歯科治療における超音波検査の活用

■はじめに

超音波検査は、超音波エコー検査、もしくはエコー検査ともよばれる超音波を使った検査法のひとつです。潜水艦のソナーや魚群探知機と同じ原理で、超音波のはね返りを検出して検査を行ないます。

とても強い超音波は、ものを破壊する効果もあるのですが、医療で用いられる程度の強さでは害もなく、妊娠中の検査に使えるほど安全に検査を行なうことが出来ます。

近年、歯科医療の分野でも活用されるようになってきました。超音波検査についてまとめてみました。


写真はイメージです。 photo by pixabay

■超音波検査ってなに?

超音波とは、ヒトの耳には聞こえない高い周波数の音波のことです。ヒトの耳で聞こえる音は、周波数20[Hz]〜20000[Hz]の範囲の音です。超音波検査では、それより高い300万[Hz]〜1000万[Hz]の音波を使います。周波数に幅があるのは、検査をしたい対象となる臓器によって周波数が異なるからです。

検査をしようと思う対象の臓器にこの超音波を当てると、超音波がはね返ってきます。超音波検査とは、そのはね返りを検出して映像化する検査法のことです。

検査の種類としては、レントゲン撮影やCT撮影と同じく画像診断検査法に分類されます。

 

■超音波検査の映像の特徴

超音波検査では、モノクロの映像として描出されます。描出された映像を低エコー域にあたるか、もしくは高エコー域にあたるかで判断します。近年は血流に色をつけてカラーで描出するタイプなどのモノクロでない超音波検査装置もあります。

低エコー域とは、画像上、黒っぽくうつっているところです。黒く映し出されるのは、超音波が通過してしまうからです。黒っぽくうつってくるなら検査の対象が液体であることを示しています。

一方、高エコー域とは、画面に白っぽくうつるところです。白くうつし出されるのは超音波を全てはね返してしまうからです。対象が骨や石など硬いものであることを示しています。

臓器は黒色から灰色に、脂肪は灰色から白色に描出されることが多いです。空気は超音波を伝えにくいので、骨や石のように白色になります。

低エコー域も高エコー域も、その違いはあくまでも見え方の違いでしかありません。黒っぽいから悪い、白っぽいからいいというわけではありません。


エコー画像の例 photo by wikipedia

■超音波検査の利点

レントゲン撮影装置やCT装置などと比べて、小さいので持ち運びが可能です。装置さえあれば、時間も場所も選ばず検査ができます。

超音波検査は、レントゲンやCTと異なり、放射線を使わないので被曝することがありません。

リアルタイムで臓器の状態を観察することができます。例えば、心臓であれば動いているところをみることができます。

 

■超音波検査の欠点

○超音波検査が苦手とする検査

超音波には、空気中を伝わりにくいという特性があります。医療用の超音波検査といえども、肺や胃、腸といった空気をたくさん含んでいる臓器の検査に用いるのは難しいです。

一方、脂肪がたくさんついている場合ですと、検査したい臓器までの距離が長くなってしまいます。そのために、脂肪に遮られて超音波が伝わりにくくなってしまいます。脂肪が厚く覆っている臓器を調べるのにも、超音波検査は使いづらいです。

骨も超音波を遮ってしまいますので、その向こうはみることは出来ません。骨の向こう側にある臓器を超音波検査で調べたいときは、骨と骨の間に超音波を通したりするなど、検査方向を調整して対応しなければなりません。


写真はイメージです。 photo by photoAC

○超音波検査装置の操作に慣れが必要

超音波検査は、放射線を使わず身体の内部をみることが出来るのでとても安全性が高い検査です。しかし、操作が難しいという欠点があります。

歯科でよく撮影されるパノラマエックス線写真やCTは、装置は定められた位置にありますし、撮影される人の位置も決まっています。装置と人の位置関係は固定されているわけです。

超音波検査はそうではありません。ベットに寝た被験者に検査者がプローブを手で持って当てます。好きな位置に当てることができる反面、プローブを当てる角度、位置を検査者が自分で調整しなければなりません。フォーカスを合わせるのも同じです。

もちろん、描出したい臓器にあわせて、超音波検査の周波数なども正しく設定しなければなりません。

みえやすくするには、患者さんの位置の設定も欠かせません。たとえば唾液腺疾患を調べたいのなら、顎下腺の場合は顔の向きを少し上向きにのけぞらしたり、耳下腺の場合は調べたい側の反対向きに頭を傾けたりするとよりみやすくなります。

