致死性家族性不眠症 眠りたくても眠ることができない恐ろしい病気

[不眠症で死ぬことはない?]

眠れないもしくは不眠症で悩んでいる方は多いのではないでしょう。不眠症になってしまうと、「十分な睡眠がとれない、睡眠不足が辛い、睡眠不足の影響で日ごろの生活や仕事に支障がでる」など、生活していく上のさまざまな問題がでてきます。睡眠不足よって精神的にも身体的にも障害がでてきます。

不眠症の状態になるとなかなか眠れない、何度も目が覚めてしまう、早く起きてしまう、眠りが浅いなど人によってさまざまな睡眠の障害がありますが、どこかで必要な睡眠はとっているといわれています。仮に意識的に何日も眠っていなかったとすると、脳が悲鳴をあげてしまい気絶するように眠ることになります。

睡眠を取ることによって脳を休めるといいますが、実際には脳は睡眠を取っている間も動いています。起きていている時とは異なった動きを行い、私たちの脳や身体のメインテナンスをしてくれています。起きている間に活発に活動する大脳は睡眠中では動きはほとんど低下します。

まったく眠れないとした場合には、脳は睡眠中にやるべきはたらきができません。それは、命に関わることになります。しかし、不眠症の人はどこかで必要な睡眠はとっていますので命に関わることはありません。

写真はイメージです。photo by pixaboy

しかし、「致死性家族性不眠症」という厚生労働省の難病指定されている病気があります。この病気は、だんだんと眠れなくなることから始まり、やがて、眠ることができない、からだも満足に動かせなくなってしまうという恐ろしい致死性の病気です。

致死性家族性不眠症がどのような病気かみてみましょう。

[致死性家族性不眠症とは]

致死性家族性不眠症(Fatal Familial Insomnia:FFI)は、プリオン病と呼ばれる難病の一つです。プリオン病には、ほかにも「クロイツフェルト・ヤコブ病」、「ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群」が知れています。いずれも病気も不幸な転帰を迎えることが知られています。動物では一時期騒がれた牛の狂牛病(BSE)もプリオン病の一つです。

プリオンはタンパク質の1種です。私たちの脳や神経に存在しています。通常は正常型プリオンとして存在しますが、何らかの原因で正常型プリオンが変化すると異常型のプリオンになります。

異常型のプリオンはまわりにある正常型のプリオンを異常型プリオンに変えてしまいます。この状態が連鎖的に続くことで、異常型プリオンの量が増えてプリオン病を発症します。脳には特有の海綿状の変化が出現します。

致死性家族性不眠症は1986年にイタリアで報告された病気で、その後の研究で遺伝子が関連し、プリオンタンパク遺伝子の特定の部位に変異が生じることにより発症することがわかりました。また、親から子へ遺伝することも判明し「致死性家族性不眠症」と名付けられました。

この遺伝子は優性遺伝で変異のある遺伝子を持つ親からは、約50%の確率で子に変異遺伝子が遺伝します。しかし、遺伝子を受け継いだからといって、かならず致死性家族性不眠症を発症するわけではありません。

私たちの睡眠という行為は、脳幹から視床を通り大脳新皮質に「眠れ」という命令が行きわたって睡眠にいたります。致死性家族性不眠症は異常型プリオンが脳の視床にたまります。

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異常型プリオンがたまることで神経が機能しなくなり睡眠や覚醒のコントロールが効かなくなり、睡眠をとるということができなくなります。さらに運動や認知のコントロールも効かなくなります。

致死性家族性依存症はどのような症状を示すのでしょうか。平均発症年齢は40歳~50歳ですが、発症年齢は10歳代後半から70歳代前半と幅広い年齢で報告されています。

・最初は昼寝ができない、夜間に眠れないことがある、寝た感じがしないといった軽い不眠症でもみられるような症状です。しかし、この眠れないという症状は、夜になると興奮状態になっていくなど進行性で悪化の一途をたどっていき、眠ることができななります。

・性格に変化があらわれはじめて、やる気の低下やなにかを楽しむといったことができなくなります。

・異常に交感神経系の活動が活発になります。目が疲れやすくなる、体温が上がって汗をかく、脈が速くなるといった症状もでてきます。さらに、幻覚が見える、記憶力が極端に低下します。

・やがて、認知症を発症し、からだの筋肉がピクピク動くミクローナスといったけいれんを起こすようになり、もうろうとして意識がなくなり、寝たきりになりになりやせ衰え、全身衰弱や肺炎が原因で死亡します。

個人差はありますが、病気が発症してから1年前後で意識がなくなって寝たきりになり、1年半~2年で死亡します。致死性といわれる由縁です。進行性で回復例はありません。

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致死性家族性依存症の遺伝子を受け継ぐ家系は世界で約40家系、日本では数家系が報告されています。

[眠ることは大事なこと]

致死性家族性依存症には発症や進行を抑えるといった治療法はなく対症療法だけです。睡眠薬が思い浮かぶかもしれませんが、脳のシステムが破壊されているために睡眠薬は効きません。また、希少な疾患のために研究が思うように進んでいないのが現状です。

致死性家族性依存症の遺伝子を持っている方の今夜は眠れなくなる夜のはじまりかもしれないという不安や恐怖は、私たちは想像を遥かにしのぐものでしょう。

そのような中、イタリアで抗生物質である「ドキシサイクリン」がプリオンの密集する効果を阻害する効果があるとして、発症を防ぐためにドキシサイクリンを投与するという治験が実施されています。

この治験の効果について、致死性家族性依存症の遺伝子を持った人が必ずしも発症するとは限らない事などといった懐疑的な意見もありますが、治験の過程もしくは結果からなんらかの効果が実証され、希望への道筋が作られることが期待されています。

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私たちも不眠症に悩まされることもありますが、生活習慣の改善や治療を受けることなど克服する方法はあります。睡眠をとることによって、脳や体の中で睡眠中にしかできないさまざまなことが行われています。

睡眠については、まだ、解明されていないことも多く、奥の深い領域であると言われていますが、睡眠が重要であることがあらためて認識させられるのではないでしょうか。

 

 

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