限局性前立腺がんに対する手術とPSA監視療法(アクティブ・サーベイランス)との比較

 

前立腺がんは、歳を重ねるごとに発症しやすくなり、高齢化がすすむ現在では患者数が10万人ちかくに及んでいます。年々増加傾向にあり、患者さんに合った治療を選択することが必要です。

前立腺がんとは

前立腺は男性にのみ存在する臓器で、精液の一部をつくる役割を担っています。前立腺がんは前立腺細胞がガン化し、無秩序に増殖することにより発症します。

早期の前立腺がんは自覚症状がなく、検査により発見されることの多い疾患です。

前立腺がんの特徴として、比較的ゆっくりと進行することが多いため、生存率が他のがんと比べて高く、通常と同じ生活を長く続けられることも少なくありません。


Bladder:膀胱 Prostate:前立腺 Rectum:直腸
photo by WIKIMEDIACOMMONS

しかし、進行すると転移をおこし、命を落とす危険もあることから、早期の発見は大切です。前立腺がんの検査では、腫瘍マーカーであるPSA値の測定が有用となります。

前立腺がんの検査・治療

PSA値に異常がみられた場合には、直腸診や超音波などの前立腺の状態を調べる検査や、組織を採取し細胞の状態を確認する生検、CT検査やMRI検査、骨シンチグラフィを用い、進行度や転移の有無を確認する画像検査が行われます。

検査結果をもとに、医師と相談のうえ、治療法を決めていきます。治療は、大きく分けて手術、放射線治療、ホルモン療法、経過観察を行うPSA監視療法(アクティブ・サーベイランス)があります。

PSA監視療法は、治療を開始しなくても余命に影響をあたえないと判断されたときに選択可能な治療法であり、身体になるべく負担をかけない治療法として重要な選択肢のひとつになっています。

前立腺にがんが留まっている限局がんでは、PSA監視療法や手術など、さまざまな治療を選択することができます。進行している場合には、放射線療法やホルモン療法が選択されることが多く、単独もしくは組み合わせて治療を行います。

手術とPSA監視療法の比較

以前の研究から、限局性前立腺がんの治療では手術とPSA監視療法で死亡率に差はないことが報告されています。しかし、長期の死亡率やQOLに関しては不確実なところもあり、さらなる研究が必要とされていました。

そこで、「Follow-up of Prostatectomy versus Observation for Early Prostate Cancer」では、早期の限局性前立腺がんに対する手術とPSA監視療法の長期的な死亡率、有害事象の頻度について比較しています。

限局がんの男性患者731人を対象に、根治的前立腺摘除術を施行する群とPSA監視療法を行う群にわけ、全死因死亡率や前立腺がんや治療が関連した死亡率などについて解析しています。

約20年にわたる追跡調査の結果、全死亡率は手術群では61.3%、PSA監視療法群では66.8%となり、有意な差はありませんでした。前立腺がんや治療が関係した死亡率をみると、手術群では7.4%、PSA監視療法群では11.4%となり、こちらも有意な差はみとめられませんでした。


写真はイメージです。 photo by 3Dman_eu

リスク別にみると、中リスク群では手術が全死亡率の低下に関連する可能性がみられましたが、低リスク群、高リスク群では手術とPSA監視療法で差はみられませんでした。疾患の進行に対して治療が行われた頻度を比較すると、手術群のほうがPSA監視療法群よりも低い結果となりました。

尿失禁や勃起障害、性機能障害の頻度は、10年目の段階では手術群のほうが高くなりました。また、前立腺がんや治療による日常生活の活動制限の頻度は、2年目までは手術群で高い結果となりました。

このことから、限局性前立腺がんの治療として、手術とPSA監視療法を比較しても全死亡率や前立腺がん死亡率に差がないことが示唆されました。また、手術では有害事象の発生頻度が高いものの、病状の進行に対する治療が行われる頻度は低くなることが示唆されました。

まとめ

早期の前立腺がんは比較的進行が緩やかで、いくつかの治療方法から選択することが可能となります。それぞれメリット、デメリットがありますが、それを理解した上で、患者さんが納得して治療を行うことが大切です。

今回の報告により、いくつかの情報が追加され、治療を選択するさいの手助けとなることが見込まれます。今後も研究がすすみ、治療効果やリスクなどさまざまな情報が積み重ねられていくことが望まれます。

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