脳細胞を再生するサンバイオ社の細胞治療薬SB623 慢性期脳梗塞や外傷性脳損傷などの後遺症に新たな光へ

再生細胞医薬品を開発するバイオベンチャー企業である「サンバイオ株式会社」の株価が急騰しました。10月には3000円台で推移していた株価が、11月に入って上がり始め、11月8日には一時上場以来の高値となる7550円となりました。 サイバイオ社の時価総額は3600億円を超えました。さまざまあるバイオベンチャー企業のなかで注目を浴びていることがわかりますよね。 サンバイオが注目されているのは、開発、臨床試験中の細胞治療薬「SB623」です。従来は、死んでしまった脳細胞の再生はできないといわれてきました。SB623は脳細胞を再生させる治療薬として注目を浴びています。 慢性期脳梗塞や外傷性脳損傷で、からだの自由などを失ってしまった患者さんにとっての新たな希望になるのではないかといわれています。 11月に入って株価が上がったのは、11/1にリリースされた日米共同研究における外傷性脳損傷の臨床試験フェーズ2で主要評価項目を達成したと公表したからです。 ※主要評価項目:臨床試験において有効性を示す指標のことです。主要評価項目をクリアすることが臨床試験の目標となります。臨床試験開始に先立って決めておく項目で「プライマリーエンドポイント」ともいわれています。 -サンバイオは再生細胞医療品の会社です- サイバイオは2001年にアメリカのカリフォルニアで設立された再生医療を手掛ける会社です。今までの医療で根治治療ができなかった中枢神経系領域の疾患を対象に再生細胞医薬品の研究、開発、製造、販売を手掛けています。 2013年2月に日本法人サンバイオ株式会社を設立、2014年1月に企業再編が行われ日本法人を親会社にしています。現在の資本金は38億円です。 SB623については、会社設立後から研究を重ねています。アメリカにおいて2010年5月にFDAから臨床試験の承認認可、2011年1月に慢性期脳梗塞のフェーズ1/2a臨床試験開始、2014年09月にアメリカとカナダでの慢性期脳梗塞の共同開発およびライセンス契約を大日本住友製薬株式会社と締結。 2016年04月に外傷性脳損傷についてPMDA(医薬品医療機器総合機構)から日米グローバル臨床試験(フェーズ2)の治験が受理され、アメリカでは2016年7月から、日本では2016年10月から治験を開始しています。 ※外傷性脳損傷については、FDAに提出した慢性期脳梗塞の新薬臨床試験届けが使用できるのでフェーズ1の臨床試験は必要ありません。 現在、SB623は、慢性期脳梗塞についてはアメリカでサイバイオと住友製薬が共同でフェーズ2臨床試験、外傷性脳損傷については日米共同でフェーズ2臨床試験をおこなっています。 サンバイオはSB623を中心にして、末梢神経障害などの治療薬「SB618」、筋ジストロフィーなどの治療薬「SB308」を研究及び開発中です。 -SB623はどんな薬なの- SB623は再生細胞薬で「間葉系幹細胞」を使用します。健康なドナーの骨髄液から間葉系幹細胞を採取して、バイオ技術を使った特別な技術で加工して培養したものです。間葉系幹細胞は、間葉系に属するさまざまな細胞への分化する能力を持っています。 従来は、脳内には幹細胞が存在しないといわれていました。1998年に慶応義塾大学の岡野教授が脳内に幹細胞があること発見。これにより、脳への幹細胞を用いた治療の可能性がでてきました。 SB623に用いられるのは、他人の細胞を移植する他家移植です。自己移植とくらべてコストが低く抑えられて量産化が可能です。量産化された細胞は冷凍保存することができます。 SB623は、移植された患者さんの脳を刺激して、成長因子であるFGF2や細胞外マトリックスなどを生み出します。 FGF2は幹細胞の分裂と増殖、神経細胞への分化、血管新生の新生や細胞への栄養供給をうながし、細胞外マトリックスは分裂した細胞の増殖基盤となり組織再生をうながすと考えられています。 いままでの臨床試験の結果からは、腕を上げることができなかった患者さんの腕が上がるようになった、床から起き上がることもできなかった患者さんが動けるようになった、言語障害が著しく改善したなど報告されています。 SB623は、頭蓋骨に直径1cmほどの穴をあけて障害のある部分に細胞を移植する「定位脳手術」で行われます。この方法は患者さんのからだへの負担も少ないといわれています。 手術回数は1回のみで効果に持続性があることも報告されています。投与24ヵ月後も改善性の持続が認められています。副作用については、ほとんど認められずに一過性の頭痛がみられることがある場合が報告されています。 移植というと懸念されるのは拒絶反応ですが、SB623は自ら免疫応答を抑制する働きを持っているので拒絶反応の心配がないといわれています。 