オープンダイアローグ<開かれた対話> 注目される新しい精神医療

[オープンダイアローグってなに]

フィンランドの精神医療の治療法である「オープンダイアローグ」が、昨今、日本で注目されています。

オープンダイアローグはフィンランド全土においてのスタンダードな方法ということでなく、フィンランド北部にある西ラップランド地方のケロプダス病院で取り組まれているものです。家族療法を専門とする臨床心理士として知られているユバスキュラ大学教授のヤーコ・セイックラ氏が中心となって取り組んでいます。

1980年代前半から取り組みがはじまり、おもに統合失調症の急性期の患者を対象にした精神療法です。

オープンダイアローグでの治療方法の効果を見てみましょう。統合失調症の患者の入院日数は19日間短縮しています。薬物を含む通常の治療を受けた統合失調症患者群との比較をすると、オープンダイアローグで服薬を必要とした患者は全体の35%、2年間の予後調査で82%は症状の再発がないか、ごく軽微なもので(対照群では50%)、再発率は24%(対照群では71%)に押さえられたと発表されています。

写真はイメージです。photo by pixaboy

オープンダイアローグをそのまま訳すと「開かれた対話」。ダイアローグの対語は「モノローグ」で独り言という意味です。統合失調症の特徴的な症状の一つがモノローグです。これは、ほかの精神疾患でも少なからずみられる症状です。独り言は一人で話しているので答えが返ってきませんよね。

モノローグに誰かが答えるのがダイアローグです。モノローグによって患者の中だけでどんどん高まる気持ちを、ダイアローグで解きほぐしていくということになります。つまり、モノローグから抜けださせるのがダイアローグということです。

具体的にオープンダイアローグの治療方法を見ていきましょう

[オープンダイアローグの治療法方法は]

オープンダイアローグは、「医者対患者」といった「1対1」という治療方法ではありません。必ず、治療チームを組んで行います。ケロプダス病院では365日24時間対応で、スタッフは医師、臨床心理士、看護師、セラピストなどです。

相談の電話を受けた場合、電話を受けた人が責任者となりチーム編成を行います。電話を受けたのが看護婦であっても医師の指示仰ぐという上下関係はなく、フラットな体制がとられています。電話を受けた責任者が治療地チームを編成して、電話を受けてから24時間以内に最初のミーティングが開かれます。

ミーティングの場所は、多くの場合には患者のホームグランドある自宅です。参加者は医師、看護師、臨床心理士などの医療チーム、患者本人、患者の家族、親戚、患者に関わりキーパーソンになる人たちです。次回以降のミーティングは、原則として、常に同じメンバーで行なわれます。

写真はイメージです。photo by pixaboy

一般的なミーティングでは議長もしくは進行役が存在しますが、オープンダイアローグでは存在しません。また、対話のテーマというものも存在しません。参加者全員が、フラットな関係を保ちます。参加者は車座になって座り、同じように発言し、話に耳を傾けます。

医師と患者は「治療する側-治療される側」という非対称な関係ではなく、病気の寛解に向けて共に対話を通して歩んでいくことを目指します。こうした医師と患者の対称性がこの治療の最大の特徴です。

相手への問いかけも「YES・NO」以上に語ることができるような質問から対話を始めます。どのような発言にも耳を傾け、とくに、治療チームは患者やほかのメンバーの発言のすべてに応答をしなくてはなりません。

たとえば、患者が妄想を語りだした場合には、その事について質問、対話を重ねていきます。語られる妄想について否定する、発言をさえぎることは行いません。

オープンダイアローグという対話が目指すのは精神病的な発話、幻聴、幻覚にとどまっている特異な体験を共有可能な言語でいいあらわすことができるように表現していくことです。

そのために合意や結論出すことはありません。合意や結論がでてもあくまでも副産物の一つと考えらます。対話という行動を通じてメンバー同士が繋がること、接点を持つこと、理解しあうこと、信頼を熟成することが重要とされています。

大きな特徴としてあげられるのが、患者本人抜きではいかなる決定や方針も出さないという点にあります。つまり、投薬、入院、そして治療に関する決定はすべて本人がいる対話の場で決められます。

今後の治療の進め方についても、治療チームの専門家同士の意見交換は患者本人や家族も聞いているオープンな場で行ないます。すべてを聞いてもらうというやり方で「リフレクティング」といわれる手法です。対話のさなかに、突然、専門家同士が向きを変えて話し合うことは患者の信頼にもつながります。

オープンダイアローグは、患者の危機的状況が解消するまで毎日のように行われます。期間として10~14日間にわたって行ないます。

アメリカで心理療法士をした経験もあるダニエル・マックラー監督がオープンダイローグに携わる医療スタッフを取材した映画「オープンダイアローグ フィンランドにおける精神病治療への代替アプローチの (開かれた対話)」が公開されています。

『オープンダイアローグ』フィンランドにおける精神病治療への代替アプローチの (『開かれた対話』Open Dialogue, Japanese subtitles)

[日本でのオープンダイアローグは]

現在、日本ではオープンダイアローグについての研究会や勉強会が各地で開かれていますが、今後、日本でオープンダイアローグへどのように向かっていくのは未知数です。

オープンダイアローグが重視する「対話」すること。セイックラ教授が述べていますが、「われわれは意思決定したり、今後の計画を立てたりしません。むしろ我々の目標は一緒に座って理解しあうことなのです」とうことです。

対話によってお互いの理解を深め、違いを否定したりすることではなく、お互いに接点を求めて、性急な結論や方針を求めることはせずに時間をかけて信頼を育成するということはどのような形でも大事なことなのかもしれません。

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