■はじめに
舌がピリピリしたり、カーッとあつくなるような痛みを感じたりするけれども、舌を見てみても、特に変わりはない。しばらくすると痛みは消えていき、そしてまた繰り返す、そんな舌の痛みを感じたら、とても不安に感じることでしょう。
このように見た目には何の異常もない舌の痛みを生じ、繰り返す病気があります。これを舌痛症といいます。舌痛症について、まとめてみました。
写真はイメージです。 photo by photoAC
■舌痛症ってなに?
舌痛症とは、舌に生じる粘膜に変化を伴わない原因不明の痛みのことです。
後述する舌痛症の症状が似ていることから、舌痛症は口腔内灼熱症候群(こうくうないしゃくねつしょうこうぐん)という病気に含まれるという見方もあります。
舌痛症と口腔内灼熱症候群の症状は似ていますが、舌痛症は舌に生じるもののみを指し、口腔内灼熱症候群はお口全体の粘膜に生じる病態を指しています。舌はお口の一部ですから、舌痛症のことを口腔内灼熱症候群といっても間違いではありません。
ここでは、舌痛症の名称の方が広く用いられているので、舌痛症という名称で説明して参ります。
■舌痛症の特徴
○舌痛症の特徴
舌痛症の特徴は、舌の痛みが唯一の症状である点です。舌を診査しても、そこには口内炎や腫瘍、傷などの明確な病変が認められることはありません。もし、舌に口内炎などのなんらかな変化が生じている場合は、舌痛症とはみなされません。
○舌痛症の痛み方
舌に、ピリピリとした、もしくはカーッと熱くなるような痛みを生じます。ヒリヒリとさす様な痛みがするとか、しびれるという表現をされる患者さんもいます。痛みが激しい場合は、日常生活に影響が出てくることもあります。
痛みは、感じるときと感じないときがあります。仕事中や家事など、何かに一生懸命取り組んでいるときや、食事中には痛みを感じることがほとんどありません。テレビをリラックスして見ている時や寝る前など、何もしていない様な時に痛みが生じるという特徴があります。
寝る前に痛みが出ても、痛みで眠ることが出来ない様なことはほとんどありません。痛みに強弱があるので知らない間に眠っています。
痛みは、舌の先端に生じることが多いですが、舌の横側や舌の上面に生じることもあります。痛みを感じる部位が移動するという患者さんもいます。
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○舌痛症の原因
更年期障害や、ホルモンバランスの異常、自律神経失調症、心身症など、いろいろな原因が考えられていますが、現時点では舌痛症を引き起こす明確な原因は見つかっていません。
ただし、ストレスが関係していることはわかっています。社会的なストレスが強くなると、それに伴って舌痛症の症状が増してくるようになります。
お口の乾燥感を伴っている場合もあります。お口の乾燥が口呼吸だと、鼻からの呼吸に変えることで、舌痛症の症状が軽くなってくることもあります。ただし、お口の乾燥が舌痛症の原因というわけではありません。
唾液の分泌が減少し、お口や舌が乾燥してくると、粘膜が弱くなってきます。これにより少しの刺激にも非常に敏感になってきます。舌痛症でなくても、普通なら痛くならない様な刺激でも痛みを感じるになります。舌痛症の患者さんのお口が乾燥してくることにより、より感じやすくなってきます。
舌痛症とストレスの関係と同じく、お口の乾燥が原因というのではなく、舌痛症の症状の強弱に関連しているということです。
○舌痛症を起こしやすい人
舌痛症を引き起こす割合は、全人口の1〜3%ほどといわれています。
性差による発症傾向がはっきりしています。男女比をみてみると、女性の方が男性の8〜10倍とその比率は高いです。男性に生じることがないというわけではありません。
年齢層では、思春期以降のどの年齢でも生じますが、若年者に生じることは総じて少なく、50代以降に生じることが多いです。
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■舌痛症と検査
舌痛症を起こした患者さんに血液検査を行なっても、異常を示す結果は認められません。
レントゲンやCT、MRIといった画像診断を行なっても、異常は発見されません。
触診や視診によっても特に異常となる所見はありません。
客観的に舌痛症を診断する特徴的な所見がないことから、『何らかの変化がない』ということが、舌痛症の診断のポイントとなっています。
なお、MRIを使った最新の研究で、舌痛症の患者さんの脳の活動に変化が生じていることがわかりました。活動に変化が生じているのは、痛みを調整している部位です。この調整機構に何らかの異常が生じている可能性が考えられています。
■舌痛症の診断基準
舌に痛みがある、そして見た所何も異常がないというだけでで、直ちに舌痛症と診断させるわけではありません。
舌痛症と診断するためにはいくつかの条件をクリアしておかなければなりません。
まず、痛みの性質ですが、灼熱感を伴い、かつ表面部分の痛みであること、つまり、舌の表面にヒリヒリする様な痛みを感じていることということです。そして、その痛みが、3ヶ月以上、毎日かつ2時間以上にわたって繰り返している必要があります。
舌痛症のポイントである見た目には何らの異常もない、検査も正常であるということも欠かせません。
