「筋電義手・質の良い生活向上のために」

「義手」という存在は多くの方が知っているでしょう。事故による切断、生まれながらにして欠損している手足に装着する義肢の1つですね。手や足を復元することにより、機能的、精神的な回復をはかる役割を担います。

それでは、見た目の自然さと細やかな動きで注目されている「筋電義手」はご存知でしょうか。

従来の義手とはことなり、自分の意志で本当の手や指のように動かせる構造を持ちます。

筋電義手を装着したアメリカ海兵隊の兵士 photo by wikipedia

これまでの義手は、外観の再現を重視した、動かない「装飾義手」、肩の動きをハーネスに連動させ、手や肘を動かす「能動式義手」、特定の作業に特化させた「作業用義手」です。

これらは、押さえるや掴む、切るなどの限定された動きはできますが、日常の生活の中で見られる細かな動きには対応できませんでした。

筋電義手は、思うままに動かせる


一方の筋電義手は、筋肉が発する微量な電気信号を利用することで、フタの開閉やタオルを畳むなど暮らしの中でおこなう動きが可能です。

健常者と同じく、自分の思うままに手や指が使えることは、機能面はもとより精神面においても大きくプラスに作用します。

子供は幼稚園に通う年頃になるにつれ、義手を隠す傾向が強くなりますが、手のように動かせる筋電義手の場合、臆することなく遊ぶことができる。また、滑かな手の動きは、仕事の選択など将来に向けての方向性を広げます。

皆さんはイメージできるでしょうか。閉ざされていた可能性が広がり、新たなビジョンに目を向ける。

このことは、健常者が考える以上に「生活の質の向上」をもたらし、本人だけではなく家族や友人にも良い影響を与えます。

筋電義手の仕組み


筋肉が発する微量な電気信号を利用する筋電義手の仕組みとはどのようなものでしょうか。

「物を掴む」や「物を離す」などの動きは、脳から指令を受けた筋肉の働きです。筋肉を動かすときに発生する微弱な生体信号を「筋活動電位」と呼び、この筋電位の出力と連動させて義手を動かします。

発生した筋電位を感知し内臓モーターを駆動、掴んだり離したりと手の動きを再現させるのが筋電義手の仕組みです。

写真はイメージです。 photo by photoAC

基本操作はイメージ


筋電義手の基本操作は、欠損した関節の曲げ伸ばしのイメージから始まります。実際にはない箇所を動かすイメージは、「幻肢」の理解が早道でしょう。幻肢とは切断などにより失った後も、まだあるかのように感じる手足のことで、切断直後から95%以上の方にあらわれます。

目を閉じたまま手首や指先を動かしてみてください。どのような動きをしているか、見ていなくても感じ取れると思います。幻肢も同じように、運動覚を持ち見えない手の動きを感じ取る現象です。

筋電位により義手を動かす仕組はお伝えしましたが、「よし、筋電位を発生させよう」と思っても実際には成功しません。幻肢の手首を動かすリアルなイメージにより筋肉が動き、発生した電位により義手が動きます。

人工知能の活用


従来の義手と比べても自分の意志を反映できる筋電義手ではありましたが、人工知能の活用により飛躍的に性能が向上しました。特定の領域や分野において、人工知能が人間を上回ることは、将棋界を震撼させた話題などでご記憶の方も多いでしょう。

「握る」や「開く」など使用者の基本的な電位パターンを人工知能に記憶、この段階で使用者のパーソナルに適したオリジナルの義手です。学習効果の最適化により、分単位という短い時間で義手の扱いに慣れ、ドアノブの操作など思い通りに動かせます。

写真はイメージです。 photo by photoAC

筋電義手・今後の課題


3Dプリンターによる軽量化と低コストの作成が可能となった現在でも、今後への課題が残されています。入浴や炊事、洗濯などより日常の生活に対応できる動作が望まれ、現代社会に必須ともされているパソコンなどの取り扱いには、独立した指の動きが必要です。

このため、データーを高速化、複雑化できるメモリーチップの開発、バッテリーの軽量小型化や持続時間の改善は急務といえるでしょう。

日本で用いられている義手の多くは装飾義手です。筋電義手の普及が欧米と比べて遅れているのは、労災保険の対象になっていないためでした。2013年の労災保険制度が改正されるまで、両腕の欠損には片腕のみが検討され、片腕だけの場合は完全に対象外です。

改正により普及への状況は好転しつつありますが、さらに障害者総合支援法に基づく「義肢装具等完成用部品」への指定申請もおこなわれています。指定を受ければ、負担も軽減されより一層の普及が期待できます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました