photo by Melissa Johnson
糖尿病患者は年々増加傾向にあり、成人の糖尿病患者は世界に4億人以上いると世界保健機構が発表しています。
現在、Ⅰ型糖尿病の治療にはインスリン注射が必須であり、Ⅱ型糖尿病の患者も症状が酷い場合はインスリン注射を行う必要があります。
患者は一日に数回自身で注射を打たなくてはならず、高頻度の注射に対し「注射痕が残らないのだろうか」や「外出時に注射器を忘れそうで怖い」といった不安の声があがっていることも現状です。
今回、東海大学理学部化学科と東北大学多元物質科学研究所、大阪大学蛋白質研究所の共同グループにより、長時間体内で作用することのできる人工インスリンの研究が行われました。
新規人工インスリンの名前は「セレノインスリン」
インスリンは血糖値を正常に保つホルモンで、糖尿病治療では血糖値を下げるために使われます。
インスリンの人工合成はこれまで様々な研究グループが挑んできましたが、インスリンの特徴的な構造から、いずれも「人工合成されたインスリンは目的の効果はほとんど得られない」と結論付けられてきました。
今回研究者たちは、インスリンの構造内に含まれる硫黄(S)の関係で人工合成されたインスリンは目的の効果が発揮できないと考え、硫黄(S)を反応性に富んだセレン(Se)に置換してみました。
その結果、最大27%純粋な状態でセレノインスリンを合成することに成功したのです。
セレノインスリンの特徴は3つあり、
- 天然のインスリンと同様の立体構造をしている
- ”インスリン”としての生理機能を保持している
- 天然のインスリンよりもインスリン分解酵素に対して高い耐性を持っている
このような特徴があります。
セレノインスリンの応用に期待が集まっている
インスリンは体内に投与された後、最終的に腎臓でインスリン分解酵素により分解され、尿として排出されます。
セレノインスリンは、天然のインスリンと同様の構造でありながらインスリン分解酵素に対し高い耐性を示しているため、薬効が長時間体内で持続する新規持効型インスリン製剤としての応用が期待されています。
セレノインスリンの合成に成功した東海大学理学部化学科の荒井 堅太講師は、「今回の研究の成功は、創薬の新たな一歩を開くものだと考えています。この製剤が実用化できれば患者さんの負担も大きく減らすことができると期待しています。」と話しています。
今後、体内で長時間作用するインスリンが開発されれば、外出時に注射器を忘れたり注射痕を気にする心配もなくなるでしょう。
インスリン注射を必要としている糖尿病患者の負担を減らすことのできる日が、早いうちに来るかもしれません。
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