました。タカラバイオのキノコ事業は「ホンシメジ」の国内シェアのほぼ100%を誇っています。

タカラバイオは、宝ホールディング株式会社(旧:寳酒造株式会社)の傘下の会社のひとつです。事業内容の柱は「バイオ産業支援、医食品バイオ事業、遺伝子医療」です。

医薬品バイオ事業ではキノコ事業と健康食品事業を展開しています。親会社の宝ホールディングスは、来年1月に健康食品事業も塩野義製薬の子会社に譲渡することを決定しています。

※宝ホールディングス株式会社の傘下にはタカラバイオ以外に、「マザービジネスとして焼酎や清酒などでおなじみの宝酒造株式会社、海外へ和食文化を展開する宝酒造インターナショナル株式会社」などをはじめとして多くの会社があります。

医薬品バイオ事業を手放すことで「バイオ産業支援、遺伝子医療」に特化して事業を充実させることを目指しています。

[タカラバイオはどんな会社なの]

タカラバイオは、1968年に旧寳酒造株式会社(現:宝ホールディング株式会社)のバイオテクノロジー(生物工学)事業としてスタート。工学研究用試薬「制限酵素」を発売、PCR法による遺伝子増幅システムの国内独占販売権を取得しています。

宝ホールディング photo by wikimedia

1993年に中国に海外拠点を設立し、以降、フランス、韓国、アメリカ、インド、スウェーデンに海外拠点を設立しています。

1995年に造血幹細胞への高効率遺伝子導入法「レトロネクチン法」を開発。2002年に寳酒造株式会社の分社化に伴いタカラバイオ株式会社が設立されました。

2004年に東京証券取引所マザーズに株式を上場、2016年に東京証券取引所マザーズから同市場第一部へ市場変更しました。

レトロネクチン法は、アメリカのインディアナ大学と共同開発したもので造血幹細胞などの血球系細胞へ効率よく遺伝子を導入する技術です。

遺伝子医療のひとつである患者さんのリンパ球を取り出して体外で治療用遺伝子を導入してふたたび患者さんに投与する遺伝子改変T細胞療法(Engineered T Cell Therapy)に用いられます。タカラバイオが臨床試験中の遺伝子医療にも用いられています。

世界各国の医療機関や研究機関でも採用され、世界の標準プロトコールとして普及が進んでいます。レトロネクチンと抗CD3抗体を用いてT細胞を効率よく増殖させる「レトロネクチン拡大培養法」もあります

現在は滋賀県草津に本社を置き、同市に設立した「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」と国内3拠点、海外7拠点とともにバイオ事業に力を入れています。

[タカラバイオが展開する3つの事業]

写真はイメージです。 photo by pixaboy

◇バイオ産業支援

タカラバイオの売上高の90%を占める中核事業です。大きく二つのサービスを展開しています。

世界中の大学や研究機関などに研究用試薬や理化学機器の提供および支援

ゲノムシーケンス解析試薬、遺伝子発現試薬、遺伝子研究用試薬や検査キット、シングルセル解析装置、ゲノム解析や再生医療製品開発支援および製造受託、iPS細胞研究試薬、幹細胞培養関連製品などといった多くのラインアップを誇っています。

現在、注目されているiPS細胞についても、iPS細胞の分化誘導技術や幹細胞関連を扱うCellectis AB社(現:Takara Bio Europe AB)を買収、タカラバイオの事業の一環として展開しています。

2017年1月からは、京都大学iPS細胞研究所とiPS細胞技術の臨床応用に向けた共同研究を実施しています。

再生医療等製品開発支援と遺伝子検査支援の受託サービス

再生医療等製品開発支援サービスでは、「細胞の受託製造、開発、品質試験、安全性試験など再生医療や細胞医療分野の研究開発と産業応用の支援」などをおこなっています。

遺伝子検査支援サービスでは、「遺伝子解析、がん関連遺伝子の網羅的解析、腸内細菌叢、遺伝子編集など先端技術や機器」を用いたサービスを提供しています。

◇医食品バイオ事業

自社のバイオテクノロジーを活用して食品素材の研究をおこないガゴメ昆布フコイダン、ボタンボウフウイソサミジン関連製品などとともに1970年に成功したブナシメジの大量栽培をはじめとしたキノコ関連製品等の開発を中心に事業を展開しています。

