[今春のWHO総会で東アジアの伝統医学を認定へ]
今春開催のWHO総会で漢方や鍼灸などの日本の漢方医学、中国の中医学、韓国の韓医学といった中国古代医学を起源とする東アジアの伝統医学がICDに正式に取り入れられることが認定される方針であることがわかりました。
いままでのICDは西洋医学を基準としてきましたが東洋の伝統医学が追加されることになります。
―ICDってなに?―
ICDの正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」、略称は「国際統計分類(International Classification of Diseases)でWHOによって管理されている死因や疾病をコード化して分類したものです。
この分類を用いて疾病や死因について統計をとることで国際的な比較や医療機関での診療記録などに用いられています。
最新版は1990年の第10版(IDC-10)で2007年に改訂が行われています。次版のIDC-11に東アジアの伝統医学が取り入れられることになります。
―伝統医学を取り入れるまで―
東洋の伝統医学については2003年にWHO西太平洋事務局が着目して鍼灸やツボなど標準化への取り組みが最初です。
2009年のWHO会議で中国医学を起源とする東アジア以外の伝統医学も取り込むかの議論やWHOジュネーブ本部のプロジェクトとして「国際伝統医学分類(ICTMEA)」の作成開始が始まりました。
2010年の会議で中国医学を起源とする東アジアの伝統医学を取り入れる計画が決まり、2016年の東京国際フォーラムにてWHO加盟国に対して正式にリリースされました。
IDCに取り入れられる東アジアの伝統医学。最初に東アジアを含む「東洋の伝統医学」をみてみませんか。
[東洋の伝統医学と漢方医学]
東洋の伝統医学は「東洋を起源とする伝統医学全般」を指します。中国医学を起源とする中国の中医学、日本の漢方医学、韓国の韓医、インドのアーユルヴェーダ、西アジアのユナニ医学、チベットのチベット医学などがあります。
日本の漢方医学は日本に5世紀~6世紀ごろに入ってきた中国医学が日本で独自に発展したものです。漢方薬を使用する漢方医学と鍼や灸を使用する鍼灸医学があります。漢方医学で使用される漢方薬は漢方医学に基づいて処方される日本独自のものです。
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―東洋の伝統医学の考え方は―
東洋の伝統医学の考え方はそれぞれの医学で異なります。共通するいくつかの特徴をあげてみましょう。
・患者さんのからだやこころの状態や患者さんを取り巻く環境などはひとりひとりで異なります。そのような考え方からひとりひとりの患者さんにみあった治療が行われます。
・病気はからだ全体のバランスが崩れて起こるという考えから病気の治療はからだ全体の自己治癒力を高めることだとされています。
・伝統医学の考え方を生活に取り入れることで病気を未然に防ぐことや病気とは診断されない「未病-不定愁訴」の段階で対処するとことも行われます。
これに対して西洋医学では患者さんに現れた病気や症状に対して治療を行います。伝統医学は患者全体をマクロ的判断する、西洋医学は特定の部位に特化してミクロ的判断するともいわれています。
しかし、どちらがいいというわけではありません。たとえば一刻を争う病状や手術などが必要な場合などには西洋医学でないと対処しきれません。
―東アジアの伝統医学の現状、とくに漢方医学は?―
東アジアの伝統医学の現状
欧米などでも東アジアの伝統医学は注目されて研究が進められています。しかし、中心になっているのは中医学です。日中韓の伝統医学が共有する部分はありますが理論、用語、処方などで大きな違いがあります。日本の漢方医学は国際的には認知度が低いといわれています。
「証」と漢方薬のはなし
中医学や漢方医学では「証」を用いるのが特徴です。「証」とは弁証ともいわれる「触診、問診、脈診」などから導き出される患者さんをからだ全体からみた状態です。西洋医学にあてはめると病名もしくは診断名にあたりますが異なるものです。
日本の医師の80%~90%が漢方薬を使用しているとの報告がありますが、その半数以上は西洋医学の診断にもとづいて用いています。
漢方での見立てをせずに漢方薬をもちいることは効果がえられない場合や「誤治-西洋医学でいうところの薬の副作用や医療ミス」につながる懸念があるとされています。
漢方の世界では副作用という概念は存在しません。「誤治」はすべて「みたて違いによる医療ミス」と考えます。ただし、西洋医学の診断で漢方薬をもちいることのすべてが間違いであるということではありません。
このような東アジアの伝統医学をWHOが取り入れようとしているのはなぜでしょうか。
[ICDに伝統医学を取り入れる理由と意義は]
いままでのICDは西洋医学中心のものですが世界各地に伝統医学は根付いています。ICDの目的のひとつに国際的な統計をとることがあります。西洋医学中心の考えでは統計を取れるのが西洋や先進国に偏ってしまい人口の密集するアジアなどでは十分な統計が取れていませんでした。
このような格差を解消するためにも伝統医学を取り込むことでより多くの統計情報を得ることが目的です。また、西洋医学と東アジアの伝統医学が肩を並べることにもなります。
ICDに東アジアの伝統医学が取り入られることにはいろいろな意義があげられます。
・従来のICDの分類に伝統医学の疾病分類を記載できるように「証」を割り当てます。これにより「証」への理解が深まり伝統医学を考慮した効果的な治療が行えるようになることが期待されています。
・いままで伝統医学の統計は存在していませんでした。ICDに取り入れられることでデータの集積が可能になって実態調査や科学的な解析も促進されると考えられています。
・東アジアの伝統医学の分類が明確化されることで,東アジア諸国間もしくはもっと大きな範囲で伝統医学の国際学術交流が盛んになることも期待されています。
東アジアの伝統医学がICDに取り入れられることが現在の医療にプラスの方向になる影響となるといいですね。また、東アジア以外の伝統医学がどのようになっていくかも注目されるところです。
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