口の中の細菌が腸内に住み着くと・・・ クローン病や潰瘍性大腸炎の原因になる可能性があるって

わたしたちの口の中や消化管にはさまざまな細菌が住み着いています。とくに腸内には数百種類以上、50兆個から100兆個以上の細菌が生息していて細菌ごとに集落を形成しています。

その様子から「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。腸内フローラはよく耳にしますよね。腸内細菌はわたしたちの健康や病気の原因として大きくかかわっていることが知られています。

一方、口の中にも数百種類以上、1000億個から6000億個以上の細菌が生息しています。歯磨きなどのケアをまったくしないと1兆個を超えるといわれています。口の中の細菌は心疾患、脳血管系の疾患、糖尿病などとの関連性や誤飲性肺炎などの原因としても指摘されています。

このような口の中の細菌が腸内に住み着くことでクローン病や潰瘍性大腸炎のような「炎症性腸疾患」の発症に関連する可能性があることを早稲田大学と慶応大学の研究チームが国際学術雑誌「Science」上で発表しました。

写真はイメージです。photo by photo-ac

クローン病は口から肛門までの消化管に非連続性の炎症や潰瘍ができる難治性の疾患です。活動期と寛解期を繰り返しながら病状が進行していきます。潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる難治性の疾患で大腸全体に病変が広がっていきます。

どちらの病気も明確な原因はわかっていません。遺伝、免疫異常、腸内細菌、食事などのさまざまな要因が組み合わさって発症すると考えられています。

クローン病も潰瘍性大腸炎も厚生労働省指定の難病です。苦しんでいる患者さんの数も多いことが知られています。どのような研究結果が発表されたのか気になりますよね。

[口の中の細菌が腸に関係あるとは]

いままで腸内フローラの乱れと疾病の関係はいろいろといわれてきましたがどのような仕組みで発症につながっていくメカニズムははっきりとしたことはわかっていませんでした。

研究チームは口の中の細菌が炎症性腸疾患や大腸がんなどの患者の便中に多く検出されることから口の中の細菌がどのように腸の免疫系に影響及ぼして病気とのかかわりはあるのかという点に着目しました。

写真はイメージです。photo by pixaboy

-クローン患者の唾液から-

研究ではまずクローン患者の唾液を無菌状態の特別な環境で育てられた常在菌を持たない無菌マウスに経口投与をおこなってマウスの腸内に存在する免疫細胞を解析しました。

解析結果からヘルパーT細胞のひとつである「TH1細胞」がいちじるしく増加していることが確認されました。

TH1細胞の重要な役割は細胞内に寄生する細菌の感染防御ですが過剰に活性化してしまうと自己免疫性疾患の発症につながるといわれています。

クローン病患者の唾液に含まれていたどの細菌がマウスの腸内に定着してTH1細胞の活性化につながったのでしょうか。

-クレブシエラ菌が腸に炎症の引き金に-

研究チームはマウスの便から検出された約30種類の細菌をそれぞれ単独で無菌マウスに経口投与してTH1細胞の増加に関連する細菌を精査したところ「クレブシエラ・ニューモニエ(以下クレブシエラ菌と記載)」がTH1細胞を強く誘導する細菌であることがわかりました。

クレブシエラ・ニューモニエ菌photo by wikipedia

クレブシエラ菌は通常は病気を引き起こすことはありませんが免疫系が弱っている人や高齢者などでは肺炎、気管支炎、膀胱炎など日和見感染を引き起こすことは知られています。

クレブシエラ菌を実験用の清潔な環境で育てられた病原体を持たずに常在菌だけは持っているマウス(SPFマウス)に投与したところクレブシエラ菌が定着して増殖することはありませんでした。このことは腸内フローラがクレブシエラ菌の定着を阻止したことが示唆されます。

SPFマウスに抗生物質を投与した場合にはクレブシエラ菌が腸内に定着してTH1細胞が誘導されました。抗生物質によって腸内フローラが乱れたことからクレブシエラ菌の定着を招いたと考えられます。

―クローン病との関連は―

研究チームはクレブシエラ菌の定着がクローン病の発症などに関連しているかを確認するために遺伝子操作をした腸炎発症モデルの無菌マウス(IL-10欠損マウス)にクレブシエラ菌を投与しました。すると腸に強い炎症が起こることが確認されました。

IL-10欠損マウスは清潔な実験用環境下でも腸炎を発症します。無菌状態では腸炎は発症しません。いままではどの細菌が原因で腸炎を発症するかわかっていませんでした。この点でも興味深い結果だったといえるでしょう。

比較群としてIL-10欠損マウスに大腸菌のみを投与した場合には炎症はみられませんでした。野生型のマウスにクレブシエラ菌を経口投与した場合にはTH1細胞は増加しましたが炎症はみられませんでした。

これらのことからクレブシエラ菌の定着はTH1細胞の過剰な増殖や活性化を引き起こして遺伝型によっては腸内で炎症の発生や憎悪につながっていくと考えられます。

-潰瘍性大腸炎の患者の唾液では-

潰瘍性大腸炎の患者の唾液を無菌マウスに投与して同様の実験も行われました。一部の潰瘍性大腸炎の患者の唾液がクローン病患者の唾液を投与した場合と同様に腸内にクレブシエラ菌の定着とTH1細胞の増加が観察されました。

写真はイメージです。photo by pixaboy

それでは健常者の唾液ではどうなのでしょうか。健常者の唾液を用いた実験でも腸内にクレブシエラ菌の定着とTH1細胞の増加が観察されました。このことからクレブシエラ菌は炎症性腸疾患の患者だけではなく健常者の口の中にも存在して炎症性大腸炎が発症する可能性があることがわかります。

[研究結果をまとめてみましょう]

研究チームは研究結果を以下のようにまとめています。

◇クレブシエラ菌の腸内への定着でクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性大腸炎に関連している可能性がある。

◇健常者でも長期的な抗生物質の服用によって腸内にクレブシエラ菌が定着する可能性があるので過度の抗生物質の服用は気を付けた方がよい。

◇クレブシエラ菌を選択的に排除して殺菌する抗生物質や腸内に定着させないような薬剤の開発を通じて炎症性腸疾患の予防法や治療薬の開発につながることが期待される。

さらに研究が進められて難病といわれる炎症性腸疾患の治療への道につながるといいですよね。あわせて口内を清潔することを日ごろから心がけることが大事であるとも考えられますね。

 

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