妊娠高血圧症候群は、妊婦さんだけではなく赤ちゃんにも影響を与え、場合によっては合併症や母児の死亡の原因となります。
発症すると厳重な管理が必要となりますが、発症後の治療法だけではなく、発症リスク低下に効果的な予防法の確立も求められています。
妊娠高血圧症候群とは
妊娠高血圧症候群は、妊婦さんの7~10%に発症するといわれています。
妊娠20週以降、産後12週までに高血圧(140/90mmHg以上)がみとめられた場合に、妊娠高血圧症候群と診断されます。
また、高血圧に加えて、タンパク尿や浮腫が発現する場合もあり、0.3g/日以上の尿中タンパクがみとめられる場合には、妊娠高血圧腎症に分類されます。
多くは妊娠32週以降に発症しますが、32週未満の早期にも発症する場合があります。早期の発症は、重症化しやすく、さらなる注意が必要です。
重症化すると、母体では、けいれん発作や肺水腫、腎機能障害、肝機能障害や溶血、血小板減少をともなうHELLP症候群などの症状が発現する危険性が高くなります。
また、母体だけではなく、赤ちゃんにも発育不全や、常位胎盤早期剥離による機能不全が起こり、死亡につながる場合もあります。
妊娠高血圧症候群は、いまだ不明なことも多くありますが、リスク因子はいくつか判明しています。
主に、以前の妊娠時に妊娠高血圧症候群を発症した場合や高齢(40歳以上)での妊娠、初妊娠、多胎妊娠、肥満、糖尿病や高血圧、腎障害などの合併症をもっている、高血圧の家族歴がある場合などに発症リスクが高くなることが知られています。
高リスク妊婦さんに対する予防法
すでに欧米ではリスクの高い妊婦さんに対して、低用量アスピリンの投与が推奨されています。
しかし、それぞれの研究により、対象となる妊婦さんの選出方法やアスピリンの用量、服用時期などが異なり、さらなる報告がもとめられていました。
そこで、「Aspirin versus Placebo in Pregnancies at High Risk for Preterm Preeclampsia」では、早期妊娠高血圧腎症リスクの高い妊婦さんに対するアスピリン服用の有用性について報告しています。
高リスクの妊婦さんは、年齢や合併症、血液検査などの結果を組み合わせてリスクを予測し、選出しています。
選出された早期妊娠高血圧腎症の発症リスクが高い妊婦さん(単胎妊娠)を対象に、妊娠11~14週から36週までの間、アスピリン150mg/日を投与する群とプラセボを投与する群に分け、妊娠37週未満で出産となった割合を解析しています。
その結果、プラセボ群では4.3%の患者さんが、妊娠高血圧腎症が原因となり妊娠37週未満での分娩となったものの、アスピリン投与群では1.6%と、有意な低下がみられました(オッズ比0.38)。有害事象の発生率には、有意差はみとめられませんでした。
このことから、早期妊娠高血圧腎症のリスクの高い妊婦さんに、11~14週から36週までアスピリン150mg/日を投与することにより、発症・早産のリスクが低下することが示唆されました。今までに報告されている研究に比べ、よりリスク低下が期待できる結果となっています。
妊娠高血圧症候群により母児ともに合併症のリスクが高まることから、予防法の確立が求められています。
今回報告された論文により、妊娠11~14週から36週までアスピリン150mgを服用することにより、妊娠高血圧腎症の発症とそれに伴う早産のリスクが大幅に低下することがしめされました。
欧米ではすでに、高リスク妊婦さんに対してアスピリンの予防的投与が推奨されており、今後、日本での動向にも注目です。
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