妊娠初期のリチウム製剤服用と心奇形リスクの関連性

妊娠中に薬を服用する場合、母体だけではなく胎児への作用も考慮しなくてはいけません。それぞれの薬が胎児に及ぼす影響については明らかになりつつありますが、中にはまだ研究が必要とされている薬もあります。

妊娠と薬の影響


写真はイメージです。 photo by maxpixels

妊婦中に薬を服用した場合、成分が胎盤を通過し胎児にも影響を与えることがあります。薬による影響は主に、奇形が起こる催奇形性と発育や機能に影響を及ぼす胎児毒性に分けられます。

催奇形性は4~12週目の妊娠初期に起こりやすく、この時期に薬を服用する場合には特に注意が必要です。妊娠初期は中枢神経や心臓、手足などの重要器官を形成する時期であり、薬による影響を受けやすいと言われています。ごく限られた薬ではありますが、一部の抗てんかん薬や免疫抑制薬などで催奇形性のリスクが高くなることが報告されています。

一方、胎児毒性は妊娠初期よりも中期~後期の方が発現しやすいと言われています。薬により及ぼす影響は異なりますが、一部の抗菌薬や鎮痛剤などで聴力障害や腎障害、羊水減少などが起こるリスクが高くなることが知られています。

催奇形性や胎児毒性が報告されている薬は、服用を避けることが基本ですが、疾患によっては症状を維持するために飲み続けることが必要となることもあります。自己判断で服用を止めずに、担当医と相談しながら服用を決めることが大切です。

リチウム製剤と妊娠のかかわり

前述した薬の他にも催奇形性が疑われる薬がいくつかあり、リチウム製剤もそのひとつです。

リチウム製剤は主に躁うつ病の治療薬として使用される薬です。躁状態の改善や再発防止に効果があり、広く普及しています。


左は正常な心臓、右がエプスタイン奇形 photo by Wikipedia

長期的に服用することも多い薬ですが、妊婦が服用することでエプスタイン奇形(右室流出路狭窄)などの心奇形リスクを上昇させる可能性があることが報告されており、妊娠中の服用には注意が必要となります。

ただ、リチウム製剤と心奇形の関係性を報告しているデータは限られており、さらなる研究が必要とされています。そこで2017年6月に発表された論文「Lithium Use in Pregnancy and the Risk of Cardiac Malformations」では妊娠初期のリチウム製剤の服用と心奇形リスクとの関連について報告しています。

このコホート研究では、妊娠初期にリチウム製剤を服用した群としていない群、気分安定剤として使用頻度の高いラモトリギンを服用した群を比較し、胎児の心奇形リスクについて解析を行っています。

その結果、非服用群で1.15%、リチウム服用群で2.41%、ラモトリギン服用群で1.39%の割合で胎児に心奇形がみられました。非服用群とリチウム服用群とを比較したリスク比は1.65となりました。服用量別のリスク比をみると600mg/日以下で1.11、601~900mg/日で1.60、901mg/日以上で3.22となり、服用量が増すごとにリスクも上昇する結果がみられました。エプスタニン奇形に焦点を当てると、非服用群では有病率が0.18%、リチウム服用群では0.60%となり、リスク比2.66となりました。

このことから、妊娠初期のリチウム服用は胎児の心奇形発生リスクと関連することが示唆されました。

妊娠中はより一層、効果とリスクを考慮した治療が必要となります。今後も妊婦に対する薬物治療の研究が続き、より多くの情報が報告されることが望まれています。

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