これらの条件に合致した場合にはじめて、舌痛症と診断されることになります。ただ、一時的に舌が痛いだけの様な場合は、舌痛症には該当しないのです。
■舌痛症の治療
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舌痛症は、進行性の病気ではありません。症状が軽い場合は、そのまま定期的に様子を見ることとなることも多いです。
症状に応じて薬物療法が行なわれることもありますが、鎮痛薬が効くことはありませんので鎮痛薬を処方することはないです。
薬物療法では、血行の改善目的に末梢循環改善薬、神経伝達の改善目的にビタミンB12製剤、精神の安定目的に抗不安薬が用いられますが、これらを全て処方するわけではありません。
症状に応じて単剤で処方したり、組み合わせたりして処方したりします。
これらの薬はどれも飲めばすぐに舌痛症が消失する様なことはありません。体質を改善して、徐々に治していくものです。数ヶ月、場合によっては年単位での服用が必要なことがあります。
舌痛症に対して、針治療や漢方薬など、東洋医学的な治療法が選ばれることもあります。
漢方薬では、不安神経症やうつ病の治療に使われる紫胡加竜骨牡蛎湯がよく使われます。それ以外の漢方薬では紫朴湯や麦門冬湯、紫胡桂枝乾姜湯が投与されます。
生活上の注意点としては、ストレスをためないこと、発散させることを心がけることです。ゆったりとした気分でリラックスした生活をおくるようにしましょう。
■舌痛症と間違えやすいもの
舌痛症の患者さんの中には、気になって舌をいろいろな方向からのぞきこんで、今までは存在に気がつかなかったものを発見して、更に心配になってしまう方がいます。
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○有郭乳頭
舌の奥の方に、8個前後の米粒くらいのサイズの隆起したところがあります。これを有郭乳頭といいます。
正常な組織なので、有郭乳頭そのものに痛みなどの自覚症状はありません。有郭乳頭を見ようとすると、舌をかなり前方へ突出させてのぞきこまないと見えませんので、その存在に気がつかないのが一般的です。
舌痛症の患者さんの中では、舌の縁や上面に痛みを感じて、舌の奥をのぞきこんで有郭乳頭を見つける方がいます。今までその存在を知らなかったものですから、有郭乳頭を異常なものと思ってしまいがちです。
しかし、有郭乳頭は正常な組織なので心配する必要はありません。
○舌扁桃
ヒト以外のほ乳類ではよくみられるのですが、ヒトの場合は発達が悪くあまりみられません。
舌の奥の方の縁に、やや赤みがかった球状を呈しています。
20歳以降に出現し、10〜20%ほどのヒトに認められます。刺激すると大きくなることがありますが、治療の必要性は乏しく、普通はそのまま様子見となります。
○地図状舌
舌に地図のような斑が生じる病気です。斑の形はさまざまですが、変化していきます。早い場合は、数時間で形態が変化することもあります。数ヶ月から数年にわたって変化していくこともあります。
通常はそのまま様子を見ることとなります。
○溝状舌
溝状舌とは、表面にたくさんの溝が出来た舌のことです。
舌の表面がでこぼことしているのですが、基本的には治療の必要性はありません。
隙間にものが挟まり、気になったり不潔になったりする場合は、無理に取り除こうとはせず、まずは歯科医院で相談されることをお勧めします。
○舌苔
舌苔とは、舌の上面についた白い苔の様なもののことです。
舌苔が全くないという状態はほとんどなく、多かれ少なかれ、ほとんどのヒトに認められます。
舌苔が生じたことが舌痛症を引き起こすことはありません。
むしろ、舌苔を過度に除去しようとして、歯ブラシや舌ブラシで舌をこすることで舌を傷つけてしまう方が、問題となります。
舌苔が気になる場合は、無理に除去するようなことはせず、まずは歯科医院で相談するようにしてください。
○舌圧痕
舌の縁にでこぼこした形がついていることがあります。このでこぼこを舌圧痕といいます。
これは、歯のかたです。舌を歯に無意識に強く押し当てることで歯のかたが舌についてしまった状態です。
舌圧痕は、舌が下がっていたり、歯ぎしりや食いしばりの癖があったりする場合によくおこります。
舌圧痕に対して、原因が舌が下がっていることにある場合は、舌の先を上顎前歯の付け根付近に当てるように訓練をしたり、歯ぎしりや食いしばりである場合はマウスピースを作ったりします。
■まとめ
舌痛症は、舌がピリピリしたり、カーッと熱くなる様な感じがするけれども、舌には外見上特に異常となる様なものを認めない病気です。
更年期障害やホルモンバランスの異常などが原因として考えられていますが、明確な原因は未だ不明です。ストレスとの関連性も示唆されています。
舌痛症の治療は、症状が軽ければそのまま様子見となることが多いです。痛みが辛い場合は薬物療法が試みられますが、即効性はなく数ヶ月から数年間飲み続けるようになることもあります。
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生活上の注意点としては、ストレスをためないことやリラックスすることを心がけるようにすることが挙げられます。
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