SB623に期待されることは、慢性期脳梗塞や外傷性脳損傷の患者さんの運動機能などの改善です。 すべてが完治できなくても、症状が改善されれば患者さんのQOLが高まることになります。また、介護が必要だった患者さんのご家族の方の負担軽減にもつながりますよね。 たとえば、車いすが必要だった患者さんが杖で歩けるようになれば、患者さんやご家族の方にとってQOLが上がりますよね。 -SB623の開発状況と今後の見込みはどうなの- 慢性期脳梗塞と外傷性脳損傷は、運動障害や半身麻痺、意識障害、嚥下障害、構音障害(言葉が話しずらくなる)、認知・失行・失認・注意障害などの高次脳機能障害といった多彩な症状がみられます。重い後遺症が残ってしまうことも少なくありません。 ◇慢性期脳梗塞 アメリカでのフェーズ2臨床試験は経過観察およびデータ解析中です。臨床試験の結果については2019年2月から2019年7月までに公表が予定されています。フェーズ3臨床試験についてのスケジュールなどは発表されていません。 日本では、アメリカでのフェーズ2の試験結果から「条件付き早期承認制度」を利用して承認申請をおこない、日本において世界最初の販売を目指しています。 ◇外傷性脳損傷 日米共同にて40施設で行われていたフェーズ2臨床試験は経過観察およびデータ解析中です。臨床試験の結果については2019年1月までに公表予定です。 日本における「条件付き早期承認制度」を利用して2019年2月から2020年1月までの早い時期に審査申請予定です。アメリカでは引き続きフェーズ3の臨床試験を実施予定です。 外傷性脳損傷については、現時点では交通事故など1回のアクシデントによる損傷を対象としていますが、将来的にはスポーツなどへの拡大も検討するとしています。 ※条件付き早期承認制度:再生医療等製品を対象として世界に先駆けて日本で導入された制度です。ある程度の有効性と安全性が確認された段階でいったん販売の承認が下り、市販後に患者さんの治療を行いながら有効性と安全性を確認して、7年以内に本承認取得を目指す制度です。通常はフェーズ3まで必要な臨床試験をフェーズ2の終了段階で承認申請することができます。 ◇承認後の体制づくりも 承認後に向けた製販態勢については国内製造販売のために日立化成と提携。日立化成のアメリカ子会社と横浜の製造拠点に技術移転を進めています。 日本国内では自社販売の方針で、2018年9月に普及や安全な流通態勢整備に向けて、医薬営業支援のケアネットや医薬品商社のバイタルケーエスケーホールディングスなど5社と資本業務提携を結んでいます。 -SB623は今後は適応拡大へ- 現時点では慢性期脳梗塞と外傷性脳損傷のみですが、脳神経、中枢神経にかかわる幅広い疾患への適応拡大を視野に入れています。 加齢黄斑変性(ドライ型)、網膜色素変性、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー型認知症など疾患を対象として研究、非臨床試験中です。 適応拡大するには有効性試験だけで済み、1つの承認が取れれば次々に適応範囲が広がる可能性があります。 認知症(アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症)については、2018年7月に慶應義塾大学と共同研究すると発表、すでに研究が開始されています。 日本で各疾患の認可取得と販売を最初に行って、次いで北アメリカ、そしてヨーロッパやアジアへと市場を広げる方針です。 再生医療の分野は、日々、進歩を遂げています。脳梗塞については、「生命科学インステチュート社」からMuse(ミューズ)細胞を用いて静脈への点滴で脳細胞を再生させるCL2020のフェーズ1と2aの臨床試験を東北大学と9月から開始しています(心筋梗塞について1月から実施中、脳梗塞の治験は2020年1月終了予定)。 いままで、治療がむずかしいとされてきたさまざまな疾患に関して新たな治療法が生まれることは、わたしたちの未来に光が差すことになりますよね。今後の動きが注目されます。 ミニコラム サンバイオ社の売上、純利益、将来的な予想は 前期の決算をみてみると売上高4億9千万円、営業利益▲43億7千万円、経常利益▲39億4千万円、純利益▲39億4千万円、総負債額43億4千万円、総資産51億9千万円(うち現金及び現金同等物46億5千万円)となっています。 今期は売上高10億2千万円、営業利益▲35億4千万、純利益▲25億6千万と計画が立てられています。SB263の市場にでた後は、売上高40億から60億、純利益も大きくプラスに転じ、将来的には数百億円以上の売上が見込めると予想されています。 ※SB623に関する金額などはあくまでも現時点での情報もしくは予測です。売上高や株価を保証するものではありません。 Continue Reading ->

