歯が原因じゃない辛い痛み、口腔顔面痛について

■はじめに

お口に生じる痛みは、いろいろあります。むし歯や歯周病の痛みなどの歯に原因する痛みは、もっぱら歯科医師が専門とする痛みです。歯に原因する痛みのことを『歯原性疼痛(しげんせいとうつう)』といいます。

しかし、患者さんの訴える痛みの中には、歯が原因ではない、つまり歯以外に原因のある痛みが含まれていることがあり、それを『口腔顔面痛』もしくは『非歯原性疼痛(ひしげんせいとうつう)』とよんでいます。

たとえ、口腔顔面痛を歯の痛みとして患者さんが訴えて来院してきても、歯科医師はそれを見極めなければなりません。歯に原因がないので、歯の治療をしても効果はありませんし、歯にとっては不必要な治療となってしまいます。それだけでなく、口腔顔面痛の中には救急治療を必要とするような病気が隠れていることもあり、歯科医師にとっては診断に一層の注意が要求されます。

そんな口腔顔面痛についてまとめてみました。


写真はイメージです。 photo by photoAC

■歯の痛みと間違えやすい口腔顔面痛

○群発頭痛(ぐんぱつずつう)

群発頭痛とは、片頭痛と同じタイプの頭痛のひとつです。生命に影響することはないのですが、非常に激しい顔面部の痛みを訴えます。その痛みは非常に激烈で、焼けた火箸を眼に入れられた様な激痛と表現されることもあるほどです。

群発頭痛の痛みは15分〜3時間ほど続き、痛みが発現している間は、痛みのためにじっとしていることは出来なくなります。

痛みの発現には特徴があり、全く痛くない寛解期と痛みが現れる群発期が認められます。群発期は、たとえば2年おきの12月といった感じに、個人個人によって決まっており、たいていの群発期は1ヶ月ほど続きます。

痛みが生じるところは、眼の周囲に多いのですが、痛みの症状によっては、患者さんは上顎の奥歯が痛いと訴えることがあり、そのとき歯科医院を受診します。

痛みの他、涙、眼の充血、鼻水、鼻づまりなどの症状も認められます。

 

○三叉神経痛

三叉神経とは、脳神経のひとつで、主に顔面部の感覚を司っています。半月神経節というところで、3つにわかれていることから名付けられました。分岐した後は、上から三叉神経第一枝・三叉神経第二枝・三叉神経第三枝とされ、それぞれ眼神経、上顎神経、下顎神経とよばれています。

三叉神経痛とは、この三叉神経の支配領域、おもに上顎神経と下顎神経の領域に瞬間的な激しい疼痛を生じる病気のことです。その痛みは、電気が走った様な痛み、顔がえぐられる様な痛みといわれるほどに激しいものなのですが、持続時間は短く1〜2分程度です。

三叉神経痛には、痛みを引き起こす引き金となるポイントがあり、そこを刺激すると痛みがおこります。この引き金となるところのことをトリガーゾーンといいます。

痛みが起こっていない時には、全く症状がありません。

三叉神経痛の痛みを、上顎や下顎の歯の痛みとして訴えることがあり、こうした患者さんが歯の痛みを主訴に歯科医院を受診します。けれども、痛みの症状以外に歯や骨に、レントゲン上でも異常は認められず、むし歯とは異なり歯に対して冷たい刺激や叩いた刺激を与えても反応はありません。


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○歯性上顎洞炎

上顎洞とは、4つある副鼻腔のひとつで、鼻の横、眼の下、上顎の上にある骨の空洞のことです。副鼻腔は、そのほか前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞があり、すべて鼻とつながっています。

上顎洞炎とは、上顎洞に起こった炎症のことで、いわゆる蓄膿症です。その中でも特に歯が原因で起こった上顎洞炎のことを歯性上顎洞炎といいます。

歯性上顎洞炎の症状は、片側だけの鼻づまりや頬の腫れや痛み、頭痛ですが、歯の痛みや浮いた感じ、噛んだときの歯の痛みもおこります。

歯性上顎洞炎を起こす原因は、多くの場合が上顎のむし歯や根尖病巣とよばれる歯根の先に生じた膿の袋です。

むし歯や歯の根の治療が必要となりますが、急性期に場合は抗菌薬を使って炎症を抑えることがたいせつです。

 

○非定型歯痛(ひていけいしつう)

非定型歯痛とは、レントゲン写真などでは明確な所見がないにも関わらず生じている原因不明の歯の痛みのことです。

歯原性疼痛に似た症状なので、むし歯を詰める治療や、歯の神経をとる治療を何度繰り返されることがあります。しかし痛みがなくなることはありません。最終的に抜歯をされることもありますが、やはり痛みはなくなりません。

非定型歯痛は、局所麻酔の注射をしても、痛みがなくなったり、なくならなかったりと、反応が不明確です。

原因はよくわかっていません。脳の内部で痛みの感覚を担っている部分に異常が生じているのではないかと考えられています。

非定型歯痛がおこるきっかけがある場合もあれば、ないものもあります。きっかけがあるとされる非定型歯痛には、歯科治療が契機となって起こった症例も報告されています。

 

■顎関節症と間違えやすい口腔顔面痛


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○側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)

