血友病Aに対するエミシズマブの有用性

現在、血友病患者さんは、日本に6000人程度いると言われており、年間50~60人が新たに発症しています。以前は、20歳までは生きられない病気と言われていましたが、現在では医療が進歩し、健常人と変わらない年齢まで生きることが可能となってきています。

血友病とは

通常、血管がやぶれ出血すると、血液中の成分が損傷部位で固まることで血管外へ血が出ていくのを防ぐ、止血という生体防御反応が起こります。そのさいに重要な働きをしているのが凝固因子です。凝固因子は、第Ⅰ~ⅩⅢ因子まで存在し、それらが連鎖的に活性化することにより、止血を促しています。

血友病は、凝固因子の異常により、止血がうまく出来ず、出血が止まりにくくなる先天性の疾患で、男性に多く発症します。遺伝や突然変異により発症し、第ⅩⅢ因子の低下または欠乏がみられるものを血友病A、第Ⅸ因子の低下、欠乏がみられるものを血友病Bと分類します。血友病A患者さんの割合が多く、全血友病患者さんの約8割を占めています。

凝固因子の欠乏により、身体のさまざまな部位に出血がおこりますが、出血しやすい部位は年齢によって異なります。赤ちゃんのころは、皮下出血が多くみられますが、大きくなり運動量が増えていくと関節内や筋肉内での内出血が多く発現するようになります。また、出血を繰り返すことにより、関節の破壊による機能障害などの慢性の障害が発現することもあります。


写真はイメージです。 photo by photoAC

現在、血友病の治療は、足りない凝固因子を補う療法が中心となっています。補充療法には、定期的に凝固因子を注射し出血を防ぐ定期補充療法と、出血時に注射を行う出血時補充療法、運動会や遠足などのイベント事のときに行う予備的補充療法があり、患者さんに合わせた治療が行われます。

しかし、補充療法は症状の予防、改善に効果的である一方で、続けていると効力が弱くなり、出血が止まらなくなってくる患者さんもいることが問題となっています。

身体が、補充した凝固因子を異物として認識し、凝固因子の働きを阻害するインヒビターを生成してしまうことが効果が減弱する原因となります。

インヒビターが生成された場合の治療として、別の活性型凝固因子(バイパス製剤)を投与し、出血を止めるバイパス療法や、さらに補充する凝固因子を増量し、治療を続行する方法、インヒビターを作らせなくする免疫寛容療法などがありますが、治療の選択肢は限られており、新しい治療法の確立がもとめられてきました。


写真はイメージです。 photo by photoAC

血友病Aに対する新薬の開発

そこで、開発がすすめられているのが、エミシズマブです。エミシズマブは、インヒビターの有無にかかわらず、血友病A患者さんの治療に効果を期待されている生物学的製剤です。活性型第Ⅸ因子と第Ⅹ因子に結合し、第Ⅸ因子による第Ⅹ因子の活性化を促進する作用をもち、欠乏している第ⅩⅢ因子の補因子として機能します。

いくつかのエミシズマブの臨床研究が進められていますが、そのなかで「Emicizumab Prophylaxis in Hemophilia A with Inhibitors」では、インヒビター保有血友病A患者さんに対するエミシズマブの効果を報告しています。

第ⅩⅢ因子に対するインヒビターを有する12歳以上の血友病A患者さんを対象に、エミシズマブ(3.0mg/kg週1回皮下投与を4週間続けた後に、1.5mg/kg週1回皮下投与を継続)投与群と非投与群に分け、出血頻度について解析しています。

その結果、非投与群では1年あたりの出血頻度が23.3回だったのに対し、エミシズマブ投与群では2.9回におさえられ、エミシズマブ投与により87%の出血頻度低下がみられる結果となりました。期間中出血がみられなかった患者さんの割合は、エミシズマブ投与群63%、非投与群6%となりました。また、予防的にバイパス製剤投与を受けていた患者さんを対象に、エミシズマブの投与を行ったところ、バイパス製剤と比較して79%の出血頻度の低下がみられました。

最も多かった有害事象は、注射部位の反応でした。また、出血のためプロトロンビン製剤を複数回投与した患者さんで、血栓性微小血管症および血栓症の発生が2件報告されました。抗薬物抗体は検出されませんでした。

このことから、インヒビター保有者に対するエミシズマブの定期投与は、出血の予防に有効であることが示唆されました。

 

今回報告された論文を含む複数の研究結果から、エミシズマブがインヒビターを有する血友病A患者さんの出血予防に効果的であることがしめされました。このことを受け、現在、日本を含め各国で承認申請が行われています。今後、血友病A患者さんの希望となることが期待されています。

 

 

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