インプラントをあきらめるのには早すぎる!? サイナスリフトとソケットリフト

■はじめに

永久歯は、一度抜けてしまうと残念なことに、もう二度とはえてくることはありません。
ところが困ったことに、人間はむし歯や歯周病やケガなどのいろいろな原因で、歯を抜かなければならないことがたくさんあります。
そんなとき、保健診療ではブリッジや入れ歯を入れて再び噛めるようにするのですが、ブリッジは歯を削らなくてはいけません。

歯を削るとしみて痛くなるかもしれませんし、むし歯にもなりやすくなります。
入れ歯は歯を削らなくてもいいのですが、サイズが一回り大きいので違和感が大きいです。食後は外して洗わなければならず、特に外出時など人前で入れ歯を外すことに抵抗感のある人も多いです。
そんな理由でブリッジや入れ歯は入れたくない、使いたくないって人におすすめなのが、インプラントです。

インプラントは、ブリッジや入れ歯の欠点を克服した優れた治療法ですが、骨がしっかりしていないとできないという弱点もあります。


写真はイメージです。 photo by pixabay

■インプラントと骨

インプラント治療は、主にチタニウムで作られた人工の歯根を顎の骨に埋め込んで、失われた歯を補う治療法です。
歯を失った時に行われる治療法には、ブリッジや入れ歯がありますが、インプラント治療にはこれらにないアドバンテージがあります。すなわち、ブリッジのように歯を削る必要がない、そして入れ歯のような違和感がない、しっかりと噛めるという点です。

これらの利点は、お互いが相容れないブリッジの利点とブリッジの利点でもあるわけですが、そんな利点の多いインプラントが成功するためには、インプラントを埋める場所の骨がしっかりとしていなければならないという条件があります。
骨がしっかりと残っていないところにインプラントを入れても、しっかりと安定させることができないからです。

 

■骨の条件について

○上顎骨は薄い
人間の歯は、上顎骨と下顎骨という2種類の顎に生えています。
同じ顎の骨のように見えると思われますが、実は上顎骨と下顎骨を比べると両者には大きな違いがあるのです。
まず、骨の構造が違います。上顎骨は、下顎骨と比べて皮質骨という骨の外側の硬い部分の厚みが薄いです。
そして、上顎骨の上には上顎洞という頭の骨の中でも最も広い空洞が広がっています。そのために、特に奥歯の上方の骨の幅が薄くなっているのです。
例えば、高層ビルを立てようとするとき、基礎はしっかりとした厚みのある岩盤に埋めなければ、ビルは安定できないので倒れてしまいます。

この点でインプラントも似ています。インプラントを埋める骨の皮質骨が分厚く、そして硬い方がより安定できるので良いのです。
ところが、困ったことに上顎骨の場合は、皮質骨が薄いというだけでなく、上顎骨の上に上顎洞があるので、もともと骨の幅や厚みも少ないのです。これは、インプラントにとってはあまりよろしくない条件といえます。


上顎骨と下顎骨 photo by illust-ac

○歯槽骨も減ってくる
厳密な視点で見ると、歯槽骨という歯を支えている骨と、顎の骨は違います。顎の骨の上に歯槽骨がのっている状態です。

もし歯が無くなってしまうと、歯槽骨が要らなくなります。ヒトの身体は、不要になったものは排除しようとする働きを持っていますので、歯槽骨も不要となると、自然に吸収されて減っていきます。
顎の骨はなかなか減りませんが、歯槽骨が減る分、骨の厚みが減ってしまうというわけです。

○骨が薄いと
上顎にインプラントをしようとレントゲン写真やCTを撮影して、骨の厚みや幅を調べると、前述の条件から骨が薄くて難しいと判断されることも珍しくありません。

でも、インプラントをあきらめるのは早すぎです。実は上顎骨の厚みや幅を増してインプラントを可能とする方法が開発されています。それが、サイナスリフトとソケットリフトと呼ばれる方法です。

■サイナスリフト

○サイナスリフトってなに?
サイナスリフトは、日本語では上顎洞底挙上術とよばれる上顎骨の骨の厚みを増すための手術のことです。

サイナスインレーグラフト手術とよばれることもあります。
サイナスリフトでは、インプラントを埋め込みたい部分の側面の歯ぐきを切開するところから始まります。切開した後、露出する上顎骨を削って穴をあけ、そこから上顎洞底部の粘膜と上顎骨との間に人工骨や体の他の部分から採取した骨を移植します。

