アミロイドベータの産生を低下させる3種の既存薬を同定

認知症は、日常生活に支障をきたす記憶力の低下や思考能力の低下など、さまざまな症状をともなう脳の疾患であり、65歳以上の方の約7人に1人が罹患しているといわれています。今後、高齢化がすすむにつれて、患者数はさらに増加することが予想されており、原因の究明と有効な治療法の開発が急がれています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

アルツハイマー病について

認知症とは,認知機能および活動能力が日常生活に支障をきたすほど失われる疾患の総称です。認知症はさまざまな疾患や病態が原因となり発症しますが、その大部分はアルツハイマー病がしめています。

アルツハイマー病は、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には単純な作業もできなくなる不可逆的な進行性の脳疾患です。

治療により、進行を遅らせることは可能となってきていますが、現在のところ、根本的な治療法は存在しません。

症状は、患者さんによって異なりますが、初期症状として、慣れていた言葉や名前、物の置き場所を忘れるなどの認知機能の低下がみられることが多く、進行するにしたがい、記憶障害の悪化や認知機能のさらなる低下から日常生活をおくるのが困難となっていきます。

また、抑うつや徘徊、暴力・暴言、幻視、失禁、睡眠障害などの周辺症状がみられる場合もあります。高度のアルツハイマー病になると、コミュニケーションをとることができなくなり、身体の動きを制御することも難しくなるため、生活全般の日常的な介護が必要となります。

アルツハイマー病の原因はいまだ解明されていませんが、加齢にともなう脳の変化や遺伝的な要因、さまざまな生活習慣因子が複雑に絡み合って、発症につながっていると考えられています。

また、脳の障害は、症状の出る10年以上も前から始まっているとみられており、アルツハイマー病の脳組織には、アミロイド斑や神経原線維変化、神経細胞間の連結(ニューロン)の消失がみとめられます。病変は、記憶の形成をつかさどる海馬と呼ばれる構造体に広がり、ニューロンがさらに死滅するにつれて、脳は萎縮し始めます。

アミロイド斑は、アミロイドベータ(Aβ)とよばれるタンパク質の破片が蓄積される際に形成され、細胞間のシグナル伝達の妨害や、免疫細胞を活性化して炎症を誘発し、機能しない細胞を破壊することが報告されています。


通常の老人の脳(左)とアルツハイマー型認知症患者の脳(右)。アルツハイマー型認知症では
大脳皮質、海馬の萎縮、および脳室の拡大が見られるようになる。 photo  by wikipedia

アミロイドベータの産生を低減する化合物の同定

家族性および家族歴のない孤発性、どちらのアルツハイマー病でも、大脳皮質の神経細胞内にAβが蓄積することが発症原因ひとつと考えられています。そこで、「iPSC-based compound screening and in vitro trials identify a synergistic anti-amyloid β combination for Alzheimer’s disease」では、患者さん由来のiPS細胞から作製した高純度の大脳皮質神経細胞を用いたスクリーニング系を確立し、Aβを低減させる化合物の探索をおこなっています。

Aβを標的とするアルツハイマー病の薬物治療では、発症前から長期間の投薬が必要と考えられることから、すでに市場で長期間の安全性に関する情報が整備されている既存薬を対象にスクリーニングしています。

その結果、1258種類の既存薬で構成させる化合物ライブラリをもちいたスクリーニングから、細胞毒性が低く、用量依存性が明確で、Aβ低減効果が強い6種類の化合物(ブロモクリプチン・シロスタゾール・クロモリン・フルバスタチン・プロブコール・トピラマート)が選び出されました。その中から、どの化合物の組み合わせがもっともAβ低減効果があるか検討したところ、ブロモクリプチン・クロモリン・トピラマートの3種類の組合せ(BCroT)で最もAβの低減効果が高まることが明らかにされました。(※ブロモクリプチン;抗パーキンソン病や高プロラクチン、末端肥大症などの治療薬 クロモリン;喘息治療薬 トピラマート;抗てんかん薬)

さらに、この3種の組み合わせが、さまざまな種類のアルツハイマー病に対して効果があるのか調べるため、家族性アルツハイマー病患者さん、孤発性アルツハイマー病患者さん、健常者由来のiPS細胞、および家族性アルツハイマー病患者さん由来の細胞の遺伝子変異を修復したiPS細胞から作製した大脳神経細胞にBCroTを添加し、Aβの産生を抑える効果を検証しています。その結果、個人差はあるものの、すべての患者さん由来の大脳神経細胞においてBCroTはAβ42および Aβ40の産生量を30%以上低下させることがわかりました。


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アルツハイマー病の患者数は、今後増加する見通しとなっており、世界中で有効な治療法の開発が求められています。

今回の研究では、長期間の内服に関する安全性情報が整備されている既存薬であるブロモクリプチン、クロモリン、トピラマートの3種類の組み合わせが、Aβの産生を低減する効果が示唆されました。この結果をもとに、今後、長期間の安全性が必要なアルツハイマー病の治療薬開発が進展することが期待されると、著者らは述べています。

 

 

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