小児用筋電義手の普及問題

皆さんは、「五体満足」について、考えたことはありますか?健常者にとっては、両手・両足を持ち、生まれてくることは、当たり前のことのように感じるかもしれません。

しかし、現在日本では、生まれつき手足がない子どもが、年間400人程生まれているといわれています。

医学用語では、「先天性四肢欠損障害」と呼ばれています。その程度は、四肢ともにない子どもから、手指が欠損している子まで、さまざまです。


パラリンピック金メダリストのエリー・コールの義肢 photo by Wikipedia

四肢に障害を持つ人たちにとっては、欠かせないのが「義肢」の存在です。また、「義足」と「義手」では、状況が大きく異なることをご存知でしょうか。

無くては歩くことができない義足に対して、義手は無くても生活ができる。という印象が強く、海外では普及している義手を、日本では、一部しか支援対象にしていないという現実がありました。

義足では、費用を一部負担するだけで手に入れることができます。しかし、機能性のある義手はほとんど普及していない現状なのです。

想像してみてください。片手でお菓子の袋を開けることが出来ません。はさみを使うことも出来ません。将来的に、健常者と共同生活を送るようになった時、障害を持った子ども達は、一体何を思うのでしょうか。

一方、海外に目を向けてみると、義手に対する公的支援は厚く、障害を持った子ども達は、目的に応じた専用の義手を装着して、生活しているのです。そのような現状のなか、日本でも「筋電義手」という機能性に優れた義手を導入している病院がありました。

筋電義手について

義手には、見た目を重視しした、動かない「装飾義手」、肩の動きを利用して、手や肘の部分を動かす「能動義手」、そして筋肉の収縮で生じる、微量の筋電位を利用して、本人の意思で指を動かせる「筋電義手」が存在します。

 


筋電義手 左の人物はオーウェン・ウィルソン photo by Wikipedia

筋電義手は、能動義手と比較して、握力が強く、見た目にも重視して作られています。しかし、日本で使用されている義手の8割は、装飾義手です。

そして、小児の筋電義手に関しては、3年程の訓練を通して、習熟することができれば、約150万円の費用に対して、自己負担額を0~37,200円(残りは公費負担)で購入することが可能です。その一方で、訓練用の筋電義手には、公費負担の制度がありません。

3年程の訓練をする間に、もちろん子ども達の成長に合わせて、義手のサイズも新しくする必要があります。さらに、残念ながら、子ども達が訓練を受けることができる施設は、日本に二か所しかありません。そのことから、普及が厳しい現状にありました。

今後の筋電義手の動向

現在、神戸市内にある某病院では、特に子どもの筋電義手の訓練に対応できる施設が少ないことから、県内だけでなく、近隣府県からも筋電義手を望んで訪れる子どもやご家族を受け入れ、病院や自治体によって、訓練義手を用意してきました。

しかし、さらに多くの子どもたちに対応できるように、寄付金をもとに、訓練義手を貸し出す「小児筋電義手バンク」というものを設立しました。

小児筋電義手バンクでは、筋電義手を使用する子ども達の、成長に伴って大きさが合わなくなったり、不要になった小児用筋電義手の提供を働きかけています。

筋電義手の購入やメンテナンスのために必要な寄付金を、県民や、企業などに広く呼び掛けています。そうした活動から集まった筋電義手を、訓練のために必要とする子ども達に、無償で提供しているのです。

 


写真はイメージです。 photo by pixabay

バンク設立後、筋電義手貸与1号となった女の子は、ビーズでブレスレットを作ったり、鉄棒に挑戦し、筋電義手を装着し、とても楽しんでいたようです。

ご家族からは、「このご恩は、私たち家族は一生忘れることはできません」とコメントがありました。日本では、障害を持つ子ども達について、どこに相談すればいいのか分からず、悩んでいる両親が大勢いることが現実です。一人でも多く、小児義手の存在や、知識を持ち、広めていくことが筋電義手普及に向けての、大きな第一歩になるのではないでしょうか。

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