骨を移植することにより、上顎の薄い骨を厚くするのです。
移植した骨は安定するまでに、サイナスリフトを行なって4〜6ヶ月ほどの期間がかかります。

その間は、インプラント手術はできませんので、しばらくは入れ歯などですごさなければなりません。
サイナスリフトは、骨を削ったり移植したりする外科手術ですが、局所麻酔で出来ます。


写真はイメージです。 photo by photo AC

○サイナスリフトの利点
サイナスリフトをすることの利点は何でしょうか?
インプラントを成功させるためには、骨の厚みがしっかりしていることが大切です。

上顎骨が吸収されて、インプラントができないほど薄くなっているときでも、骨の厚みが確保できるようになることが、サイナスリフトの最大の利点です。後述するソケットリフトのような限度もありません。

○サイナスリフトの欠点
では、サイナスリフトの欠点はどんなことがあるのでしょうか?
サイナスリフトの手術中、上顎洞の粘膜を剥離しているときに、粘膜に穴があいてしまうことがあります。

粘膜にあいた穴が、小さいなら問題ないとされていますが、大きな穴があいてしまったら、そこから上顎洞炎を引き起こす可能性が考えられます。そして、開いた穴から移植した骨が漏れ出して、上顎骨の厚みを確保することが出来なくなるかもしれません。
粘膜は薄く弱いものなので、専用の器具を使って慎重に剥離しますが、剥離手術が難しいところがサイナスリフトの欠点といえるかもしれませんね。
移植した骨が安定するまで、インプラントを埋める手術ができないので治療期間が長くなってしまいます。どれくらいの期間かというと、半年から1年弱です。かなり長い期間と言えます。
インプラント治療の期間が長くなってしまうことも欠点に挙げられます。


写真はイメージです。 photo by photo AC

■ソケットリフト

○ソケットリフトってなに?
インプラント治療の時に形成したインプラントを入れるための穴から、上顎洞底と上顎洞粘膜との間に、体の他の部分から採取した骨や人工骨を移植して上顎骨の厚みを確保する方法です。
骨の手術ですが、サイナスリフトと同じく局所麻酔で行なえる手術です。

○ソケットリフトの利点
ソケットリフトの利点について説明します。
一番の利点は、インプラントを埋め込む手術と同時に行うことができることです。サイナスリフトは、移植骨や人工骨を入れた後、入れた骨が安定してくるまで数ヶ月の間待たなければなりません。ソケットリフトとは、インプラント手術と同時に行なえるので、治療期間が短くてすみます。早く噛み合わせを回復できる点は、魅力的です。
また、ソケットリフトは、サイナスリフトのように骨を移植するために、インプラントと関係のないところのお口の粘膜を切開しません。移植骨を採取する必要もありません。
手術に際して、体にかかる負担がサイナスリフトよりも少ないのも利点といえるでしょうね。

○ソケットリフトの欠点
一方、ソケットリフトにも欠点はあります。
ソケットリフトは、上顎骨の厚みが薄い時に使う術式でありながら、薄過ぎると適応できないことがあるのです。ソケットリフトで対応するなら、上顎骨の厚みが少なくとも3〜5[mm]は必要とされています。
ソケットリフトでは、インプラントを入れるために形成した穴から上顎洞粘膜を持ち上げなければなりません。この穴は直径が数[mm]の細い穴です。この細い穴から上顎洞底部の粘膜を剥がして持ち上げるのですから、難しい手術になります。
粘膜を持ち上げる時、上顎洞底に穴を開けてしまうと、そこから入れた移植骨が上顎洞内部に漏れ出したり、上顎洞炎を引き起こしたり、さらには、インプラントが感染を起こして骨と結合できなくなる可能性が生まれます。
処置自体が難しいことも欠点といえるかもしれません。


写真はイメージです。 photo by pixabay

■まとめ

上顎骨の厚みが薄いからといって、インプラントをあきらめるのはまだ早いです。
なぜなら、サイナスリフトとソケットリフトという骨の厚みを確保する術式が確立されているからです。
これらサイナスリフトとソケットリフトとの違いは、お分りいただけましたでしょうか?
簡単に両者の違いを説明すれば、サイナスリフトはインプラントを入れようとする部位の横から、ソケットリフトはインプラントを入れようと開けた穴から、取りかかるという点が異なります。
体に対する負担という視点で見ると、ソケットリフトの方が優れていますが、骨増生という点では、サイナスリフトの方が優れています。
どちらの方が適しているのか、歯科医師とよく相談して決めてくださいね。

 

 

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