◇遺伝子医療

遺伝子医療では、腫瘍溶解性ウイルス(C-REV)や遺伝子改変T細胞療法(siTCR、CAR)について治療がむずかしいといわれるがんなど疾患の治療について研究、開発、臨床試験を進めています。

とくに、今後、注目されていくのが遺伝子医療の分野ではないでしょうか。

タカラバイオの売上高、資産状況

売上高は2018年03月期が323.1億円、2019年03月期の予想売上高は358億円、経常利益は2018年03月期が38.6億円。2019年03月期の予想経常利益は 52億円です。時価総額は3084億円。総資産額688.5円、自己資本比率89.8 %、有利子負債はありません。

[タカラバイオが進める遺伝子医療は]

タカラバイオは、遺伝子医療について3つのプロジェクトを進めています。日本での開発については大塚製薬と共同で進めています。

-C-REV(Canerpaturev):開発コードTBI-1401

腫瘍溶解性ウイルスを利用して腫瘍組織を破壊する方法です。ウイルスは遺伝子改変によってがん細胞の中だけで特異的に増殖するようデザインされていています。

腫瘍溶解性ウイルスに使用されるヘルパスウイルス photo by wikimedia

通常の細胞と比べてがん細胞はウイルス感染に弱いことが知られています。腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞にとりついてがん細胞内で増殖してがん細胞を破壊、破壊と同時に増殖したウイルスは飛散して別のがん細胞に感染します。

同時に、ウイルスは体内で抗原とみなされるために免疫細胞であるT細胞やB細胞が活性化されてウイルスがとりついたがん細胞を攻撃します。正常細胞にも感染しますが増殖することはなく副作用が少ないと考えられています。

通常、腫瘍溶解性ウイルスは遺伝子の改変をおこないますが、タカラバイオが開発しているC-REVは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が自然変異したタイプで遺伝子の改変をおこなっていません。

C-REVは、日本で根治切除不能または転移性悪性黒色腫(メラノーマ)について「イピリムマブ」との併用療法の臨床治験第II相実施中、アメリカでは臨床治験第II相完了、術前の悪性黒色腫患者についてアメリカで医師主導臨床治験第II相実施中、さらに、日本では切除不能な膵(すい)臓癌患者の臨床治験第I相実施中です。

※イピリムマブ:がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)には、免疫機能によって正常細胞などへ攻撃が過剰にならないように調節する働きを持っていて抗腫瘍活性を十分に示すことができない場合があります。イピリムマブは、調整する働きを解除することで腫瘍抗原に特異的なT細胞の増殖及び活性化させてがん細胞の増殖を抑制する免疫チェックポイント阻害薬です。おもに悪性黒色腫の治療などに使用されます

臨床試治験第III相が不要な再生医療等製品の条件付き承認制度や希少疾病用医薬品の指定を通じて早期に承認を目指しています。

-siTCR(T細胞受容体)遺伝子治療:開発コードTBI-1301

TCR(T細胞受容体)遺伝子治療は遺伝子改変Tリンパ球療法のひとつで、Tリンパ球が備え持っている抗がん作用を利用したがん免疫療法のひとつです。

写真はイメージです。 photo by pixaboy

がん細胞の表面にはがん抗原と呼ばれるたんぱく質があります。Tリンパ球はこのがん抗原を指標にしてがん細胞を攻撃します。

TCR遺伝子治療では、患者さんのTリンパ球を取り出してがん細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を導入して拡大培養後に患者さんの体内に戻すことでTリンパ球ががん細胞を認識して攻撃します。治療するがんの種類に応じたTCR遺伝子を導入することが可能です。

Tリンパ球の導入に際しては、タカラバイオの独自技術であるsiTCRベクター技術を用いて有効性があるTCR遺伝子の組み合わせを持った遺伝子を高い可能性で発現させています。

2018年3月には、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されています。

※先駆け審査指定制度に指定されると薬事承認に関する相談や審査が優先的に取り扱われて承認審査の期間を短縮されます。通常の新医薬品など場合には審査期間12ヶ月を要しますが、この制度を活用することで審査期間6ヶ月程度に短縮できます。対象となる疾患は滑膜肉腫です。

siTCR遺伝子治療は、日本で滑膜肉腫の臨床治験第II相実施中、日本(MAGE-A4)とカナダ(NY-ESO-1)では食道がんなどの固形がんを対象にした医師主導臨床治験第I相実施中です。

