早期胃がん切除後のピロリ菌除菌の効果

ピロリ菌は、胃の中に生息し、胃炎や胃潰瘍、胃がんなど、さまざまな疾患との関連が指摘されている細菌です。日本人の約50%弱が感染していると推定されており、とくに、衛生環境が十分に整っていなかったときに幼児期をすごした60代以上の方では感染率が高いといわれています。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、らせん形のグラム陰性微好気性細菌に分類される細菌です。通常の細菌は胃酸の中では生息できませんが、ピロリ菌は胃酸を中和する酵素を分泌しており、自らの周りの酸性度を下げることで胃の中でも生息することが可能となっています。


ピロリ菌の電子顕微鏡写真。 photo by wikipedia

人から人への経口感染や井戸水から感染することが多く、ほとんどが幼児期に感染すると考えられています。

ピロリ菌に一度感染すると、除菌しない限りは胃の中に生息し続け、持続的な炎症を引き起こします。感染が長く続くと慢性胃炎となり、胃の粘膜を防御する力が低下していき、萎縮性胃炎や胃・十二指腸潰瘍のリスクが上昇することが知られています。また、萎縮が進むと、胃粘膜の炎症が持続し、胃がんのリスクも高まると考えられています。実際に、ピロリ菌に感染している人は、していない人に比べて、胃がんのリスクが10倍以上にもなるとの報告もされています。

これらの疾患以外にも、ピロリ菌は、胃MALTリンパ腫や機能性胃腸炎、特発性血小板減少性紫斑病などさまざまな疾患との関連性が指摘されています。

内視鏡的切除術をうけた早期胃がんにたいするピロリ菌除菌の効果

胃の粘膜または粘膜下層にとどまる早期胃癌の患者では、多くの場合、粘膜萎縮が進んでおり、新しい胃がんが発生するリスクが高いと言われています。

そこで、「Helicobacter pylori Therapy for the Prevention of Metachronous Gastric Cancer」では、早期胃癌または高異型度腺腫の内視鏡的切除後の抗菌薬によるピロリ菌除菌が、異時性胃がんの予防と萎縮に及ぼす影響について報告しています。

早期胃癌または高異型度腺腫の内視鏡的切除をうけた患者さんを対象に、抗菌薬を投与(ピロリ菌を除菌)する群とプラセボ群に分け、内視鏡検査で発見された異時性胃癌の発生と,胃体部小彎における粘膜萎縮の程度のベースラインからの改善について検討しています。

その結果、追跡中央値5.9年のあいだに、異時性胃がんの発生率は、除菌群では7.2%、プラセボ群では13.4%となり、ハザード比0.50で有意な発生率の低下がみられました。また、組織学解析の結果では、胃体部小彎における萎縮程度のベースラインからの改善が、除菌群で48.4%、プラセボ群で15.0%となり、除菌により有意な改善がみられました。

このことから、内視鏡的切除後に除菌治療をうけた早期胃癌患者では、異時性胃癌の発生率が低く,胃体部萎縮程度の改善がえられることが示唆されました。


写真はイメージです。 photo by illust-ac

ピロリ菌は、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因とひとつとされており、胃がんとの関連も注目されています。

国民の約半数が感染しているといわれていますが、除菌により、これらの疾患が改善したり、予防できる場合があります。感染していても自覚症状がない方も多くいらっしゃいますが、胃の不快感を繰り返す場合などには、我慢せずに医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

 

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