 

■歯科における超音波検査の利用

歯科治療では、歯科疾患が歯や骨などの硬組織に起こる病気が多いため、レントゲン撮影やCT撮影が多用されてきました。歯科医院での利用は難しいですが、MRI検査も顎関節や骨髄炎の診断などに利用されています。

近年、それらに加えて超音波検査も使われるようになりました。歯科の診療領域では軟組織の病気の診断に用いられます。

 

○唾液腺疾患

唾液腺とは、唾液を作り出す臓器のことです。唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺にわけられます。小唾液腺は無数にありますが、大唾液腺は左右1対の3つしかなく、3大唾液腺ともよばれます。それぞれ耳下腺・顎下腺・舌下腺とよばれています。

耳下腺とは、耳の前下方付近にある唾液腺のことです。おたふく風邪で腫れてくるのがこの耳下腺です。おたふく風邪は、正式名称が流行性耳下腺炎といいますが、その通りの名称です。その大きさは、短経3[cm]、長経が4〜5[cm]、厚さ2[cm]くらいで、人体では最も大きい唾液腺です。

顎下腺とは、下顎の奥の角の内側付近にある唾液腺です。大きさは2〜4[cm]で厚さは1.5[cm]ほどです。顎の裏なのでわかりにくいのですが、比較的大きいので指で触れることも可能です。

舌下腺とは、顎下腺の前方にある唾液腺です。大きさは3〜4[cm]、厚さは1[cm]くらいです。

小唾液腺は、お口全体に分布しています。その大きさは米粒大から小豆大と大唾液腺と比べると非常に小さいです。

唾液腺におこる病気のことを唾液腺疾患といいます。唾液腺疾患としては、唾液腺腫瘍や唾石症を挙げることが出来ます。また、嚢胞(のうほう)とよばれる内部に液体をためた袋状の出来物も生じることがあります。

唾液腺は軟部組織です。 唾石はレントゲンでもみることはできますが、唾液腺そのものはレントゲン撮影ではみることは出来ません。CT撮影ではある程度みることは出来ますが、しっかりとみることはやはり難しいです。

そこで唾液腺疾患の診断に超音波検査が利用されるようになりました。

唾液腺疾患を正しく診断するためには、唾液腺の正常像を理解し、唾液腺疾患の場合どのような形に見えるのかを理解しておく必要があります。

唾液腺の腫瘍および嚢胞は、低エコー域で描出されます。一方、唾石症の場合は高エコー域として認められます。


唾液腺 ①耳下腺②顎下腺③舌下腺 photo by wikipedia

○リンパ節転移

悪性腫瘍の転移リンパ節をみるのにも有効です。

歯科の領域の悪性腫瘍の場合、首のリンパ節への転移の有無がとても重要となります。首のリンパ節に転移が起きていた場合、悪性腫瘍の本体部分の切除術に加えて頚部廓清術(けいぶかくせいじゅつ)という首のリンパ節を取り除く手術を行なう必要が生じます。

リンパ節への転移の状況に応じて頚部廓清術の範囲が決められます。


写真はイメージです。 photo by pixabay

造影剤を使ったCT検査でも調べることは可能ですが、造影剤にアレルギーがある場合は、ショックを起こすリスクがあり使いにくくなります。気管支喘息がある場合もやはり造影剤を使うのはリスクがあります。

そのような時に、超音波検査はとても有用です。

リンパ節転移を診断するには、リンパ節の形やその大きさ、内部の状態、リンパ節門の状態がどうなっているのかが、ポイントとなります。一般に転移が起きたリンパ節では、リンパ節が大きくなり、その形は球形に近くなります。そして、内部のエコーが不均一になったり、嚢胞状化したりします。また、リンパ節門部の血管が消失したり、血管そのものが異常を呈したりします。

 

■まとめ

超音波検査は、放射線を使わないので安全な画像診断検査法の一つに挙げることができます。

超音波を使うために、レントゲンやCTとは異なる特徴を持っています。臓器などの軟部組織の状態を確認するのは得意なのですが、その反面骨には、はね返されてしまうので、骨の向こう側にあるものを見ることはできません。

装置がレントゲンやCTと比べて、小型なので持ち運びが可能です。したがっていつでもどこででも装置さえあれば検査を行うことができるという利点があります。

しかし、操作に慣れが必要であるという欠点もあります。

歯科でも近年、超音波検査が利用されるようになってきました。歯科では、リンパ節への転移や、唾液腺疾患の診断に用いられています。

 

 

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