先日まで放送されていた医療ドラマでロボット手術が出てきましたよね。ロボット手術の認知度が上がったのではないでしょうか。「ロボット手術ってなに?」という方も多くいると思います。
ロボット手術といっても、AIを備えたロボットがまるでSF映画のように手術するわけではありません。正式名称は「ロボット支援下内視鏡手術」といいます。
からだに開けた数ヶ所の穴から内視鏡や手術器具を差し込んで行います。従来からある腹腔鏡や胸腔鏡を使用した内視鏡手術をロボットの助けを得て行う手術のことです。
ロボット手術は、保険適用が前立腺がんと腎臓がんの一部でしたが、2018年4月の診療報酬改定時に12種類の手術が適用範囲になりました。
胃がん、食道がん、直腸がん、肺がん、膀胱がん、子宮がん、縦隔腫瘍、心臓弁形成の手術が対象になります。なお、術式として対象になっただけなのでそれぞれのがんごとに対象なる手術は限られます。
保険適用が増えたたことで、ロボット手術がおこなわれる可能性が高くなったとも考えられます。ロボット手術とはどのようなものか知っておくことも必要かもしれませんよね。
さっそく、ロボット手術についてみていきましょう。
[ロボット手術はどういうものなの]
現在、日本で承認されている手術ロボットはアメリカ製の「ダヴィンチ」のみです。
ダヴィンチは1999年に完成。2000年にFDAの認可が下りて医療現場で使用されるようになりました。
日本では、2000年に慶応大学が最初の導入をしてからほかの大学や医療機関でも導入され治験が繰り返されて2009年に薬事承認されました。けっして新しいものではなく、保険適用まで進んだというところです。
ダヴィンチは、からだに開けた数か所の穴から細長い内視鏡カメラ、超音波メス、鉗子などの手術用器具を3~4本のロボットアームに装着して体内に挿入します。
執刀者は、サージョンコンソールといわれる操作台に座って、レンズを通してモニターに映し出される3D映像を見ながら遠隔操作する形で手術を行います。
ロボットのアームには関節が7つあって、人間の手以上にスムーズに動くことで執刀者の動きを忠実に再現します。手元で10センチ動かしても、実際のアームは2センチしか動かないので細かい作業がしやすく手ぶれ防止機能も備えています。
従来の腹腔鏡や胸腔鏡を使用した内視鏡手術は、おなじようにからだに穴をあけて器具を挿入して手術します。
開腹手術と異なり、からだへの浸潤が少なく退院までの期間が短くてすみます。この点はダヴィンチも同じです。
内視鏡手術では、内視鏡を通して映像をみながら行いますが2D映像のために奥行きの把握しづらく慣れが必要です。
また、器具を安定させるために患者の体の穴の部分を支点にして動かします。そのために体内で動かしたい方向と外から器具を動かすには逆方向に動かす必要があります。
ダヴィンチは、ロボットアームに器具を取り付けて安定させているのでそのようなことはありません。器具が曲がる自由度が大きいのも特徴で角度的にむずかしい場所でも操作しやいようになっています。
これらの点から、腹腔鏡や胸腔鏡を使用した内視鏡手術よりも操作がしやすいといわれています。
このようにみていくと、ダヴィンチはすごそうですよね。ダヴィンチは、今後はどのようになっていくのでしょうか。
[ロボット手術の今後は]
最初に保険適用されていた前立腺がんと腎臓がんの手術についてみていきましょう。
前立腺がんは、前立腺が骨盤の深い位置にあるために周囲の血管や神経を傷つかないようにおこなうためにはむずかしい手術でした。
ダヴィンチを使用することで、ロボットのアームが奥深いところまで届きスムーズな手術が可能になりました。
前立腺がんの手術の7割~8割がロボット手術といわれています。腎臓がんについては評価中ですが手術件数は増えています。
あらたに保険適用された12の手術はどうなのでしょうか。いくつかの課題が指摘されています。
◇ダヴィンチを使って保険適用の手術行うためには、有効性や安全性を確保するために手術ごとに施設基準が細かく症例数、特定の医師の数、医師の技術基準(資格)などが定められています。この施設基準をクリアする必要があります。
◇ダヴィンチの本体価格は3億円前後、維持費は年間2~3千万円、使い捨てのアームなどの消耗品が1回の手術当たりおよそ40万円とコストが大きくかかります。
さらに、新しく保険適用となった手術は、腹腔鏡や胸腔鏡を使用した内視鏡手術と手術費用は同額とされました。病院は費用の持ち出しが起きかねません。これはロボット手術の有効性や安全性に対する確実な評価が定まっていないことにあります。
◇ダヴィンチのメリットについて、泌尿器科分野ではすでに保険適用が認められている前立腺がんなどについては評価が定まったものがあります。
消化器外科分野では、藤田保健衛生大学病院の研究で胃切除については腹腔鏡下の内視鏡手術で生じる合併症をダヴィンチ手術では1/3にまで減らせたことが報告されました。ある程度のメリットも確認されていて取り組みは進んでいます。
ほかの分野では、積極的に取り組んでいる医療機関はありますが有効性や安全性などの定まった評価がないのが現状です。全体としてみると、取り組みが進めはじめられたというところでしょうか。
ロボット手術が、一般的に広く使われるようになるのは一部の手術を除いて、もうしばらく時間がかかるかもしれませんね。
しかし、その間に症例数が重ねられメリットや問題点が明確になり、ロボット自体も進化していくと考えられます。ダヴィンチを上回る性能でコストを抑えた国産ロボットの開発も進められています。
2年後の診療報酬改定時に、なんらかの変更がされることも考えられます。ロボット手術が広く行われるようになるのはこれからではないでしょうか。
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