予防接種の同時接種にリスクと利点はあるの? 乳児期と高齢期の同時接種について

わたしたちのからだを病気から守るためのひとつの手段として「予防接種」がありますよね。多くは乳幼児期に済ましている方が多いと思います。大人になっても予防接種をする機会はありますよね。

身近なものだとインフルエンザの予防接種や65歳以上になると肺炎球菌の予防注射、伝染病の流行地の渡航するときにも予防注射が必要になる場合があります。乳児期から高齢者まで切り離せないものでしょう。近頃、流行している風疹もそうですね。

予防接種については、以前、ニュースなどで取り上げられた「同時接種」による死亡事故というものがありました。その後の調査で同時接種との関係はみられないとされましたが、本当に同時接種は問題ないのでしょうか。

結論からいうと、「同時接種に問題はないと考えていいでしょう」。最初に予防接種について簡単にみていきましょう。

[予防接種にはいろいろな種類があります]

ウイルスや細菌などの「異物(抗原)」がわたしたちのからだに入ってくると、からだを守るためにリンパ球や白血球が攻撃をします。攻撃して制圧するとリンパ球はその抗原を記憶し「抗体」が作らます。

同じ抗原が再び侵入してきた時に抗体が働いてからだの中で増殖することを防いでくれます。これを「免疫」と呼びます。

写真はイメージです。photo by illust-ac

予防接種はこの原理を応用して、弱毒したものや無毒化したワクチンを使って免疫を獲得するためのものです。予防接種で免疫を獲得して防ぐことができる病気のことを「VPD(Vaccine Preventable Diseases)」といいます。

予防接種には、生きている細菌やウイルスの病原性をかぎりなく弱くしたものを選別して作った「生ワクチン」、ホルマリン処理などで毒性をなくした「不活化ワクチン」、強い毒素を出す細菌の毒素だけを取り出して無毒化した「トキソイド」の3種類があります。

生ワクチン麻しん、風しん、水痘(みずぼうそう)、おたふくかぜ、黄熱、BCG(結核)、ロタウイルス
不活化ワクチン百日咳、日本脳炎、インフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(ヒブ)、13価結合型肺炎球菌(PCV13:おもに子どもの肺炎)、23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌(PPSV23:高齢者の肺炎)、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)、狂犬病、不活化ポリオ、髄膜炎菌
トキソイドジフテリア、破傷風
混合ワクチンDTトキソイド(ジフテリア+破傷風)、MRワクチン(麻しん+風しん)、三種混合ワクチン(DPTワクチン:百日咳+ジフテリア+破傷風)、四種混合ワクチン(DPT-IVワクチン:百日咳+ジフテリア+破傷風+ポリオ)

たくさんの予防接種の種類がありますね。ここでよく危惧されるのが複数の予防接種を同時に行う「同時接種」です。

厚生労働省は、日本においては海外転居などのために接種間隔をあける時間がない場合など「医師が特に必要と認めた場合に行なうことができる」としています。

ほかにも同時接種については、同時接種後にからだになんらかの異常があらわれる副反応がどちらの予防接種で起きたかわからない、副反応が強くなる、抗体が作られるのが弱くなるなどいわれていました。

[同時接種って大丈夫なの]

同時接種をおこなったからといって抗体が作られることが強くなることや弱くなることはありません。唯一知られているのが、コレラワクチンと黄熱ワクチンの組み合わせだけですが、ふだん、接種するものではないですよね。

同時接種のワクチンの有効性については多くの研究で確認されています。同時接種できるワクチンの上限はありませんが、ワクチンによっては複数回の予防接種が必要になります。

―予防接種の副反応について―

予防接種で心配になるのが副反応でしょう。副反応がおこることはゼロではありません。同時接種に限らず単独接種でも同じようにリスクがあります。

接種後の副反応photo by photo-ac

同時接種したことで副反応が相乗効果でひどくなるということはありません。リスクという点から考えると同時接種がいけないということはありません。

副反応で多くみられるのは「接種部位の腫れや赤みと発熱」です。多くは一過性のもので接種当日から2日後ぐらいまでに出現して2日から3日程度で収まります。副反応は10%前後のひとに現われるといわれています。

高熱が出ている、熱が何日もさがらない、接種部位の腫れがひどくて熱や固さを持ってきたなどの場合にはお医者さんを受診してくださいね。

接種したワクチンによって、ごくまれな重篤な副反応として「けいれん、急性脳症、アナフィラキシーショック」などをおこす場合があります。普段とあきらかに様子が違う場合には、ただちにお医者さんを受診してください。

