病気の原因を解き明かす、より良い予防対策や治療法のためにおこなうのが臨床研究です。
患者さんの協力を受けて、治療の効果や経過を観察し、その後の医療へと反映させます。研究の目的は、臨床結果に基づく患者さんの病状改善や生活の向上です。そこには、人として守るべきルールがあり、研究倫理のガイドラインがあります。
かつては、倫理的なガイドラインが明確化されておらず、非人道的な研究もおこなわれていました。1つの事件報道がきっかけとなり、現在も研究倫理の指針となっているベルモントレポートが発表されます。
タスキギー事件とベルモントレポート
1932年から1972年にかけて、アラバマ州タスキギーでおこなわれた臨床研究。無料治療の提供を名目に、当時貧困のアフリカ系アメリカ人を募集、治療法が確立されていなかった、梅毒の自然経過の観察をおこないます。
被験者には適切な治療がされず観察が続けられたため、被験者死亡や配偶者間感染などがおこりました。1972年の報道により公にされ大問題となり、この報道をきっかけとして、ベルモントレポートへとつながります。
医師や弁護士、倫理学者などのメンバーで作られた国家委員会により、1979年ベルモントレポートは発表されます。被験者を保護するために作られ、「人格の尊重」「善行」「正義」の倫理規範の3原則で構成されています。
国際的な宣言ではなく一つの報告書ですが、世界的に広まり、医療や臨床研究における倫理の指針、ガイドラインです。
被験者の権利を守る倫理規範の3原則とは
人格の尊重
自律的な主体として扱われるべきであること、自律性の弱い個人にも配慮することの2つの倫理規範があります。
強制をともなわない被験者の自発的な参加や、リスクを含めた十分な説明の必要性、自律性の弱い幼い子供の場合には保護者への説明、治験への同意をしっかりと行う必要があります。
善行
リスク(不利益)とベネフィット(利益)の難しい判断が要求されます。Aという病状に効果的な新しい治療法は、他の身体器官に深刻的な悪影響を与える場合、リスクの方が大きく善行の原則では認められません。
つねに不利益と利益のバランスに配慮し、単独ではなく幾つもの審査を経て、被験者に対しベネフィット(利益)が上回ることを証明しなければなりません。
正義
正義の原則では、被験者を選ぶ場合の公平性を説いています。これには、個人と集団の2つがあり、個人の公平性ではリスクの高い治験のとき、気に入らない対象を選ぶなど贔屓があってはいけません。
集団における被験者選定などの場合、人種や性別、文化を理由に選定から外してはいけないことを説いています。
このような研究倫理に基づくガイドラインのもとで、臨床研究は行われなければなりません。臨床研究に参加する患者さんが、倫理的に不適切な行為をされたり、研究に参加することで不利益を被ることがあってはならないのです。
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