有毛細胞白血病患者さんでみられた口腔毛状白斑症

通常、私たちの身体は免疫により守られており、病原体の感染を防いでいます。しかし、免疫力が低下すると、防御しきれず、普段は感染することのない病原体に感染してしまうことがあります。


写真はイメージです。 photo by photoAC

免疫不全により発症する感染症

私たちの周りには、細菌やウィルス、カビなどが多数存在しています。また、身体の中にもたくさんの微生物が存在しますが、私たちの身体は免疫系により守られており、通常であれば常在菌や弱毒菌に感染することはありません。

しかし、免疫力が低下していると、健康な人では感染を起こさないような病原体が原因となり、感染症を発症してしまうことがあります。このことを日和見感染とよびます。

さまざまな菌が日和見感染症の原因菌となり、緑膿菌感染症やレジオネラ肺炎などの細菌性感染症や、カンジダ症、ニューモシスチス肺炎などの真菌性、ヘルペスやサイトメガロウィルス感染症などのウィルス性の日和見感染症があります。

口腔毛状白斑症も免疫低下によりみられる感染症のひとつです。


写真はイメージです。 photo by photoAC

口腔毛状白斑症とは

口腔毛状白斑症はおもに舌の側面に、白い帯状の斑点が発生する疾患で、EBウィルスが発症に深く関わっていると考えられています。HIV感染やエイズ患者さんでみられる感染症として知られていました。

しかし最近では、免疫抑制剤を使用している移植患者さんや血液系がんの患者さん、ステロイド吸入、抗てんかん薬の使用によっても口腔毛状白斑症が発症するケースが報告されています。そのため現在では、口腔毛状白斑症はHIV特有の症状としてではなく、免疫低下状態にともなう症状として考えられるようになってきています。

口腔毛状白斑症は無症候性であり、白色病変は拭い取れないのが特徴です。病理組織的な特徴としては、上皮の過形成や棘細胞層にKoilocyte様の肥大した細胞がみられること、粘膜固有層には炎症細胞がみられないことなどが挙げられます。口腔毛状白斑症はEBウィルスを検出することにより確定診断が行われます。EBウィルスの検出には主に、in situ ハイブリダイゼーションが用いられます。


舌側面にみられる白斑症。  photo by wikipedia

有毛細胞白血病と口腔毛状白斑症

口腔毛状白斑症は免疫低下状態の際に発症する疾患として考えられており、HIVの他にも免疫抑制剤の使用などのいくつかの状況で発症することが報告されています。

Oral hairy leukoplakia arising in a patient with hairy cell leukaemia: the first reported case.」では、有毛細胞白血病の患者さんに口腔毛状白斑症がみられたことを初めて報告しています。

有毛細胞白血病は珍しい疾患であり、B細胞由来の白血病です。多くの患者さんで、脾肥大や汎血球減少、肝臓や脾臓、骨髄に浸潤がみられます。有毛細胞白血病の細胞では、不規則な毛様の細胞質突起がみられるのが特徴です。

今回報告された患者さんは48歳男性であり、6カ月間持続して、舌の右側面に白いひだ状の病変がみられたため、受診しました。初回の診断では、摩擦による角化症と診断され、治療を行いましたが、3か月たっても回復がみられず、血液検査が行われました。その結果、好中球の減少と血小板減少がみられ、さらに詳しい検査により有毛細胞白血病であることが判明しました。

そこで、舌の病変組織をみると、上皮の肥厚や肥大した細胞が存在し、粘膜固有層には炎症細胞が存在しないなどの口腔毛状白斑症の特徴がみられました。また、in situ ハイブリダイゼーションにより、EBウィルスも多く検出されました。このことから、白色病変は口腔毛状白斑症と診断が確定しました。

治療は有毛細胞白血病に対する薬物治療が行われ、プリン代謝拮抗薬により有毛細胞白血病の寛解が得られました。寛解3カ月後には口腔毛状白斑症の改善もみられました。

まとめ

口腔毛状白斑症は、HIVや免疫抑制剤の使用、急性白血病や多発性骨髄腫などでみられることが報告されていましたが、今回、有毛細胞白血病患者さんでも発症することが初めて報告されました。また、口腔毛状白斑症は原疾患の治癒により改善することを報告しています。

しかし、EBウィルスが口腔毛状白斑症の発症にどのように関わっているかなどいまだ不明なことも多く、今後さらなる解明が望まれます。

 

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