IgG4関連疾患 全身のいろいろなところが腫れる!?

[IgG4関連疾患とは]

「IgG4関連疾患」は2001年に日本人によって初めて報告され、2003年にIgG4関連全身性疾患として提唱された比較的新しい疾患の概念です。2011年に日本で「IgG4関連疾患包括診断基準」が提唱されました。国際的にも「IgG4-related disease(IgG4関連疾患)」の名称が認められています。

IgG4関連疾患は「涙腺、唾液腺、中枢神経系、リンパ節、甲状腺、肺、心臓、乳腺、肝臓、膵臓、胆管、大動脈、後腹膜、前立腺、皮膚」などの全身にわたって腫瘤(こぶ)や肥厚性の病変がおきる全身性の疾患です。

写真はイメージです。photo by irasutoya

すべての部分が同時におかされるわけではありませんが、ひとつの臓器だけでなく複数の臓器に同時に症状がでるケースが多く、数ヶ月から数年後に別の臓器に症状がでることも知られています。

症状は患者さんによって異なります。IgG4が、異常に増加しておかされた部分にはIgG4陽性形質細胞の組織浸潤がみられます。いいかえるとIgG4が異常に増えてからだの特定部位に炎症を起こして腫れる病気です。全国で約26000人患者がいるといわれており、50歳から60歳の男性に多い病気です。涙腺や唾液腺の発症についての男女差はありません。厚生労働省の難病指定を受けています。

IgG4関連疾患の「IgG4」ってなんでしょうね。どこかで聞いたことはありませんか。花粉症などで耳にするIgE抗体と同じ免疫グロブリンの一つです。

IgG4ってなに?

免疫グロブリン(Immunoglobulin:Ig)は私たちのからだを守る免疫機能において大きな役割を果たします。「IgG、IgA、IgM、IgD、IgE」の5種類があります。そのなかでIgGは血液中に多く含まれていて細菌やウィルスなどの抗原に対する抗体を多く含んでいます。

igG抗体photo by wikimedia

IgGに1~4のサブタイプがあります。番号の若い順にからだの中に含まれる量が多くなっています。IgG4はIgGの中で一番少ないものです。IgG4関連疾患ではIgG4が異常に増えます。

[IgG4関連疾患の症状]

どの臓器で発症するかによってさまざまな症状がおきます。IgG4関連疾患はその名前の通りに複数の病気を包括したものです。ただし、以下の病気の原因のすべてがIgG4関連疾患というわけではありません。

涙腺・唾液腺系ミクリッツ病、キュットネル腫瘍(顎下腺)、涙腺炎、

眼部IgG4関連疾患

呼吸器系間質性肺炎、炎症性偽腫瘍、縦隔線維症
消化器系消化器系
肝臓・胆道系硬化性胆管炎、肝臓炎症性偽腫瘍
膵臓自己免疫性膵炎
腎臓・泌尿器系IgG4関連腎臓病、後腹膜線維症(オーモンド病)、前立腺炎
内分泌系自己免疫性下垂体炎、リーデル甲状腺炎、糖尿病
神経系肥厚性硬膜炎
リンパ系IgG4関連リンパ節症
心血管系炎症性大動脈瘤、大動脈周囲炎、動脈周囲炎

たくさんの聞きなれない病名が並んでますね。いくつかの部位でおもにどのような症状が現われるのかをみてみましょう。

脳の下垂体
視野の異常、疲労感、低血圧、食欲不振、低体温、尿量の増加などのホルモン欠乏症状が現われます。
耳下腺、顎下腺、舌下腺、涙腺
まぶた、耳下腺、顎下腺の左右対称の腫れがでてくるミクリッツ病を発症します。痛みがないのが特徴です。目が乾く、口が渇くといった症状もみられます。
膵臓
黄疸、腹痛、体重減少、糖尿病などが症状の自己免疫性膵炎を発症します。
息切れや咳などの喘息のような症状がみられ間質性肺炎の症状を引き起こします。
腎臓
自覚症状がみられずに腎臓の機能が悪化することがみられます。背中の痛み、尿が出にくくなるもしくは出ないなどの腎機能障害や尿管狭窄を発症します。

このなかでも2大好発部位といわれるのが涙腺・唾液腺などのミクリッツ病と膵臓の自己免疫性膵炎です。ミクリッツ病とあわせてほかの部位でも発症しているということが比較的多く見られます。

写真はイメージです。photo by irasutoya

膵臓、腎臓、後腹膜、肺などに病変がある場合、病状が進むにつれて臓器の線維化が進むことで不可逆的な臓器障害をきたす可能性があります。できるだけ早期の治療開始が必要です。

