巨細胞性動脈炎治療におけるトシリズマブ投与の有用性

巨細胞性動脈炎は、大動脈またはそれにつながる動脈で起こる動脈炎であり、日本では10万人に1.4人程度が発症している難病に指定にされている疾患です。男性よりも50歳以上の女性に多くみられ、失明の原因ともなることから早期の治療が必要となります。


写真はイメージです。 photo by pixabay

巨細胞性動脈炎とは

巨細胞性動脈炎は、頭の外側にある側頭動脈が傷害されることが多いことから、側頭動脈炎ともよばれています。大動脈または中型の動脈に、巨細胞をともなう肉芽腫を形成するのが特徴です。巨細胞性動脈炎患者さんの約40%にリウマチ性多発性筋痛症をみとめ、リウマチ性多発筋痛症の約15%の患者さんは巨細胞性動脈炎を合併するといわれています。

巨細胞性動脈炎では、側頭部の拍動性・片側性の頭痛が多く発現し、側頭部に拡張した側頭動脈がみられます。また、約半数の患者さんで咀嚼時の顎の痛みがみられるのも特徴です。その他、倦怠感や食欲低下などの全身症状があらわれる場合もあります。

病気が進行すると、失明や動脈瘤、閉塞などの動脈病変につながるため注意が必要です。失明は、血管炎により血流が低下し、視神経に十分な栄養が行かなくなることで起こります。約20%の患者さんが視力の完全または部分的な消失をきたすと報告されています。また、動脈病変がみられる場合もあり、巨細胞性動脈炎患者さんの胸部または腹部の大動脈瘤の発生頻度は、健常人と比べるとそれぞれ17倍、2.5倍多いと報告されています。破裂すると命に関わることから定期的な診断が必要です。その他、末梢動脈では狭窄や閉塞がみられることもあります。

巨細胞性動脈炎の治療法

巨細胞性動脈炎の治療は、おもにステロイドによる薬物療法が行われます。一般的に、プレドニゾロンの大量投与(40~60mg/日)を行い、病状をみながら徐々に減量していきます。また、失明や脳梗塞の予防を目的として低用量アスピリンが併用されます。早期からのステロイド投与により、予後は比較的良好で、多くの患者さんで症状の軽快がみられています。

しかし、中にはステロイド抵抗性の患者さんや、ステロイドの漸減により再燃する患者さんもいます。ステロイドの服用が長期になると、副作用のリスクも高くなることから、再燃することなくステロイドを減らす有効な治療法が求められています。


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トシリズマブを併用したステロイド漸減の有効性

現在、ステロイド抵抗性の患者さんや再燃に対して免疫抑制剤の併用などが行われていますが、最近では生物学的製剤の有効性にも注目が集まっています。2017年7月に発表された論文「Trial of Tocilizumab in Giant-Cell Arteritis」では、ステロイド漸減にともなう再燃に対するIL-6阻害薬トシリズマブの有効性について報告しています。IL-6は炎症性サイトカインのひとつで、炎症反応に深く関与することがしられている物質です。

巨細胞性動脈炎患者さんを対象に、26週かけてプレドニゾンを漸減する過程で、トシリズマブを毎週皮下注射する群と、隔週皮下投与する群、プラセボを投与する群、および52週かけてプレドニゾンを漸減しプラセボを投与する群の4群に分け、52週目でのプレドニゾン服用なく寛解を維持していたトシリズマブ投与患者さんの割合とプラセボ群とを比較しています。

結果、52週時点で寛解を維持していた割合は、トシリズマブ毎週投与群で56%、隔週投与群で53%、26週かけてプレドニゾンを漸減したプラセボ群14%、52週かけて漸減したプラセボ群18%となり、トシリズマブ投与群とプラセボ群では大きな差がみられました。52週間での累積プレドニゾン投与量の中央値は1862mgであったのに対し、26週かけてプレドニンを漸減したプラセボ群では3296mg、56週かけたプラセボ群では3818mgとなりました。

有害事象は、トシリズマブ毎週投与群で15%、隔週投与群で14%、26週かけてプレドニゾンを漸減したプラセボ群で22%、56週かけたプラセボ群で25%の患者さんにみられました。トシリズマブ毎週投与群の1例で虚血性視神経症が発現しました。

これらのことから、巨細胞性動脈炎の治療において、26週にわたるステロイドの漸減にトシリズマブを毎週または隔週投与を併用することで、ステロイド漸減のみよりも、寛解の維持が良好であることが示唆されました。

 

巨細胞性動脈炎の治療ではステロイドの服用が必要不可欠であり、治療により症状が改善しても、漸減により再燃することもあります。しかし、ステロイドの服用が長期に及ぶと副作用のリスクも高まるため、再燃することなくステロイドを減量・中止する有効な治療法が求められています。

今回の論文により、ステロイドの漸減にトシリズマブ投与を併用することで寛解の維持に有効であることがしめされました。今回は52週での比較試験でしたが、今後さらに長期間での有効性が報告されることが望まれます。

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