約2000年前に書かれた中国の「漢書」のなかに、「酒百薬之長、嘉會之好」という記載があります。
おおまかに意訳してみると「酒は多くの薬のなかでもっとも秀でていて、めでたい席でたしなむのにふさわしい」。「酒は百薬の長」といわれる語源となった言葉といわれています。
一方、鎌倉時代末期に書かれて徒然草の中に、「酒は百薬の長というけれど、酒はいろいろな病気の元である。理性を失い、善を焼き尽くし、よろずの戒めを破り、地獄におちる」とちょっと怖いことが書かれています。
ここから「酒は万病の元」、「酒は百悪の長」ともいわれるようになったといわれています。
いにしえの昔からいわれている「酒は百薬の長」と「酒は万病の元」。古来よりお酒は生活の中でから切り離すことができなかったこともうかがい知ることができますね。
お酒の飲みすぎはからだによくありませんが、適量のお酒はからだに良いって聞いたことはありませんか。逆に、ちかごろでは酒は百薬の長ではないとも耳にします。はたして「酒は百薬の長」なのでしょうか。
[適量のお酒がからだにいいと言われるのはなぜなの]
適量のお酒がからだにいいという根拠の一つになっているのが、飲酒の適正量をあらわす「Jカーブ」と呼ばれているグラフです。
もともとはイギリスの医学者マーモットが、1981年に提唱した「毎日、お酒を適量飲んでいる人のほうが死亡率は低い」という考え方が基になっています。
グラフで表すと、J字型曲線になることから「Jカーブ」といわれています。
グラフ一番左側がお酒を飲まない人で死亡率を「1」として飲酒量と比較しています。
Jカーブが一番下がっているのは、1日のアルコールの摂取量約20g未満です。
アルコール摂取量が約20gはどのくらいの量になるかみておきましょう。
ビール | 中びん1本(500ml) |
日本酒15度 | 1合 |
焼酎25度 | 0.6合 |
ウイスキー43度 | ダブル1杯 |
ワイン14度 | 1/4本 |
缶チューハイ5度 | 1.5缶 |
この研究については、お酒を飲まないグループに飲酒歴があって病気などが原因で禁酒をしている人が含まれている、体質や喫煙習慣などさまざまな要因が考慮されていないとの指摘がありました。
その後、世界各国でさまざまな要因の影響を配慮するようにした研究が行われてきました。日本でも研究は行われています。
20歳~39歳の若年層が含まれていませんが、若年層の場合には「Jカーブ」を示さずに直線を示すといわれています。
WHOによると、若年層の死亡原因の25%はアルコールに起因していると報告されています。
グラフの「禁酒者」は、以前に飲酒していて病気などの理由で現在禁酒している方です。これらの方の死亡率が高いのはなんらかの健康問題を持っているからだと推測されています。
がん、心血管疾患、総死亡数で、男女とも1日23g未満で最もリスクが低くなっていますね。
病気との関連性についてはわかりやすいグラフも公表されています。
海外の研究においても、心血管疾患については同じような結果が報告されています。単純に考えると適量の飲酒はからだに良いということになりますよね。
適量の飲酒は、心臓病を予防する善玉コレステロールの量を増やして悪玉コレステロールを抑える効果があるといわれています。
2型糖尿病について、適量の飲酒が発症率が低下させるという研究結果を裏付ける論文が発表されています。
お酒には食欲増進やストレス解消などの効果があるともいわれています。コミュニケーションを深めるのにも一役かうこともありますよね。
しかし、適量の飲酒のリスクが小さいからといって、その原因が適量の飲酒とは限りません。相関関係と因果関係を一概に結びつけることがむずかしいからです。
たとえば、適量の飲酒者のリスクが小さいのは適量のアルコールが体に良いわけではなく、ほかに健康に良い生活習慣と関係しているからということも考えられます。
お酒をまったく飲まない人は、なんらかの健康的な不安があるので飲酒しないといった人も存在する可能性があります。この可能性を踏まえると非飲酒者の見かけ上のリスクが上がるかもしれません。
オーストラリア国立薬物研究所(NDRI)の研究では、お酒と健康の関連を調べた過去の論文87件を分析。「病気による飲酒の是非」を考慮していない論文をすべて除外した上で残りの論文を改めて分析し直しました。
その結果、研究チームは適量の飲酒が動脈硬化症や冠動脈疾患などで一部の疾患リスク低下と関係があることは認めつつも、「適量の飲酒がお酒を飲まない人より健康的で長寿をもたらすという結果は得られなかった」としています。
この研究結果について、見方を変えてとらえると「適量の飲酒が良いか悪いかわからない程度しか健康には影響を及ぼさない」といいかえることもできるとの指摘もあります。
[結局、お酒は百薬の長なの?]
お酒と健康について膨大な数の論文が発表されていますが、お酒が百薬の長なのかどうかについて決定打となるものはないといわれています。
確実な検証をするのが難しいのは、飲酒がさまざまな生活習慣や社会的状況などに深く関連しているので、これらの要因をすべて排除することがむずかしいからだといわれています。
もちろん、これまでのさまざまな研究からわかっていることもあります。Jカーブの研究からみてみましょう。
・「高血圧、脂質異常の持病のある方、肝機能の数値がよくない方、乳がんに罹患した人が身内にいる方」などは少量の飲酒でもリスクが高まる可能性があります。
・健康に問題がなければ、過度に神経質になることはなく楽しむ程度に飲酒しても構わないでしょう。
まずは、健康であることが大事ですね。ご自身の健康を考えて、飲みすぎることがないようになるべくご自身の適量を守ってお酒を楽しんでくださいね。
お酒が百薬の長となるのは、あなた次第なのかもしれません。
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