種々の抗うつ薬の効果と安全性の比較

うつ病の患者数は増加傾向にあり、16人に1人が生涯でうつ病を経験するともいわれるほど身近な疾患です。早めに治療を始めるほど回復も早いといわれており、無理せずに専門機関に相談し、適切な治療を受けることが大切です。


写真はイメージです。 photo by photo AC

うつ病とは

誰しもが、気分の落ち込みや意欲の低下を感じることがありますが、うつ病は、そのような日常で感じる一時的な感情の起伏とは異なります。

発現する症状は人によって違いますが、言葉では表現しようのないほど気分が重い、何に対しても興味がわかない・楽しくないなどの状態が、ほぼ一日中感じられ、2週間以上続くことが、うつ病と診断するめやすとなります。精神的な症状以外にも、睡眠障害や食欲の低下、倦怠感、動悸などを感じることもあります。

うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレス、環境の変化などさまざまな要因が重なり、脳の機能障害が起きている状態です。

脳内の情報伝達には、多くの神経伝達物質が関わっていますが、うつ病では、何らかの原因で神経細胞間のセロトニンとノルアドレナリンの量が減少していることが報告されています。これらの神経伝達物質は、気分や意欲、記憶などの人の感情にかかわる情報をコントロールしていると考えられており、減少することで情報が上手く伝達できず、さまざまな症状があらわれると推測されています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

うつ病の治療では、患者さんにあった治療法が選択されますが、一般的に、抗うつ薬を用いた薬物療法や心理的治療が行われます。

現在臨床で使用されている抗うつ薬にはいくつかの種類があり、日本では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性、特異的セロトニン作動性抗うつ薬)、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬がおもに用いられています。

抗うつ薬の効果・副作用の比較

現在、さまざまな抗うつ薬が治療に用いられていますが、それらの薬の効果や安全性を網羅的に確かめた研究は今まで行われていませんでした。そこで、「Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis」では、これまで世界各地で行われてきた、大うつ病にたいする抗うつ薬のランダム化比較試験で、二重盲検化されている研究を収集し、21種の抗うつ薬の効果と副作用で中止した割合を比較しています。

対象となった抗うつ薬は以下の通りです。

○SSRI;シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン
○SNRI;ベンラファキシン、デュロキセチン、レボミルナシプラン、ミルナシプラン
○NaSSA;ミルタザピン
○SSRI・部分的5-HT1A受容体刺激作用;ビラゾドン
○SSRI・5-HT1A受容体刺激作用・5-HT1B受容体部分的刺激作用・5-HT3、1D、7受容体拮抗作用;ボルチオキセシン
○SSRI・5-HT2受容体拮抗作用;トラゾドン
○SSRI/SNRI・5-HT2拮抗作用;ネファゾドン
○ノルアドレナリン・ドパミン脱抑制薬;アゴメラチン
○ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬;ブプロピオン
○選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬;レボキセチン
○三環系抗うつ薬;アミトリプチリン、クロミプラミン

解析の結果、21種全ての抗うつ薬でプラセボよりも効果があることが確認されました。

プラセボと比較した効果の現れやすさを表すオッズ比では、アミトリプチリンで2.13であったのに対し、レボキセチンでは1.37と、薬剤間で差がみられました。また、プラセボと比較した副作用による投薬中止の割合では、アゴメラチン(オッズ比0.84)およびフルオキセチン(オッズ比0.88)で割合が低かったのに対し、クロミプラミンではオッズ比1.30となり、飲み続け易さにおいても薬剤間で差がみられることがわかりました。

薬同士を直接比較した臨床試験では、アゴメラチン、アミトリプチリン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセシンが、他の抗うつ薬よりも効果が高いことが示唆されました(オッズ比1.19~1.96)。一方で、フルオキセチン、フルボキサミン、レボキセチン、トラゾドンのオッズ比は、他の薬と比べると低い結果となりました(オッズ比0.51~0.84)。

副作用で投薬を中止する割合は、アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、レボキセチン、トラゾドン、ベンラファキシンで高く(オッズ比1.30~2.32)、アゴメラチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、セルトラリン、ボルチオキセシンは他の抗うつ薬に比べ、低い結果(オッズ比0.43~0.77)となりました。


写真はイメージです。 photo by pixabay

今回、21種の抗うつ薬の効果・安全性を網羅的に調べたことにより、より効果の強い薬や比較的副作用の起きにくい抗うつ薬がしめされました。医師の経験や印象だけではなく、エビデンスに基づいた治療薬を選択する際に、重要な参考情報になると考えられると著者らは記しています。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました