なぜ、人間にだけ老年期があるのでしょう-おばあさんが重要!?

[人間と動物のライフサイクルの違いは]

人間に近いゴリラやチンパンジーといった類人猿から人間を見た場合に、人間は珍しい特徴をたくさん持っています。

まずは寿命です。チンパンジーは40歳~50歳、ゴリラは35歳~50歳、人間は71.4歳と、人間が長生きなのがわかります。ほとんどの動物が人間の年齢と比較して短命であり、高齢と言われる動物はいません。


photo by WIKIMEDIACOMMONS

寿命以外にも、人間は、多産、早い離乳、長い成長期、長い老年期と大きな違いがあります。また、ほとんどの動物は、繁殖能力を失うと寿命を迎えるまでの期間が極めて短く、これは、子孫を残すための自然の摂理ともいえます。

生物学的に見ると、老人の定義は「繁殖を停止したのに生きていること」ことです。人間以外の動物には老人はいません。しかし、人間にはそのようなことはなく、老年期を迎えることができるのはなぜでしょうか。

この問題については、生物人類学者たちの間でさまざまな議論が行われました。その中でも、有名な理論が1998年に発表された「おばあさん仮説」です。

[おばあさん仮説とは]

おばあさん仮説は、人類の進化の過程という数十万年~数百年前の話です。人類が文明社会を築くより、もっと前の話です。

人間が二足歩行をするように進化するとともに、人間の脳は他の動物の脳と異なり、身体の大きさに比べて大きな脳を持つように進化します。しかし、頭が大きすぎることによって、出産時に母子ともに危険がともなうようになりました。また、生まれてきた乳児も未熟な状態です。出産、育児を一人で行うのは大変な作業です。

その上、二足歩行することで、狩猟採集生活をするようになり、食料を得るために、男は狩猟、女は採集という役割分担ができました。女のひとが子供を産むと、子育てをしながらの採集はままなりません。

そこで、人間の出産、育児を共同作業する必要性が出てきました。そのための存在が「おばあさん」になります。


 写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

おばあさんが、年老いてから出産し、母子共に生命のリスクにさらされるより、なるべく健康なうちに、自分で出産するのをやめ、自分の娘や息子の嫁の子供のために、出産や育児を助けることで、人間の繁殖と生存率を高めるように進化したというのが「おばあさん仮説」です

孫の世話をするということで、おばあさんの豊富な経験が受け継がれるともに、自分の遺伝子を残すことになり、社会学的、生物学的にも説明可能な現象とされています。

[壮大なドラマがある]

もう一つの理論として、子供期と青年期が長くなったことで、その間に体力を蓄え、かつ文化力も蓄えられ、生き延びるすべを得て、寿命を延ばしたという仮説があります。おばあさん仮説の反対意見として出てきたものです。二つの仮説ともに賛否両論があります。

人間には、大きくわけて、乳幼児~子供期、青年期~壮年期、老年期の3つの時代区分にわけられます。この区分はどうしてできたのでしょう。相互に関連してできたのか、独立してできたのか、それとも、特定の区分が伸びたことでほかの区分に影響を与えたのか、それが「人間の老年期がなぜ長いのか」と問題を解く、大きな「鍵」になります。紹介した2つの仮説は、その「鍵」になるのではないでしょうか。

まさに、人類が辿ってきたことを探求するという壮大なドラマを感じることができます。

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