乳がん初期治療後のトラスツズマブの効果


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現在、がんは日本での死亡原因トップとなっています。早期発見や医療技術の進歩により生存率は伸びてきてはいますが、それでもがんにより苦しむ人たちは数多くいます。

男女によりがんの発症しやすい部位は異なり、女性では乳房、男性では胃がんの罹患率が高いと報告されています。

女性に多い乳がんですが、最近では早期発見や治療薬の開発により、進行度合いによりますが、比較的予後のいいがんと言われています。

乳がんの特徴

乳房は母乳をつくる腺房とそれを運ぶ乳管(乳腺)や脂肪組織などからなっています。乳がんは乳管に発生することが一番多いことが知られています。

皮膚表面に近いところに発生するため、自分で触れたり観察したりすることで発見できる場合があり、早期発見にはセルフチェックや定期的な検診が大切となります。

早期に発見した場合、他のがんに比べて生存率は高い傾向にあります。しかし、乳がんは転移しやすいがんという一面ももっています。

比較的早い段階からがん細胞が血液やリンパ液にのって他の臓器(肺、骨、肝など)に転移する場合が多いと言われています。乳がんの状態や転移しているかなどによって5つのステージに分けられ、それぞれの症状に応じた治療が行われます。

乳がんの治療

乳がん治療の基本は手術になります。術式も数種類あり患者さんと医師の相談のもと選択されます。手術の後は放射線治療や薬物治療を用いて再発の防止をはかっていきます。

場合によっては手術のまえに薬物療法を行う場合もあります。薬物治療としては抗がん剤やホルモン剤、分子標的薬があり、患者さんに合った薬剤が選択されます。

その中でも今回注目するのが、分子標的薬であるトラスツズマブ(商品名;ハーセプチン)です。乳がん患者さんの中にはHER2(human epidermal growth factor receptor type2)と呼ばれるタンパク質が過剰に発現している場合があります。

トラスツズマブはHER2を阻害する

HER2は細胞増殖に関与することが知られていて、HER2の過剰な発現は乳がんの増殖に深く関わります。

トラスツズマブはHER2を阻害することによって、がんの増殖を抑える効果が期待できる薬です。臨床試験でもHER2陽性の患者さんに有効であることが報告されています。

分子標的薬は疾患がある部分に選択的に作用するため、効果が高く、比較的副作用が少ないとして注目されています。

しかし、分子標的薬の歴史は浅く、長期的に治療成果をみた報告はあまり多くはありません。そのため今後の解析に期待が集まっています。

トラスツズマブの有効性を調べる研究が行われた

2017年3月に発表された論文「11 years’ follow-up of trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2-positive early breast cancer: final analysis of the HERceptin Adjuvant (HERA) trial」では、

トラスツズマブ投与が長期的な全生存期間、無病生存期間に及ぼす影響ついて解析を行っています。初期治療(手術、放射線治療、化学療法など)を行ったHER2陽性早期乳がん患者さんを対象に

トラスツズマブ1年間投与群、2年間投与群、トラスツズマブ非投与群に分け11年間の追跡調査しています。

トラスツズマブで生存期間が延長した

解析の結果、トラスツズマブを1年間投与した群では投与していない群に比べて有意な全生存期間、無病生存期間の延長がみられました。一方で1年間投与した群と2年間投与した群を比べると有意な差はみられませんでした。

10年間の無病生存率をみると非投与群で63%、1年間投与群で69%、2年間投与群で69%という結果となりました。この結果から、初期治療後のトラスツズマブ投与は生存期間の延長に効果的であることが示唆されました。

また、トラスツズマブの投与期間については1年で十分効果があらわれることも示唆されました。

がん治療の進歩は目覚ましく、研究も活発に行われています。今後さらなる研究により、効果的な治療法が増えることが期待されます。

参照:The Lancet

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