京都大学発「新しい人工皮膚が製造承認へ」 糖尿病性潰瘍、やけどなどの治りにくい傷の治療に効果

わたしたちがけがなどして皮膚に傷ができるとしばらくすると自然に傷が元に戻りますよね。

これは皮膚の自然治癒力による再生機能が働くからです。医学的に「創傷治癒機転」といいます。ふだんはあまり意識しないことですがわたしたちのからだを守るためには大事な機能ですよね。

しかし、大きく皮膚が欠損した場合や創傷治癒機転の働きににくくなる難治性皮膚潰瘍の場合では、皮膚の再生に時間がかかる場合や治癒しない場合もみられます。

難治性皮膚潰瘍

細菌感染、血管障害、知覚障害、ステロイドや免疫抑制剤の使用などで傷の回復を阻害する要因があって治りづらい潰瘍状態になってしまう状態を「難治性皮膚潰瘍」といいます。

外傷、糖尿病、放射線照射、動脈硬化症、静脈うっ滞、リウマチなど膠原病などがおもな原因となります。

なかでも大きな問題になっているのなのは「糖尿病性潰瘍」です。日本では、糖尿病患者数は300万人以上、糖尿病予備軍はその3倍以上と推測されています。治療を行ってもうまく治癒せずに四肢切断手術に至ってしまうことも少なくありません。

糖尿病性潰瘍患者の足photo by wikimedia

難治性皮膚疾患の治療方法のひとつに人工皮膚を用いた治療がありますが、創傷治癒機転がうまく働かずに傷がなおりづらいなどの問題点がありました。

2018年4月に、京都大学は「従来の人工皮膚の問題点を改善したあらたな人工皮膚である機能性人工皮膚が、医療機器として製造承認された」と発表をしました。

[従来の人工皮膚ではなにが問題なの]

従来の人工皮膚は、1990年代から治療に用いられ始められました。コラーゲンスポンジをシリコンフィルムで覆った二層構造になっていて通常は、約2週間から3週間かけて皮膚が再生されていきます。

難治性皮膚潰瘍では、従来の人工皮膚では、血行がよくないことや傷口の細胞の働きが悪いことなどが、原因で皮膚がうまく再生されずに傷がいつまでも治らない、細菌感染を引き起こしやすく傷がさらに悪化するなど十分な効果を得ることがむずかしい状況です。

そのために、人工皮膚の治療効果を高める方法として患者さん本人の細胞を培養して人工皮膚に含ませて傷の細胞を活性化させる治療法などもあります。治療効果は、期待できるのですが、治療費が高額になるなど一般的とはいえませんでした。

[京都大学が開発、医師主導治験によって実用化]

このような状況を踏まえた上で、京都大学の研究チームは、従来の人工皮膚を改良に取り組み、難治性皮膚潰瘍の治療薬として広く使用されている「フィブラストスプレー」を吸着させて1週間以上かけてゆっくりと放出させる新しい機能性人工皮膚の開発を行いました。

※フィブラストスプレーは、皮膚の再生を促進させるための治療薬です。主成分である「塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF/FGF-2)」が傷を治すために必要な細胞や血管などの増殖をうながします。

機能性人工皮膚の概念図photo by 京都大学医学部付属病院

マウスを使用した動物実験では、「フィブラストスプレー」を通常投与する量の1週間分から2週間分を機能性人工皮膚に含ませると効果が10日間ほど持続、従来の人工皮膚と比べて約2倍から3倍の時間で皮膚が再生されることが観察されました。

次の段階として、機能性人工皮膚の実用化するにあたり高度な臨床技術が必要なことから、医師が自ら治験を行う「医師主導治験」の実施を行いました。

医師主導治験は、30歳代から80歳代の17人の患者さんに対して行われました。治験の結果から治療の安全性や約10日前後で皮膚の再生が認められることが、確認されました。この成果として、今回、医療機器として医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造承認されました。

[機能性人工皮膚に期待されることはなに]

写真はイメージです。photo by photo-ac

機能性人工皮膚は、従来の人工皮膚と比較して治療効果が2倍から3倍程度の速さになります。この効果から難治性皮膚潰瘍の治療成績の向上や傷が早く治ることで、感染症のリスクの低下が期待できます。

申請によって認められた適応となる症状は「熱傷III度、外傷性の皮膚欠損、腫瘍や母斑切除後の皮膚欠損、創傷により生じた全層皮膚欠損創」などです。とくにやけどや糖尿病に伴う皮膚の病気の治療には、年間数万人の患者さんに使用できると推定されています。

機能性人工皮膚は、細胞増殖因子を使用した人工皮膚として世界初の製品です。今回の方法は、塩基性線維芽細胞増殖因子以外の成長因子も吸着可能なために皮膚再生分野以外も応用が可能でないかと研究チームは推測しています。

予定されている発売開始時期は2019年1月で商品名は「ペルナック Gプラス」。価格は7段階ある大きさによって異なり5000円から約21万円です。治療に使用された場合には、保険適用されて患者さんは原則3割負担です。

京都大学の研究グループは、「この人工皮膚の有用性を多くの医療関係者に認知していただき重症熱傷や糖尿病性潰瘍などに苦しむ患者さんの福音となるように努力したいと」とコメントしています。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました