[世界の三大伝統医学]
世界の三大伝統医学を御存じでしょうか?。
世界三大伝統医学とは、現代医学が発達する以前に、世界各地の文化のもとで発達してきた医学で、「ユナニ医学」、「中国医学」、「アーユルヴェーダ」のことを指します。
「ユナニ医学」の起源は古代ギリシャ医学で、イスラム世界で発展した医学です。「ユナニ」とはペルシャ語で「ギリシャ風の」と意味があります。四体液説におけるバランスを重視します。
「中国医学」(中医学)は、中国を中心とする東アジアを中心に発展した医学です。一つ一つの臓器で捉えるのではなく、すべてが関連して人間全体として捉え、陰陽・五行のバランスを重視します。日本の漢方は、中国から伝来した医学が日本で独自に発展したものです。
「アーユルヴェーダ」は、インド、スリランカの伝統医学です。トリ・ドーシャと呼ばれる3つの要素のバランスを重視しています。
どの伝統医学も、バランスを重視し、病気予防、自然治癒力などで考え方の根源は共通するものがみられます。
今回は、もっとも古いと言われ、西洋医学の代替手段としてWHO(世界保険機構)からの認定を受け、予防医学として注目されている「アーユルヴェーダ」を見ていきましょう。
[アーユルヴェーダとは]
photo byAmila Tennakoon
アーユルヴェーダは、サンスクリット語の「アーユス(Ayus=生命」と「ヴェーダ(Veda=知識、学問、真理)」を意味します。「生命の科学」、「生命の知恵」ともいわれ、インド・スリランカに伝わる伝統医学です。その歴史は古く3000年~5000年前と言われています。
心身共に調和のとれた健康的な生活おくる方法、つまり、病気を治癒すると言う事よりも、病気になりにくい心身を作ることである「予防医学」を重視しています。
また、病気と言う医学的側面にとどまらず、自然の変化や調和の法則を土台にして生活(人生)、生命、精神などの哲学の概念も含んでいます。良い生命、より良い人生までも追及するものです。
インドでは、長年、アーユルヴェーダが医学の主流をなしていましたが、17世紀から18世紀のイギリスの進出により、インドはイギリスの植民地となりました。
その結果、入ってきたのが西洋医学です。徐々に、アーユルヴェーダは衰退し、民間医療として考えられようになりました。
第二次世界大戦後、インドは独立を果たし、再び、アーユルヴェーダの研究や教育や推奨され、インドやスリランカでは西洋医学と並行する形で存在するようなりました。
現在のインドでは、急性の場合は西洋医学、傷みの緩和や健康推進や病気予防にはアーユルヴェーダという形で選ぶことができるようなっています。
また、1970年代以降は先進諸国から、東洋のさまざまな療法に目が向けられるようになり、1980年代初めにアーユルヴェーダの散逸していた知識の再編行われました。
現代医学の立場から科学的な検証も加えられ、改めて世界から注目を浴びるようになりました。現在では、代替医療として慢性疾患や生活習慣病などの治療を補うべく、取り入れられるようになっています。
アーユルヴェーダの治療は、単に、病気を治すだけではなく、食事、生活の指導、個人に合わせた運動や精神療法を勧め、「病気にかかりにくい体質にする」という予防医学の考え方も含んでいますので、ホリスティック医学(身体、心、命を全体として考える医学)としても、注目が集まっています。
[アーユルヴェーダの基本的な考え方]
photo byAmila Tennakoon
アーユルヴェーダにおいては「健康な心身の状態」を定義し、それらを維持すために、どのような生活を行えばよいのかという事が基本的な考え方です。
これらの実践のためのパンチャカルマ(身体浄化法)、食事療法(医食同源)、ヨーガ、瞑想から、本来、人間の持っている自然治癒力を高めることによって心身ともに健康が保たれるとしています。それにより、病気になりにくい心身をつくること、つまり健康を維持し病気を防ぐという「予防医学」を大切にしています。
これは、特別なものではなく、単に、日常の一部として考えられています。インドにおいては、人が一生を送っていくうえで、どのようにすれば心身共に幸せに健康に暮らしていけるかを示したのがアーユルヴェーダで、日常生活の様々な場面で活かされていくものとしています。
例えば、日の出の1時間前には起床し、自然界のエネルギーに合わせた活動を行い、食事においては決まった時間に、地元の物、旬の物を食べ、食事をとる時間も、季節に適した量や内容をとるように勧めています(食事に重きにも置かれています)。
アーユルヴェーダの病気に対する考え方は、「健康な心身の状態」が崩れたという観点で、治療は、心身とも全体を整えることになります。
これらは、決して民間療法でなく、病気の治療だけでなく、病気の予防や健康の維持といったトータルな意味な観点で、健康な体を目指す緻密な「科学」と言えるでしょう。
アーユルヴェーダには、人間は本来持っている体質があり、それを活かしながら、心身のバランスをとる重要性を説いており、「トリ・ドーシャ」という特徴的な考え方があります。
[トリ・ドーシャとは]
トリ・ドーシャと五大の関係 photo by wikipedia
「トリ・ドーシャ」の「トリ」は「3」、「ドーシャ」は「悪化させるもの、汚染するもの」と意味します。
ドーシャは「カパ」、「ピッタ」、「ヴァータ」に分けられ、身体の現象の基礎となっており、日々の身体の状態や季節によって個々の体調に個人差が出るのも、ドーシャの動きに影響によるものとして考えます。