新しい脂質異常症の治療薬「パルモディア」 併用できなかった薬と併用が可能に

健康診断や人間ドックなどでコレステロールや中性脂肪が高いといわれたことはないでしょうか。コレステロールや中性脂肪が高い状態を「脂質異常症」といいます。 脂質異常症(文末ミニコラム参照)は、以前は「高脂血症」といわれていました。厚生労働省の平成26年度の調査では、脂質異常症の患者数は206万人以上と推計されていて、男女比では女性が男性の2.5倍です。 脂質異常症のおもに生活習慣に大きく関連しています。治療の第一選択肢は、食生活の改善と適度な運動など生活習慣の改善です。 生活習慣の改善をおこなっても脂質異常症が改善しない、糖尿病や高血圧など他の疾患がある、遺伝的に動脈硬化を起こしやすいことが分かっているなどの場合には動脈硬化などの合併症を予防するために薬物療法が行われます。 脂質異常症の薬物治療にはさまざま薬があります。おもに、悪玉コレステロールを下げるスタチン系の薬、中性脂肪を下げるフィブラート系の薬がよく用いられています。 2018年6月に、興和創薬株式会社からフィブラート系の新薬として「パルモディア(一般名:ペマフィブラート)」の販売が開始されました。 従来からあるフィブラート系の薬に比べて薬理作用は同じですが作用機序が異なり、「中性脂肪を下げる効果が高い、併用禁忌だった薬との併用可能、副作用が少ない」などの利点があるといわれています。どのような薬なのかみていきましょう。 ―薬物治療はスタンチン系の薬から― 脂質異常症の原因の多くは悪玉コレステロールです。悪玉コレステロールを減らす効果が高いスタチン系が第一選択薬として用いられます。スタチン系の薬には中性脂肪を下げる効果や善玉コレステロールを増やす効果もあります。 悪玉コレステロールの値が基準範囲内で中性脂肪のみが高い場合、スタチン系の薬を投与しても中性脂肪の値が著しく高い場合にはフィブラート系の薬が用いられます。 フィブラート系の薬は中性脂肪を下げる効果がもっとも高いといわれています。善玉コレステロールを増やす効果や悪玉コレステロールの代謝を促進する効果もあります。 スタチン系の薬と従来からあるフィブラート系の薬は原則併用ができません。「横紋筋融解症」という副作用があらわれる場合があるからです。 横紋筋融解症とは 横紋筋という心筋や骨格筋など筋肉が壊れてしまう病気です。おもに骨格筋が侵されます。赤褐色の尿、筋肉痛、脱力感などの症状が現れ、重症化すると急性腎不全を発症するおそれがあります。 -フィブラート系の薬の中性脂肪を下げる仕組みは- 中性脂肪は、肝臓で遊離脂肪酸から中性脂肪が合成され血中に放出されています。血中の中性脂肪はリポ蛋白リパーゼ(LPL)と呼ばれる酵素の働きで遊離脂肪酸へと分解され、各組織に存在する細胞へと取り込まれます。 中性脂肪の合成や分解に関与しているタンパク質として「PPAR(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター)α」があります。おもに骨格筋、肝臓、腎臓に発現します。 PPARαは、肝臓では中性脂肪の合成抑制や血中のLPL合成を促進して中性脂肪の分解促進することで血中の中性脂肪を減らす作用を持っています。 フィブラート系の薬は、PPARαに結合して働きを活性化させ、血中の中性脂肪の低下およびLPL合成を促進させて中性脂肪を分解させる働きを持っています。 -従来のフィブラート系の薬とパルモディアの違いは- 新しく販売されたパルモディアが従来のフィブラート系の薬と異なる点は、選択的にターゲットとなっているPPARαに結合してPPARαの構造を変化させて脂質代謝に関わる遺伝子以外に影響がでにくい薬になっています。 従来のフィブラート系の薬は、単純にPPARαに作用するために脂質代謝関連の遺伝子以外に作用することで、腎機能低下につながるクレアチニンが増加や肝機能異常などの副作用を起こすことがわかっています。 これらのことから、パルモディアは副作用の出現率が低くなるといわれています。 パルモディアは、選択的に作用することから「SPPARMα(選択的PPARαモジュレーター:Selective Continue Reading ->

予防接種の同時接種にリスクと利点はあるの? 乳児期と高齢期の同時接種について

わたしたちのからだを病気から守るためのひとつの手段として「予防接種」がありますよね。多くは乳幼児期に済ましている方が多いと思います。大人になっても予防接種をする機会はありますよね。 身近なものだとインフルエンザの予防接種や65歳以上になると肺炎球菌の予防注射、伝染病の流行地の渡航するときにも予防注射が必要になる場合があります。乳児期から高齢者まで切り離せないものでしょう。近頃、流行している風疹もそうですね。 予防接種については、以前、ニュースなどで取り上げられた「同時接種」による死亡事故というものがありました。その後の調査で同時接種との関係はみられないとされましたが、本当に同時接種は問題ないのでしょうか。 結論からいうと、「同時接種に問題はないと考えていいでしょう」。最初に予防接種について簡単にみていきましょう。 [予防接種にはいろいろな種類があります] ウイルスや細菌などの「異物(抗原)」がわたしたちのからだに入ってくると、からだを守るためにリンパ球や白血球が攻撃をします。攻撃して制圧するとリンパ球はその抗原を記憶し「抗体」が作らます。 同じ抗原が再び侵入してきた時に抗体が働いてからだの中で増殖することを防いでくれます。これを「免疫」と呼びます。 予防接種はこの原理を応用して、弱毒したものや無毒化したワクチンを使って免疫を獲得するためのものです。予防接種で免疫を獲得して防ぐことができる病気のことを「VPD(Vaccine Continue Reading ->