免疫機能をコントロールする能力を兼ね備えた新たなCAR-T細胞とは

がんの治療は日々進化しており、5年生存率も世界各国で上昇している傾向にあります。しかしながら、いまだがんにより命を落とす方は多く、さらに有効な治療法を求めて世界中で研究が行われています。

CAR-T細胞療法とは

世界中でがん治療の研究が行われていますが、最近注目を浴びているのがCAR-T細胞療法です。

世界に先駆けてアメリカでは、2017年にB細胞性急性リンパ球性白血病治療法としてキムリアが承認されています。新たな治療法という他にも、1回の治療費が約5300万円と高額であることも話題になりました。

CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞に、がんを特異的に認識し攻撃できるように遺伝子操作を行い、それを患者さんに戻すという治療法です。


写真はイメージです。 photo by photo AC

T細胞は、細菌やがん細胞などの異物から体を守る役割を担っているリンパ球の一種です。T細胞は通常、T細胞受容体(TCR)でがんを異物として認識していますが、このTCRががんの目印となる腫瘍抗原に長期間さらされていると、弱体化することが知られています。

そこで、CAR-T細胞療法では、患者さん由来のT細胞に抗原を特異的に認識する抗体由来の部分と、TCR由来の細胞傷害性機能部分を結合させて人工的に作製したキメラ抗原受容体(CAR)を加える遺伝子操作を行い、がん抗原を特異的に認識できるようにします。そのことにより、CAR-T細胞が標的がん細胞抗原を発現する細胞を特異的に攻撃し、抗腫瘍効果を発揮する仕組みとなっています。

実際に、キムリアの臨床試験では、投与後3ヶ月以内に急性リンパ球性白血病患者さんの83%でがん細胞が消失するという高い治療成績が報告されています。

日本で開発がすすめられている新たなCAR-T細胞

急性リンパ球性白血病に限らず、さまざまながんに対して開発がすすめられているCAR-T療法ですが、血液がんには高い効果を発揮する一方で、固形がんに対しての効果は十分ではないことが一つの課題となっていました。

そこで、2018年、山口大学の研究グループでは、固形がんにたいして治療効果の高いCAR-T細胞の研究を行い、免疫機能調整型次世代キメラ抗原受容体発現T細胞である「Prime CAR-T細胞」を開発したことを報告しています。

固形がんにたいするCAR-T細胞療法では、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が重要と考えられており、免疫機能をコントロールする能力をCAR-T細胞に加えることにより高い治療効果を発揮するのではという考えのもと研究がすすめられています。

今回の研究では、IL-7と呼ばれるサイトカインとCCL19と呼ばれるケモカインの両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞を開発しています。

開発したCAR-T細胞をモデルマウスに投与した結果、腫瘍内部にT細胞や樹状細胞の著しい浸潤が誘導され、投与を受けた宿主側のT細胞と協調して相乗的に極めて強力な抗がん作用を発揮することが示唆されました。また、投与をうけたマウスでは、長期的にがんにたいする免疫記憶も形成されており、がんの再発を予防できる可能性があることも報告しています。


写真はイメージです。photo by pixabay

現在、新たながん治療法であるCAR-T細胞療法が注目を集めており、世界各国で研究がすすめられています。今回、免疫機能をコントロールする能力を兼ね備えたPrime CAR-T細胞が開発されたことにより、今後、固形がんにたいしても高い効果をもつCAR-T細胞療法の誕生につながることが期待されています。

 

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