予防接種は、単独接種も同時接種も副反応がでる場合があるということをわかったうえで接種した方がいいでしょう。しかし、過度に神経質になり過ぎる必要はありません。お医者さんと相談したうえで、本人の体調がよいときに行いましょう。

―同時接種は広く行われています―

海外において同時接種はいち早く取り入れられています。死亡事例などの有害な事象は報告されていません。アメリカのCDC(米疾病対策センター)でも推奨しています。アメリカ以外でも多くの国が積極的に取り入れています。

日本では、日本小児科学会が平成23年4月に同時接種は一般的に行われる医療行為として同時接種を勧めています。

同時接種というと乳児期の予防接種に目が行きがちですが、高齢者の予防接種について、亀田総合病院の呼吸器内科部長による「高齢者の肺炎球菌ワクチンであるPPSV23とインフルエンザワクチン(4価)の同時接種」という論文が発表されています。

65歳以上の成人162例を同時接種群と単独摂取する逐次接種群に無作為に割りつけて評価した結果、同時接種群の逐次接種群に対する劣性が示されず、接種1カ月後の抗体価は両群間での差は認められませんでした。高齢者の予防接種も同時接接種が有効なことがわかります。

[同時接種する利点はあるの]

同時接種が問題はなさそうだとわかっても利点がなければと思ってしまいますよね。

-同時接種には大きく3つの利点があります-

とくに、乳児期には多くの予防接種を受ける必要がありますよね。1歳前に6種類から7種類の予防接種を15回以上受けなくてはなりません。

写真はイメージです。photo by photo-ac

・乳児期のお子さんは風邪などの病気で接種スケジュールが狂ってしまうことが少なからずあります。同時接種をうけることで各ワクチンの接種率が向上し、摂取をし忘れすれるとうことも防ぐこともできます。

・病気には好発年齢や好発時期があります。病気によっては重篤な症状を引き起こす病気や治療が難しいも病気があります。また、乳児期は免疫が弱いのでいつかからないとは限りません。なるべく、早く済ますことができればそれだけリスクを軽減させることができます。

・単独接種することは保護者の方の時間的に負担が多くなります。とくに、仕事も持っている方は、その都度、仕事を休まなくてならなくては時間的に拘束されてしまいます。同時接種することで時間的な余裕を持つことができます。

乳児について実際に、どの程度、同時接種が行われているかというリサーチ結果があります。単独接種が5.2%、同時接種は3種32%、4種31.6%、2種19.6%、5種10.6%、6種1.4%と同時接種を行う方が多いようですね。

同時接種の利点は、乳児期に限らずに小時期から大人の方が予防接種するときも同じです。仕事など休める時に同時接種をおこなって、なるべく早く済ませてしまえば安心ですよね。

-高齢者の同時接種は肺炎のリスクを下げる-

高齢者になると別の問題もでてきます。既出した論文を執筆した亀田総合病院の呼吸器内科部長によると、PPSV23は高齢者への定期接種化の実施率は約38%、インフルエンザは約50%です。PPSV23の接種率が低いですよね。

PPSV23ワクチンphoto by wikimedia

高齢者の肺炎は命に関わります。実施率の数字も、必ずしもPPSV23とインフルエンザを両方とも受けているとは限りません。どちらも肺炎に関連します。

とくに、PPSV23とインフルエンザワクチンを同時接種に関する日本人の研究が少なくて有効性や有害事象に関して懸念する医師が多い、成人での同時接種ができることについて情報が少ないことが高齢者の同時接種が広がらない要因としてあげています。

高齢者は、とくに病院を再び受診するのが負担になります。単独接種の場合には「受診が面倒になった、他の予定が入ってしまった、体調を崩した」などさまざまな理由で接種機会を逃すことが多いことも臨床の場でみられるとも指摘しています。

今回の論文の結果から、高齢者の同時接種が普及することによって接種率の低いPPSV23の接種率の向上が期待できますよね。

写真はイメージです。photo by photo-ac

同時接種については、お医者さんによって考え方が異なることがあります。同時接種を受けてもらえないことや同時摂取数の上限もお医者さんによって違うことがあります。同時接種を希望する場合にはお医者さんとよく相談してから決めてくださいね。

 

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