2つの抗HER2抗体薬の併用が乳がんの予後にあたえる影響について

現在日本では、乳がんが女性のがん罹患率1位となっています。乳がんに、罹患する女性の割合は増加の一途を辿っており、年間6万人以上が乳がんと診断されているといわれています。

早期に治療を行えば予後が比較的良いとされるがんですが、それでも命をおとす方が少なくありません。そのため、より効果的で安全性の高い治療法の確立を目指して、研究がすすめられています。

乳がんの分類

乳がんのほとんどは乳房に存在する乳管に発生します。乳がんの状態は、組織型、ステージ、サブタイプによって分類されます。

組織型による分類では、乳管にがんが留まっている非浸潤がん、乳管からでて周りの組織に広がっている浸潤がんに分けられます。


乳がん photo by WIKIMEDIACOMMONS

また、しこりの大きさやリンパ節への転移、他の臓器への転移の有無によって乳がんの進行度を分類したものをステージ分類といいます。ステージは、0期からⅣ期まであり、非浸潤がんは0期、ほかの臓器への転移がみられる場合にはⅣ期に分類されます。

サブタイプによる分類では、組織診を行い、がんに発現しているタンパク質をみていくつかのタイプに分けられます。一般的に、ホルモン受容体、HER2タンパクの有無、Ki-67の発現量が検査されます。女性ホルモンは乳がん細胞の増殖に関連すると考えられているため、がん細胞に受容体があるとホルモン受容体陽性と判断されます。HER2は乳がん細胞を増殖させるタンパク質として知られ、また、Ki-67の多さは乳がん細胞の増殖能をあらわします。

このように、さまざまな検査結果をもとに乳がんの状態を分類し、患者さん一人一人に合った治療法を選択していきます。

患者さんに合った治療とは?

乳がんは手術によりがんを取り除くことが基本となります。また、手術以外にも、薬物治療などにより再発を予防する補助療法が行われることがあります。

薬を用いた補助療法にはいくつか種類があり、がん細胞のサブタイプなどをもとに患者さんに合った薬が投与されます。たとえば、サブタイプ分類でHER2陽性だった場合には、化学療法にHER2阻害薬を加えた治療が行われます。

2つの抗HER2抗体をもちいた治療の試み

補助療法は再発の防止、死亡率の低下に効果的であり、より効果の高い治療法確立を目指して、日々研究が行われています。

2017年7月にNEJMに発表された論文「Adjuvant Pertuzumab and Trastuzumab in Early HER2-Positive Breast Cancer」ではHER2陽性乳がん患者さんに術後化学療法+抗HER2抗体トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)投与に加えて、同じく抗HER2抗体であるペルツズマブ(商品名パージェタ)を投与した場合の予後に与える影響について報告しています。

リンパ節転移陽性または高リスクリンパ節転移陰性の乳がん患者さんを対象に、術後化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブを行う群とペルツズマブのかわりにプラセボを投与する群にわけ、3年間の症状の変化、生存率について解析しています。

その結果、再発がみられた割合はペルツズマブ群で7.1%、プラセボ群で8.7%となり、有意な差がみられました。リンパ節転移陽性であった患者さんを対象に浸潤病変が確認されることなく生存する割合をみると、ペルツズマブ群92.0%に対し、プラセボ群では90.2%となり、有意な生存率上昇がみられました。いっぽうで、リンパ節転移陰性の患者さんを対象にみると、ペルツズマブ群97.5%、プラセボ群98.4%となり、有意な差はみられませんでした。重大な有害事象は両群ともに少なく、化学療法中の下痢の発生がプラセボ群に比べてペルツズマブ群で多くみられました。


写真はイメージです。 photo by flickr

このことから、手術可能なHER2陽性患者の術後補助療法では、化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを加えることで浸潤病変のみられない生存率が改善することが示唆されました。

早期乳がんの予後は比較的良いものの、再発や転移により命をおとすこともあります。これらを防ぐためにも、より効果的な治療法が求められています。今回の論文から、HER2陽性患者さんの術後補助化学療法にペルツズマブを加えることで、浸潤のみられない生存率が改善することが示唆されました。

今回の発表では3年間での解析でしたが、今後さらに長期的にみた結果が報告されることが望まれます。

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