頭頸部癌の治療 〜化学療法と放射線治療〜

■頭頸部癌(とうけいぶがん)ってなに?

一般には聞き慣れない言葉ですが、顔の周囲を指し示す表現に頭頸部という言葉があります。頭頸部とは、顔から頚までの範囲を示しています。正確には、脳の下から鎖骨の上までの範囲になります。

頭頸部癌とは、この範囲に含まれる悪性腫瘍のことです。具体的には、口・舌・上顎・下顎・鼻・耳・喉に生じる悪性腫瘍です。したがって、頭頸部癌には脳や眼の悪性腫瘍は含まれません。

悪性腫瘍には、いろいろなタイプがありますが、頭頸部癌に多いのは、扁平上皮癌と呼ばれるタイプの悪性腫瘍です。

扁平上皮癌とは、粘膜の元である上皮の基底細胞から生じた悪性腫瘍のことを言います。


写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

■頭頸部癌を担当する診療科について

耳鼻咽喉科と口腔外科が主に担当しています。

口腔外科は、舌がん、口腔底がん、顎骨中心性がん、歯肉がん、頬粘膜がんと言ったお口に関する悪性腫瘍を担当しています。そして、耳鼻咽喉科は、それ以外の部位の悪性腫瘍を担当しますが、口腔外科がなければ、耳鼻咽喉科が前述の口腔外科の悪性腫瘍を治療します。

 

■頭頸部癌の治療法

悪性腫瘍の治療の3本柱は、外科的切除・化学療法・放射線治療です。

外科的切除とは、悪性腫瘍をその周囲数[cm]の安全域を設けて切除する外科治療です。

化学療法とは、抗がん剤治療です。

放射線治療とは、悪性腫瘍に放射線を当てる治療です。

 

■頭頸部癌の化学療法

化学療法とは、いわゆる抗がん剤治療です。

化学療法には、導入化学療法と維持化学療法などのいくつかの治療法があります。

 

○導入化学療法

導入化学療法とは、外科手術の前に行なわれる化学療法のことです。

 

・導入化学療法のメリット

抗がん剤だけでは、残念ながら悪性腫瘍は無くなることはありません。しかし、縮小させる効果はあります。

頭頸部には、人間が生きる上で必要な呼吸・食事・発声などさまざまな重要な機能が集まっています。この部分にできた悪性腫瘍をそのまま切除してしまうと、重大な機能障害が生じるおそれがあり、治療後の生活の質に大きく影響してしまいます。

機能面以外にも、顔貌の変化なども忘れてはなりません。

そこで、外科治療の前に化学療法を行って悪性腫瘍を小さくし、少しでも切除範囲を狭くすることができます。

 

○化学療法・放射線治療同時併用療法

化学療法に加えて放射線治療を同時に行う治療法です。

・化学療法・放射線治療同時併用療法のメリット

化学療法と放射線治療では、抗悪性腫瘍効果は異なります。それらを組み合わせることで、より強い抗腫瘍効果を得ることができます。

化学療法だけでは、悪性腫瘍の根治は望めません。しかし、放射線治療ではそれが望めます。化学療法で悪性腫瘍を縮小させ、放射線治療の効果を高めることで悪性腫瘍の根治を目指すことができます。

 

○維持化学療法

維持化学療法とは、1次治療で悪性腫瘍が完全に消失した、または切除出来た場合に、悪性腫瘍の再発や遠隔転移を予防するために行なわれる化学療法です。

維持化学療法の方法については、未だ確立はされていません。強い抗がん剤を6か月ほど使う方法と、飲み薬タイプの抗がん剤を使う方法とがありますが、どちらが優れているかの判断はまだ下されていません。

 


写真はイメージです。 photo by pixabay

・維持化学療法のメリット

進行性の頭頸部癌の予後は、今でもよくないのが現状です。維持化学療法を行うことにより、再発の予防が期待できます。

 

○頭頸部癌の化学療法で用いられる薬剤について

頭頸部癌の化学療法によく用いられるのが、シスプラチン、5-フルオロウラシル、ドセタキセルの3種類です。

よく用いられる使い方は、シスプラチンと5-フルオロウラシルを組み合わせた2剤併用療法です。頭頸部癌の標準的化学療法として用いられてきました。近年では、それにドセタキセルを加えた3剤併用療法の方が、生存率が高いということから普及しつつあります。

