脊髄性筋萎縮症の新しい治療薬「ヌシネルセン(商品名;スピンラザ)」

脊髄性筋萎縮症は、筋萎縮や進行性の筋力低下を特徴とする常染色体劣性遺伝病です。乳幼児から小児期に発症することが多く、罹患率は10万人あたり1~2人といわれています。

いまだ根本的な治療は確立されておらず、新しい治療法の開発がすすめられています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

脊髄性筋萎縮症とは

脊髄性筋萎縮症は、脊髄の運動神経細胞(前角細胞)の変性により発症します。

第5染色体に存在する運動神経細胞生存(SMN)遺伝子が原因遺伝子として同定されており、多くの患者さんでSMN1遺伝子の欠損や変異がみとめられます。SMN1遺伝子の異常により、運動ニューロンの維持に必要なSMNタンパク質を十分につくることができず、筋萎縮や筋力低下などを引き起こすと考えられています。

脊髄性筋萎縮症は、発症年齢や臨床経過により、Ⅰ型からⅣ型に分類され、すべての型で、筋萎縮や筋力低下がみられます。

Ⅰ型(重症型またはウェルドニッヒ・ホフマン病)は、出生直後から生後6か月までに発症します。体幹を動かすことができず、支えなしで座ることもできません。また、舌の細かいふるえがみられ、哺乳困難や嚥下困難、誤嚥、呼吸不全をともないます。人工呼吸器を用いない場合、95%は18か月までに命をおとすといわれており、気管内挿管や気管切開、人工呼吸が必要となります。

Ⅱ型(中間型またはデュボビッツ病)は、1歳6か月までに発症し、支えなしに立ったり、歩いたりすることはできません。舌の細かいふるえや、手足の振戦がみられ、次第に関節を正常に動かすことが困難となったり、脊柱の変形が著明になっていきます。呼吸器感染により呼吸不全をおこすこともあります。

Ⅲ型(軽症型またはクーゲルベルグ・ウェランダー病)は、1歳6か月以降の幼児期、小児期に発症します。1人で歩くことができていたのに、次第に転びやすくなったり、立つことができなくなり、腕を上げることが困難になる場合もあります。脊柱の変形などが生じることもあります。

Ⅳ型は、成人になってから発症する脊髄性筋萎縮症を指します。手の先や肩甲帯から始まる筋萎縮や筋力低下などがみられる場合があり、徐々に全身の運動機能が低下していきます。発症年齢が遅いほど、進行は緩やかといわれています。


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脊髄性筋萎縮症の新しい治療薬

脊髄性筋萎縮症の治療では、患者さんの症状に合わせて、人工呼吸管理や経管栄養、リハビリテーションなどが行われます。しかし、根治治療はいまだ確立しておらず、有効な治療法の開発がすすめられていました。

そのなか、2017年7月、欧米に続き日本でも製造販売が承認されたのが、「ヌシネルセン(商品名;スピンラザ)」です。

乳児型脊髄性筋萎縮症に適応をもち、初回投与後、2週、4週および9週に投与し、以降4カ月間隔で髄腔内投与します。

脊髄性筋萎縮症では、多くの場合、SMN1遺伝子の欠損または変異がみられますが、その患者さんのほとんどでSMN1遺伝子と似た構造をもつSMN2遺伝子を少なくとも1つ以上有していることが解明されています。SMN2遺伝子は、SMN1遺伝子に比べ生産量は少ないものの、SMNタンパク質をつくりだすことがわかっています。

ヌシネルセンは、アンチセンスオリゴヌクレオチドで、SMN2 遺伝子のmRNA前駆体に結合することにより遺伝子発現を調節し、完全に機能するSMNタンパク質の産生を増やす作用を有しています。

Nusinersen versus Sham Control in Infantile-Onset Spinal Muscular Atrophy」では、乳児型脊髄性筋萎縮症にたいするヌシネルセンの効果について報告しています。脊髄性筋萎縮症の乳児を対象に、ヌシネルセン投与群と対照群にわけ、運動マイルストーンへの効果や無イベント生存期間(死亡するまで,または永続的な呼吸補助を必要とするまでの期間)などについて解析しています。

その結果、運動マイルストーンに効果をみとめた割合は、ヌシネルセン群で51%(73例中37例)、対照群で0%(27例中0例)となり、有意差がみられました。無イベント生存率および全生存率でも、ヌシネルセン群で有意に高くなりました。また、発症から投与までの期間が短いほうが、ヌシネルセンの効果がえられる割合が高くなりました。

このことから、脊髄性筋萎縮症の乳児にヌシネルセンを投与することにより、生存し、運動機能が改善する可能性が高くなることが示唆されました。


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脊髄性筋萎縮症の治療では、呼吸管理や栄養補助、リハビリテーションなどの対症療法が中心となっていましたが、今回、新機序薬であるヌシネルセンが承認されたことにより、治療の選択肢が拡大しました。今後、患者さんの症状改善に寄与することが期待されています。

 

 

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