[IgG4関連疾患の診断と治療]

IgG4関連疾患の診断

IgG4関連疾患の診断は主に2011年に作成された「IgG4関連疾患包括診断基準」を用いますが、部位によって症状が異なるので主な臓器ごとの診断基準も作られています。

IgG4関連疾患包括診断基準についてみてみましょう。血液検査、画像検査、病理検査が行われます。

1.1つもしくは複数の臓器で腫れ、腫瘤、結節、肥厚などの部分がある。

2.血液検査で血清IgG4の値が135 mg/dL以上である。

3.病理学的な所見として特徴的なIgG4陽性の形質細胞が増えている。IgG陽性細胞のうち40%超のIgG4陽性細胞がみられ、かつ顕微鏡で400倍拡大の視野に10個以上のIgG4陽性細胞がある。

すべての項目を満たした場合に「確定」、1と3を満たした場合には「可能性あり」、1と2を満たした場合には「疑いがある」と判断します。とくに「3」の病理検査が確定診断の重要な要素になります。

写真はイメージです。photo by pixaboy

判断基準を満たしても悪性腫瘍や同じような症状を引き起こすほかの病気との鑑別診断が必要です。とくに悪性腫瘍との鑑別をしっかりと除外する必要があります。血清IgG4の値が高値になる疾病もあるので総合的な判断が必要とされています。

IgG4関連疾患であるのにほかの病気と診断される、ほかの病気なのにIgG4関連疾患と診断されてしまうこともあるといわれる診断のむずかしい病気です。

IgG4関連疾患は全身のどこにでも発症してもおかしくないために、症状がでていないほかの部位でも病変がないか画像診断で確認することも行われます。

IgG4関連疾患の治療

現時点で確実に治癒するといった治療法は確立されていない難治性の疾患ですが、ステロイドで症状をおさえられることがわかっています。

一般的な治療方法ではステロイドのひとつであるプレドニゾロンを体重1kgあたり0.6mgを2~4週間投与します。その後は約2週間ごとに5mg程度ずつ減量して、最終的には1日5~10mg程度継続する維持療法がおこなわれます。

維持療法がうまく行けば病気をコントロールすることができます。約70%~80%以上の患者さんがプレドニゾロンで症状がおさまった状態(寛解状態)に至ることから予後は良好だといわれています。

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プレドニゾロンの早急な減量などによって症状の再燃がみられるケースがあります。また、プレドニゾロンをやめると90%~95%以上の患者さんで症状が再燃するとされています。

再燃した場合には半数の患者さんでは最初に症状がでた臓器とは違うところで発症するという報告があります。再燃した場合にはおもにプレドニゾロンの増量や後述する免疫抑制剤などを用いて対処します。

一部の患者さんではプレドニゾロンに抵抗性を示したり、プレドニゾロンの減量がむずかしいといったことがみられます。このようなケースでは免疫抑制剤である「アザチオプリン」、「ミコフェノール酸モフェチル」などが有効であることが報告されています。しかし、評価は確定されたものではありません。

欧米で効果があるという報告されている抗CD20抗体薬の「リツキシマブ」が用いられる場合があります。日本ではリツキシマブについて厚生労働省の研究班の臨床試験が始まっている段階です。国内の医療機関でも効果は確認されていますが、繰り返し使わないと症状が再燃する、だんだんと効かなくなるとの報告もあり未知数なところがあります。

IgG4関連疾患の長期予後については概念として提唱されてから日が浅いためハッキリしたことはわかっていません。

[IgG4関連疾患の今後は]

現時点ではIgG4関連疾患の原因は不明です。IgG4関連疾患で免疫反応を抑制する制御性T細胞の発現が認められることから、制御性T細胞の関与が指摘されていましたが単に炎症をおさえるために集まってきているだけかIgG4関連疾患自体に関わっているかはわかっていません。

興味深いのはアレルギー性疾患の合併が7割程度の患者さんにみられるということです。IgG4関連疾患の診断が確定するしばらく前からアレルギー性鼻炎や花粉症の症状が現われるケースもあります。アレルギー性疾患との関連について特定はされていませんが、アレルゲンに対して働く免疫グロブリンIgEがかなり高い症例もあります。

なんらかのアレルギー性の炎症が背景にあって、関連するような複数の要因が関与することで発症するのではないかという考えもあります。そうなると制御性T細胞が最初のアレルギー性の炎症をおさえるために集まってきたと考えられるからです。

写真はイメージです。photo by pixaboy

あくまでもIgG4関連疾患に対するひとつの考察ですが、現時点では発症のメカニズムの解明や治療法の確立についての研究やガイドラインの作成が進められています。

 

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