30年以上にわたって使用されてきたノイロトロピンの作用機序が徐々に分かってきた

現在、慢性疼痛で悩む患者さんは全人口の20%以上にも及ぶと言われています。痛みはQOL低下の原因ともなるため、多くの場合治療が必要となります。症状を改善するために外科的治療やリハビリ、薬物治療などさまざまな治療法が行われています。

痛みをおさえる鎮痛薬

痛みにはいくつかの種類があり、切り傷や骨折などの炎症、刺激による侵害受容性疼痛、神経が圧迫されたり傷ついたりことで起こる神経因性疼痛、心理的または社会的な要因により起こる心因性疼痛に分けられます。


写真はイメージです。 photo by Max Pixel

疼痛に対する薬物治療は痛みの種類や程度を考慮し患者さんに合った鎮痛剤が選択されます。鎮痛剤は作用機序によっていくつかに分類され、現在最も使用されているのは痛み物質の生成を抑制することで抗炎症・鎮痛作用を発揮するNSAIDsです。

その他、神経の過剰な興奮を抑えることで神経因性疼痛を改善する薬やステロイド薬、抗うつ薬、抗てんかん薬などが用いられることもあります。

四半世紀以上使用されているノイロトロピン

数多くある鎮痛剤の中にノイロトロピンという薬があります。発売から30年経つ薬であり、主に神経因性疼痛の改善に活躍しています。


ワクシニアウィルス photo by Wikipedia

ノイロトロピンはワクシニアウィルスを接種したウサギの炎症皮膚組織から抽出した、非タンパク性の生理活性物質を含む錠剤で、帯状疱疹後神経痛・腰痛症・頸肩腕症候群・肩関節周囲炎・変形性関節症に適応をもつ鎮痛剤です。副作用のリスクも低く、臨床で広く使用されています。

昔から使用されているノイロトロピンですが、作用機序については詳しく分かっていません。

今のところ、痛みの信号が伝わるのを抑制する下行性疼痛抑制系神経を活性化することで疼痛作用を発揮することや、発痛物質ブラジキニンの遊離を抑制する作用、末梢循環改善作用により症状を改善することが考えられています。

ノイロトロピンの作用のしくみ

しかし、最近研究が進み、徐々に詳細なメカニズムや新たな可能性がしめされつつあります。

2015年に発表された論文「Neurotropin(®) ameliorates chronic pain via induction of brain-derived neurotrophic factor」では、うつ様症状を伴う慢性疼痛に対するノイロトロピンの作用として、セロトニン作動性ニューロンが関連する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を正常化することが示唆され、うつ症状を伴う慢性疼痛に有効となる可能性が報告されています。

また、2016年の論文「Neurotropin attenuates local inflammatory response and inhibits demyelination induced by chronic constriction injury of the mouse sciatic nerve」では末梢神経系傷害においてノイロトロピンが、炎症物質の発現を抑制することや傷害局所においてERK活性化阻害作用により、神経の脱髄を制御することが報告されています。

様々な疾患に対して有用となる可能性を秘めている薬であり、今後も分子レベルでの詳細な作用機序の解明が望まれています。


写真はイメージです。 photo by Craig Sunter

日本では高齢化が進んでおり、それに伴って慢性疼痛で苦しむ方も増加しています。今まで作用機序が明確ではなかったノイロトロピンですが、近年徐々にメカニズムが解明されつつあり、注目を集めています。今後さらに様々な疾患の治療に寄与することが期待されています。

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