※MAGE-A4とNY-ESO-1はがん細胞で発現するがん抗原の1つです。MAGE-A4は「食道がん、頭頸部がん、卵巣がん、悪性黒色腫」などNY-ESO-1は「滑膜肉腫、食道がん、卵巣がん、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、頭頸部がん」などで発現します。

-CAR遺伝子治療:開発コードTBI101

CAR遺伝子治療(キメラ抗原受容体発現T細胞療法:CAR-T)は、TCR遺伝子治療と同じ遺伝子改変Tリンパ球療法のひとつですが受容体の構造が異なります。

キメラ抗原受容体は、遺伝子編集を行うことで工学的に抗原を特異的に認識する部分とTCR由来の細胞傷害性機能部分を結合させた人工の受容体です。

CAR遺伝子治療もTCR遺伝子治療と同様に患者さんのT細胞を取り出して治療に使用します。作用機序も同じですがCAR遺伝子治療の場合はCD19抗原を認識するように作成されています。CD19抗原はB細胞の発生、活性化、分化の調節に関与しています。

CAR遺伝子治療は、成人の再発もしくは難治性CD19陽性B細胞性急性リンパ芽球性白血病で臨床治験第II相実施中で2020年中の承認・販売を目指しています。小児を対象とした臨床治験も計画中です。さらに、自治医科大学と悪性リンパ腫のひとつである非ホジキンリンパ腫を対象とした臨床研究も推進しています。

写真はイメージです。 photo by pixaboy

遺伝子医療で取り組んでいる対象となる疾患の多くは治療が難しいとされてきたものです。臨床治験が順調に進んで、少しでも早く治療の現場に取り込まれることが望まれますよね。

もちろん、タカラバイオ以外にも多くの企業や研究機関が遺伝子治療などさまざまの分野で研究、開発を進めています。医療がいろいろな形で進歩していくことが期待できるといっても過言ではないといえるのではないでしょうか。

疾患解説

悪性黒色腫(メラノーマ)

皮膚や粘膜など全身のどこにでも発生する悪性腫瘍です。日本人は足の裏や手のひら、手足の爪などに発生することが多く見られます。

悪性黒色腫の初期症状としては、皮膚に褐色や黒褐色の不規則な形をしたシミなどができたり、爪に黒褐色の縦のスジができます。進行期に入ると急速に症状が進み転移しやすいことが知られています。早期に治療すれば治癒が望めるがんですが患部を刺激すると急速に症状が進行してしまいます。

膵臓がん

きわめて早期に発見できれば治癒が望めますが、すい臓は見つけにくくうえに症状もでにくく進行した段階で発見されることが多く、発見時に切除手術可能な症例は4割以下です。

治癒が難しい悪性度の高い難治性のがんで5年生存率がきわめて低いことが知られています。まだ、がんが小さい早期のうちでも膵臓の周囲にあるリンパ節や肝臓などに転移しやすいという特徴があります。

滑膜肉腫(かつまくにくしゅ)

からだの軟部組織に発生する悪性腫瘍でからだの全身各所に発生します。とくに、大腿や膝関節部などの下肢発生することが多く、かたいしこりのような塊がみられます。病気が進行すると肺や骨などに転移をおこします。

10代から40代の若年層に多く見られ、再発、転移など予後はかんばしくありません。希少がんのひとつですが、最近の症例研究ではきわめて希少ということではないといわれています。

陽性B細胞性急性リンパ芽球性白血病

白血病は白血球の一種であるリンパ球が幼若な段階で悪性化、がん化した白血病細胞が無制限に増殖して発症します。おもに骨髄で増殖するものをリンパ性白血病、リンパ節などリンパ組織で増殖するものをリンパ芽球性白血病(リンパ腫)といいます。

青年期の発症が多いといわれていますが幅広い年齢で発症します。急性白血病は病状の進行が速いために早期の診断と速やかな治療の開始が重要になります。がん化するリンパ球がT細胞由来とB細胞由来があり、B細胞由来のものが「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」です。

 

 

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