ドーシャの説明をする前提として、アーユルヴェーダでは、五大元素(マハーブータ)である「地」、「水」、「火」、「風」、「空」のエネルギーが、すべてのものに存在するものとしています。このエネルギーの増減が心身の変化に影響を及ぼすとしています。
地 | 安定、重さ、遅い、堅い、 広い |
水 | 涼しい、湿っぽい、 滑らかさ |
火 | 情熱、熱さ、鋭さ、変化 |
風 | 自由、 乾燥、 軽い |
空 | ゆとり、落ち着き、「地、水、火、風」へ運動の場を与える |
これらの五大元素を組み合わせたものが「ドーシャ」で、この機能が正常の状態の時に健康、乱れた状態の時に病気になるとしています。アーユルヴェーダの考え方では、健康と病気は相対するものではなく、一つの線上の連続した存在として捉えます。
ヴァータ | 元素 | 風、空 |
特徴 | 運動の生命のエネルギー(循環機能、呼吸機能) | |
性格 | 痩せ型、活動的、陽気、心配性、疲れやすい、睡眠が短いなど | |
病気 | 呼吸器系疾患、精神・神経疾患、循環器障害 | |
時期 | 14時から18時、夏、老年期 | |
ピッタ | 元素 | 火 |
特徴 | 変化の生命のエネルギー(消化機能、代謝機能) | |
性格 | 中肉中背、情熱的、野心的、イライラし易い、プライドが高い、食欲旺盛など | |
病気 | 消化器系疾患、内臓疾患、皮膚病 | |
時期 | 10時から14時、秋、青~壮年期 | |
カパ | 元素 | 水、地 |
特徴 | 安定の生命エネルギー(免疫機能) | |
性格 | ふくよか(肥満)、穏やか、落ち着きがある、礼儀正しい、寛大など | |
病気 | 気管支疾患、糖尿病、関節炎、アレルギー | |
時期 | 6時から10時、春と冬、乳幼児期 |
ドーシャは個人によって異なり、性格や体質の違いとなって現れます。一人の人間が、いずれか一つのドーシャしか持っていないと言うことはなく、すべてのドーシャを持っています。ただし、人によって、一つのドーシャが優勢、二つのドーシャが優勢、三つともにドーシャが優勢と分かれます。
ドージャには増大するサイクルがあり(上表の「時期」)、その人の優勢なドーシャが増えやすいサイクルの時に、ドーシャのバランスを崩しやすいと考えられています。食べ物や日常の行動(肉体的、精神的にも)などでもドーシャの量は変化すると言われています。
体質に合わせた食事、生活、病気になった場合には体質に合った治療が必要になるとされ、正常な状態を「プラクリティ」、バランスが崩れている状態を「ヴィクリティ」と言います。
ドーシャが正常な状態から、増大もしくは増悪すると病気を引き起こすと言われています(上表の「病気」)。また、バランスを崩す要因として、体質の変化、生活習慣や生活環境があるとしています。
アーユルヴェーダでは、この「プラクリティ」と「ヴィクリティ」を把握することで、「プラクリティ」の状態の維持を第一とし、「ヴィクリティ」を「プラクリティ」に回復するための方法も示し、バランスの取れた状態を実現させることも目的としています。
[アーユルヴェーダと予防医学]
photo by Amila Tennakoon
アーユルヴェーダは、人間の体質を細かく研究しており、自分の体質を知り、食生活、日々の過ごし方、メンタル面の整え方、病気の予防、不定愁訴などの対処法まで、年齢ごとの過ごし方などを総合的に指し示すインドにおける科学と考えられています。
現代社会に、生きる私たちを考えた時に、まさに、ドーシャのバランスを崩している生活を送っているとは考えられないでしょうか。その為に、さまざまな病気にもかかり、体調を悪くしている事が充分に考えられます。東洋医学に「未病」と言う言葉ありますが、多くの方が「未病」の状態ではないでしょうか?。
例えば、アーユルヴェーダの観点からみますと、徐々に進行していく病気などは、まさに、未病の状態が時間をかかって悪化し発症すると言えます。
初期の段階で、アーユルヴェーダの観点から診断を受けて、治療を受けていれば、疾病の発症を予防できると考えられます。それゆえ、日々の生活における「予防医学」としてのアーユルヴェーダの必要性は大きいものと言えます。
欧米の病院では、すでに、アーユルヴェーダを「予防医学」として取り入れられています。日本でも、アーユルヴェーダが広まっており、取り入れている病院もあります。
アーユルヴェーダを本格的に取り入れるとなりますと、専門家もしくは指導者による、コンサルティングが必要になりますが、病気を未然に防ぐという「予防」ということは、常に、心がけるべきでしょう。
photo byAmila Tennakoon
まず、私たちができる可能な事は「食事」からではないでしょうか。アーユルヴェーダでも食事は重要なものとされています。身体に優しい食事(可能なら、季節にあった食事)が大事ではないでしょうか?。
アーユルヴェーダの考え方に従いますと日本人が「和食」を摂ることは大事だと考えられます。食生活の欧米化によって増えた病気の多さは数えきれません。まさに、アーユルヴェーダの考え方の一端を垣間見ることができます。
まずは、自分の身体を知り、自分で守ることを意識するとこからはじめるのが、肝心な事であることに間違いはないでしょう。
最後になりますが、アーユルヴェーダについては、奥が深く、ほんのさわりだけをご紹介のなったことを付記いたします。
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