SGLT2阻害薬による糖尿病性ケトアシドーシスのリスク上昇について

現在、日本では糖尿病治療を行っている患者さんが316万人以上いると言われ、年々増加傾向にあります。薬物療法ではいくつか種類がある中から患者さんに合った薬が選択されますが、効果だけではなく、リスクについて理解しておくことも大切です。

糖尿病とは

糖尿病はすい臓から分泌されるインスリンが不足したり、インスリンが上手く働かないことで血中のブドウ糖の濃度が上がる疾患です。血糖値が高い状態が続くことで腎障害や神経障害、眼障害、心筋梗塞などの合併症を引き起こすことがあるため、合併症を防ぐために血糖値を下げる治療が必要となります。

糖尿病患者の95%を占めると言われる2型糖尿病の治療では、まず食事療法と運動療法から取りかかり、血糖値の正常化を目指します。

運動療法、食事療法を行っても効果が不十分な場合には薬物療法を追加します。現在、インスリンの分泌を促す薬や糖新生を抑制する作用、インスリン抵抗性を改善する作用を持つ薬など数種類の薬が治療に用いられています。薬物療法では病態や年齢、身体的特徴などを考慮して患者さん一人一人に合った薬を単剤または組み合わせて使用します。

糖尿病治療薬はいくつか種類がありますが、その中でナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬という薬があります。2014年から日本でも発売が開始され、普及し始めている新しい機序の薬です。


ナトリウム・グルコース共役輸送体 黄色がナトリウム、橙がグルコース
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SGLT2は腎臓の近位尿細管に存在し、グルコースを再吸収する役割を担っています。健康な人にとっては大切な働きをしますが、糖尿病患者さんではSGLT2の発現が増加し、糖の再吸収によりさらに血糖が高まることが知られています。

そこでSGLT2阻害薬はグルコースの再吸収を阻害することで尿糖の排泄を促し、血糖値を下げる効果を発揮します。今までの薬はインスリンの分泌に関連する作用機序でしたが、SGLT2阻害薬はインスリンに依存することなく作用するため、新しい選択肢として期待されています。

一方で、SGLT2阻害薬による副作用についてもいくつか報告されているため注意が必要です。尿に糖が含まれるため、尿路感染症にかかるリスクが高くなることや、多尿による脱水症状に気を付けることなどが注意喚起されています。


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その中、2017年6月に発表された論文「Risk of Diabetic Ketoacidosis after Initiation of an SGLT2 Inhibitor」ではSGLT2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスの関連について報告しています。

2型糖尿病患者さんを対象にSGLT2阻害薬服用群と糖尿病性ケトアシドーシスとの関連が報告されていないDPP-4阻害薬服用群に分け、服用開始から180日以内に糖尿病性ケトアシドーシスを発症した件数を比較しています。

その結果、SGLT2阻害薬服用群で4.9例/1000人年、DPP-4阻害薬で2.3例/1000人年の発症件数が報告されました。DPP-4阻害薬服用に比べ、SGLT2阻害薬服用では糖尿病性ケトアシドーシスの発症リスクが約2倍となりました。

このことから、SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬に比べて糖尿病性ケトアシドーシスを発症するリスクが高くなることが示唆されました。

今後もリスクとベネフィットについて研究が重ねられ、患者さんに合った医療が提供されることが望まれます。

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