これら3剤には、白血球減少による易感染性化や血小板減少、および悪心や嘔吐などといった消化器系の副作用があります。

 

・シスプラチン(CDDP)

白金系製剤に分類される抗がん剤です。悪性腫瘍のDNAと結合することで、DNAの複製を防ぐことができます。その結果、悪性腫瘍の細胞分裂や増殖を抑制します。

効果が高い反面、副作用も強いです。特に急性腎不全のリスクが高いとされています。

 

・5-フルオロウラシル(5-FU )

代謝拮抗剤に分類される抗がん剤です。悪性腫瘍のDNAの合成を妨害することで、悪性腫瘍を抑えます。

 

・ドセタキセル

悪性腫瘍が細胞分裂するときに必要な働きを妨害することで、悪性腫瘍が細胞分裂をするのを妨ぎます。

副作用に、ショックなどの重大な症状が認められています。

 

■頭頸部癌の放射線治療

放射線治療は、悪性腫瘍に放射線治療を当てることで、悪性腫瘍を縮小させるだけでなく、消失を図ることが目的の治療法です。

 

○放射線治療のメリット

悪性腫瘍の治療法のうちで、根治が期待できるのは外科手術と放射線治療のみです。

外科手術では、悪性腫瘍とその周囲数cmの切除をしますので、人体の一部を欠損するというデメリットがあります。身体の一部を欠損するということは、頭頸部癌の場合は、顔貌の変化、食べたり話したりという生活に欠かせない働きの低下をもたらします。

放射線治療では、外科手術のように切除することがないので、治療後の生活に影響が少ないというメリットがあります。

 

○放射線治療のデメリット

放射線治療には、いくつかの副作用があります。副作用には、治療中や治療直後に現れる急性期型と、治療後6か月以上経過してから現れる晩期型があります。

・全身的な副作用

代表的な副作用に、疲労感やだるさがあります。また、食欲不振や吐き気も挙げられます。放射線が当たった部位の皮膚に、日焼けのような赤みや乾燥感が生じることもあります。こうした副作用は、時間とともに改善してきます。


写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

このとき注意したいのが、食欲不振や吐き気により栄養不足になることです。放射線によって傷つけられた正常な細胞が自分自身を治すために、普通よりも栄養を必要とするようになります。食事量が減少すれば、栄養不良が生じ、治りが悪くなります。無理をしないように、食事回数を分割するなど工夫をして、栄養を摂るよう心がけるようにしてください。

・口内炎

全身的な副作用以外に、頭頸部癌の放射線治療で無視できないのが、お口に関する副作用です。唾液を作り出す唾液腺という組織に放射線があたると、唾液腺の働きが低下してしまいます。その結果、唾液を作り出す能力が下がり、お口が乾燥しやすくなります。

また、お口の粘膜を作る働きも障害されますので、口内炎を起こしやすくなります。口内炎は、放射線治療を開始してから概ね7〜10日で起こってきます。通常の口内炎よりも範囲が広い上に、お口の乾燥のために治りにくい特性があります。

この時、痛いからといってお口の中をきれいに保たないと、お口の中の汚れでさらに口内炎の治りが悪くなります。

柔らかい歯ブラシなどを使って、お口の中を清潔にすることを忘れないでください。もし、口内炎の痛みが激しい場合は、痛み止めのうがい薬などを処方してもらうといいでしょう。口内炎は、放射線治療が終わってから、通常2週間程度で治ってきます。


写真はイメージです。 photo by flickr

・顎骨壊死

頭頸部癌の放射線治療で最も厄介な副作用が、顎骨壊死です。これは、放射線が当てられた部位に生えている歯を抜くことで起こる晩期型の副作用の一つです。

通常、歯を抜くと、そこに歯茎が盛り上がり、骨が再生して、歯を抜いたことで生じた穴を塞いでくれます。ところが、放射線が当たったところでは、骨が再生してくるのではなく、骨が壊死してくるのです。壊死の範囲も、抜いた歯の周辺に留まらず、広範囲に及びます。現時点では、顎骨壊死の治療法は確立されているとはいえず、予防するのが一番の対策です。

 

 

 

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