近年、各国が力を入れて研究開発している分野に宇宙開発があります。宇宙に関する研究開発が進んだ先には、我々人類が宇宙に移住することも可能になるかもしれません。
もし宇宙に移住した場合、人類だけでなく家畜も含めた生殖や繁殖が必要になってきます。
そこで、宇宙で生殖を行うことは可能なのか、山梨大学大学院総合研究部発生工学研究センターの研究チームが研究を行いました。
マウスの精子を用いた宇宙生殖実験
写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIA COMMONS
宇宙空間は無重力という環境だけでなく、強力な宇宙放射線が存在していて、生殖や継世代に影響が出るのではないかと考えられています。
今回の実験では、環境の変化に敏感とされるマウスの精子を用いて、特徴的な環境の中で、変化に敏感な精子の繁殖や飼育は可能なのか調べています。
実験に当たり、精子は室温での打ち上げ、軽量化、宇宙実験での柔軟性をかんがみてフリーズドライにされ、宇宙用3箱、地上用3箱が用意されました。
宇宙用は国際宇宙ステーション「きぼう」内に設置されている冷凍庫に、3年から5年保存され、地上用はJAXAの筑波宇宙センター内の冷凍庫で3年から5年保存します。
今回の実験では、宇宙生殖実験の第1回として2013年8月4日に打ち上げられ約9ヶ月間宇宙で保存された精子が使用されました。
実験結果
写真は国際宇宙ステーション「きぼう」。photo by WIKIMEDIA COMMONS
実験には、以下の7項目の解析が行われました。
- 精子のDNA損傷度測定
- 機器を用いた授精における受精能力の測定
- 受精卵における精子由来のDNAの損傷度測定
- 受精卵の初期発生と着床前の正常性の観察
- 世界初の宇宙マウスの出産と産仔率の測定
- 宇宙マウスの健康状態や妊娠できるかの観察
- 宇宙マウスの遺伝子解析
実験の結果、宇宙で9ヶ月保存された精子は地上で保存された精子に比べ、ほぼ100倍も被爆していることが確認されました。
そのため、精子のDNA損傷度は高くなっていましたが、受精後の精子由来のDNA損傷度は減少していました。
その他の解析結果も、宇宙で保存された精子を用いて受精されたマウスと地上で保存された精子を用いて受精されたマウスでは同様の結果が得られることが確認されました。
今回使用されたマウスの精子は9ヶ月保存されたものでしたが、畜産業における人工授精では何十年も保存された精子が用いられることもあるため、今後はさらに長い期間宇宙で保存された精子を使用して実験を行う必要があります。
今回実験を行った研究チームは今後、「様々な生物の精子を集めて宇宙船に乗せたり、精子を月の溶岩洞に保管したりすることも可能なのではないか」と提案しています。
海外の研究者たちも、今回の実験を「丁寧にデザインされた良い研究だと思います」と評価していることから、世界中がこの研究に期待を寄せていると言えます。
今後さらに研究開発が進み、生命が宇宙に移住することは、思いのほか遠くない未来なのかもしれません。
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