側頭動脈炎とは、頸動脈やその枝の1つである側頭動脈に炎症を起こす病気のことです。

50代以降に起こることが多いとされます。男女比では女性に多いです。

側頭動脈炎の症状は、側頭部の痛みや頭痛、特にずきんずきんと拍動する様な頭痛です。炎症を起こしている側頭動脈は、腫れてきて、触れると痛みを生じます。発熱も起こります。視力障害も認められ、5〜10%には失明も認められます。

食べ物を噛んだ時に咬筋の痛みや、お口を開けにくくなる症状もあり、このために顎関節症と思って歯科医院を受診することがあります。

 

○舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)

舌咽神経痛とは、舌の奥や咽頭、耳の奥など舌咽神経の領域に痛みを生じる病気のことです。

その症状は、瞬間的な痛みですが、焼ける様な痛みと表現されることもある激しい痛みです。 この痛みは片側性で、舌咽神経の支配領域に限られます。

舌咽神経痛は、食べ物を食べたり飲み込んだりする刺激、せきやくしゃみ、大きな口を開ける、会話をするなどの刺激によって痛みが引き起こされます。つまり、痛みを誘発する引き金があるのが特徴です。

激しい痛みのために、患側の眼が充血したり、涙が出たりします。

大きなお口を開けた時に、これが誘因となって顎関節付近に痛みが生じることがあるので、顎関節症と思って歯科医院を受診します。

 

○薬物乱用頭痛

薬物乱用頭痛とは、鎮痛薬を頻繁に飲むことで生じる頭痛のことです。

その原因は、鎮痛薬を飲み過ぎることで、脳の中の痛みに関連する神経が攪乱されることにあり、その結果、頭痛が連日生じるようになります。

側頭部の頭痛を、顎関節症の痛みと思って歯科医院を受診します。そこでマウスピースを作ってみても、顎関節症ではないので頭痛は改善しません。

薬物乱用頭痛の診断には、問診が大切です。3ヶ月以上にわたって、市販の鎮痛薬を1ヶ月あたり10日以上使っていたら、薬物乱用頭痛の可能性が高くなります。

 

■口腔顔面痛の原因に応じた専門の診療科

口腔顔面痛の原因となる病気に応じて、受診する診療科が異なってきます。中には歯科医師が治療出来る病気もありますが、そうでないものもあり、その場合は専門医に原因疾患の治療を依頼します。

以下にそれぞれの病気に応じた診療科を紹介していますが、病気によっては診療科が重複している場合があります。どの診療科であっても問題ありません。


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○群発頭痛

診療科は神経内科です。

群発頭痛の治療法は、まずはイミノグランという名前の薬を注射します。イミノグランは、トリプタン系の片頭痛の薬ですが、注射から10分ほどで効果が出るほど有効性の高い薬です。

群発頭痛の痛みの発作時間を短縮するのには酸素投与も有効です。酸素は1分間あたり7[ℓ]を15〜20分程度投与します。

 

○三叉神経痛

診療科は、歯科口腔外科、神経内科、脳神経外科です。

三叉神経痛の治療の第一選択は、薬物療法です。テグレトールとよばれる抗けいれん薬が効果的です。その他、神経ブロックや微小血管減圧術が行なわれることもあります。

 

○上顎洞炎

診療科は歯性上顎洞炎なら歯科口腔外科です。なお、それ以外は耳鼻咽喉科になります。

治療法は、急性期は抗菌薬による炎症の緩和です。その後、原因となるむし歯の治療や抜歯を行ないます。

 

○非定型歯痛

診療科は歯科口腔外科

治療法は薬物療法です。三還系抗うつ薬が効果的とされます。

 

○側頭動脈炎

診療科は神経内科です。

治療法は、薬物療法です。ステロイド剤の投与が有効です。失明を予防するために、早期に投与することが求められます。ステロイド剤に副作用がある場合は、免疫抑制剤が使われます。

 

○舌咽神経痛

診療科は、歯科口腔外科、神経内科、脳神経外科、耳鼻咽喉科です。

治療法は、薬物療法がまず行なわれます。三叉神経痛と同じくテグレトールが使われることもあれば、リリカとよばれる神経障害性疼痛治療薬が使われることもあります。

 

○薬物乱用頭痛

診療科は、神経内科や脳神経外科です。

治療法は、不必要な鎮痛薬をやめることです。急にやめると、頭痛が一時的にひどくなることもあり、これが原因となり身体的な依存やリバウンドが起こることも指摘されています。このようなときは、一度に鎮痛薬をやめるのではなく、徐々に減らしていくことも有効です。


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■まとめ

口腔顔面痛とは、歯に原因がないお口や顔面部の痛みのことです。

症状が似ているために、患者さんはむし歯の痛みや顎関節症による痛みを思って歯科医院を受診します。しかし、歯や顎関節には異常がないので、その治療を行なっても痛みがなくなることはありません。

口腔顔面痛には、その病気に応じた治療が必要です。口腔顔面痛の中には側頭動脈炎のように早期に治療に取りかからないと失明を生じるおそれのある病気もあり、その診断はとても重要です。

通常のむし歯や顎関節症の痛みとは比べ物はならないような激しい痛み、発熱、鼻詰まり、長期にわたって続く頭痛など、この様な症状の場合は、単なる歯や顎関節症によるものではないかもしれません。一度口腔顔面痛を疑ってみたほうがいいでしょう。

 

 

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