アルコール依存症は、精神面や身体面、生活面に支障をきたし、周りの人々をも巻き込むため、適切な治療が必要となります。治療は、十分な知識、経験をもつ医師のもと行われ、時に断酒を補助する薬が用いられることもあります。
アルコール依存症の治療
アルコール依存症の患者さんでは、お酒を飲みたいという欲求が強く、自分では抑えられない精神依存と、お酒をやめると手が震える、イライラする、不眠などの身体依存がみられます。
写真はイメージです。 photo by photo AC
これらの依存から回復するためには、断酒が必要となりますが、一人で克服することは難しく、専門の施設での治療や周りのサポートが必要となります。
日本でのアルコール依存症の治療は、入院治療が主体となっています。断酒だけではなく、離脱症状への対処や身体の治療、精神療法や自助グループへの参加などをふくめた心理社会的治療が行われます。
患者さんがアルコール依存症は病気であるという認識を持ち、断酒にたいする意欲を維持することが重要となります。
アルコール依存症にたいする薬
アルコール依存症の治療では、薬物療法はメインとはなりませんが、断酒維持の手助けや、離脱症状を軽減するために薬が使用される場合があります。
イライラや不眠、手の震えなどの離脱症状には、おもにベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬が用いられます。
断酒維持を目的として使用される薬は、大きく嫌酒薬と飲酒欲求を抑制する薬にわけられます。
嫌酒薬は、アルデヒドを代謝する酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を阻害する作用をもち、飲酒した場合、体内のアルデヒド濃度が上昇し、吐き気や頭痛、動悸などの二日酔いのような不快な症状を引き起こします。このことにより、お酒を飲んだら具合悪くなるから飲まないというように心理的に飲酒を断念しやすくする薬です。現在、ジスルフィラムおよびシアナミドが発売されています。
飲酒欲求を抑制する薬は、アルコール依存で亢進したグルタミン酸作動性神経活動を阻害する作用をもちます。神経伝達の均衡を回復させることで、飲酒への欲求を軽減させる効果を発揮すると考えられています。臨床研究では、飲酒欲求の低下により、再飲酒のリスクを減らすことがしめされており、現在、アカンプロサートが発売されています。
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新たな薬とは・・・
アルコール依存症の治療薬として、いままで上記の薬が使用されてきましたが、2017年10月、新しく承認申請されたのが、飲酒量低減薬「ナルメフェン」です。飲酒してしまうおそれがあるときに服用することで、飲酒欲求を抑制する効果が期待されています。
ナルメフェンは、中枢神経に広く分布し、脳内報酬系や情動制御、痛みのコントロールなどをおこなうオピオイド受容体に作用する薬です。μオピオイド受容体、δオピオイド受容体にたいしては拮抗薬として、κオピオイド受容体に対しては部分的作動薬として作用することで、飲酒欲求を抑制すると考えられています。
国内臨床試験では、多量飲酒した日数のベースラインから12週時の変化量、総飲酒量ともに、プラセボとの有意差がみとめられています。また、長期投与試験においても、多量飲酒した日数、総飲酒量ともに試験終了時まで減少が維持されたことが報告されています。
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アルコール依存症を克服するためには、継続した治療が必要となります。今回、ナルメフェンが承認申請されたことにより、今後、継続的な断酒をサポートする新たな選択肢となることが期待されています。
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