原因不明の頭痛・気分のおちこみの原因になるくも膜のう胞 

先天性の脳疾患で、くも膜のう胞というあまり聞きなじみのない疾患があります。しかし発症率をみると1000人に1~2人が発症すると報告されており、決して稀な疾患ではありません。

くも膜嚢胞とは


写真はイメージです。 photo by marionbrun

脳は外側から頭蓋骨、硬膜、くも膜、軟膜により包まれています。軟膜とくも膜のあいだには、くも膜下腔と呼ばれる空間が存在し、脳室でつくられた脳脊髄液が循環しています。通常であれば脳脊髄液は循環し、溜まることはありません。

しかし、何らかの原因によりくも膜に脳脊髄液で満たされた袋状ののう胞が出来ることがあります。この疾患をくも膜のう胞と呼びます。くも膜のう胞では、のう胞と脳室間で連絡がみられないことが特徴のひとつです。

くも膜のう胞は生まれつき持っていることが多く、発生する場所や大きさは人それぞれです。まれに頭部外傷後、後天的に発症する場合もあります。

くも膜のう胞の大半は症状がなく、CTやMRI検査を受けた際に偶然発見されるケースがほとんどです。成人になって発見され、無症状であれば治療の必要がない場合が多く、経過観察となります。

しかし、中には頭痛やけいれん発作を誘発する場合があり、圧迫される部位により局所的な症状がでることがあります。

症状が出ている場合や小児の場合には手術が必要となることがあります。手術は主に、のう胞の膜にメスを入れて脳脊髄液の交通をつくる開窓術やのう胞の被膜を切り取る被膜切除術、シャントカテーテルを埋め込み、脳脊髄液を腹腔などに流す髄液シャント術が行われます。

くも膜のう胞の症例


画面左の黒い部分がくも膜のう胞 photo by NEJM 

2017年6月のThe NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEにくも膜のう胞の症例が掲載されました。

患者;27歳男性

症状;3年前から頻繁な頭痛、気分の落ち込みを自覚。搬送時は発作を引き起こしていた。

MRI検査を受けると12.3cm×16.5cm×7.9cmのくも膜のう胞がみとめられ右大脳半球を圧迫していました。のう胞は側頭葉の上方および後方への変位、正中線構造の偏位を引き起こしていました。

治療は開頭による開窓術が行われましたがその後、頭蓋内圧の持続的な上昇が発現し、嚢胞と腹腔をつなぐシャントが配置されました。これらの治療にもかかわらず、患者さんののう胞の大きさに変化はなく、頭痛は持続的に発現しています。発作を予防するために抗てんかん薬が処方されています。


photo by WIKIMEDIA COMMONS

このように長期に渡って頭痛や気分障害、発作を生じる場合にはくも膜のう胞も疑われ、CTやMRI検査を行うことで、その原因を突き止め適切な治療が施されます。しかし、本症例の様に適応した術式が完全に症状を改善しない場合もあり、今後、より効果的な治療法が確立することが期待されます。

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