HIV感染によるタラロマイセス症に対するアムホテリシンBとイトラコナゾールの比較

現在日本では、新規のヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染者および後天性免疫不全症候群(AIDS)患者数は年間1500例ほど報告されています。

世界的にみると3600万人以上の方がHIVに感染していると言われており、年間120万人もの方がAIDS関連疾患により命を落としています。その大部分が発展途上国で起こっており、安価で効果的な治療法が求められています。

世界のHIV感染者の分布 kは1000人 photo by unaids.org

HIVは免疫反応に関わるヘルパーT細胞に感染します。

ヘルパーT細胞は免疫反応の司令塔の役割を担う重要な細胞であり、ここからの指令により病原体への攻撃が開始されます。

ヘルパーT細胞にHIVが感染すると、感染したT細胞は破壊され機能しなくなることが知られています。HIVは感染した細胞内で増殖し、外へ飛び出す際に細胞を破壊します。外に飛び出した大量のHIVは新しい宿主を求めて、感染を広げて行きます。

そのため、ヘルパーT細胞の数は次第に減っていき、免疫不全の状態になり、普段は発症することのない様々な病気にかかりやすくなります。このような状態になるとAIDSと診断されます。

HIV感染からAIDSの発症までは、通常数年から10年以上の無症候期があると言われています。その間にHIV検査を行い、AIDSを発症する前になるべく早く治療を始めることが大切です。

現在、HIVを完全に排除する治療法はありませんが、HIVの増殖を抑えAIDS発症を防ぐ薬が主に使われています。現在では治療により、長期的に健常時と変わらない生活を送ることが可能となってきています。

AIDSとタラロマイセス症


AIDSを発症すると全身の免疫不全により日和見感染や悪性腫瘍を引き起こします。

T細胞数により発症しやすい感染症は異なりますが、通常の免疫状態であれば発症しないカボジ肉腫やニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症などがみられるようになります。

タラロマイセス症もAIDS患者さんでみられる感染症のひとつです。

タラロマイセス菌は真菌の一種で、多くの患者さんで皮膚病変がみとめられます。その他、発熱や貧血、リンパ節腫大などの症状がみられ、致死率が非常に高い病気です。

現に、南アジアや東南アジアではタラロマイセス症が、HIV関連死の主な原因となっています。

Talaromyces atroroseus photo by WIKIMEDIACOMMONS

発症がみられた場合、早期の治療が重要となり、抗真菌薬であるアムホテリシンB投与が推奨されています。

アムホテリシンBは重篤な副作用が報告されていることや高価であること、供給体制が整っていないなどの問題があり、発展途上国においての使用は難しい状況にあります。

そういった地域では、現在、イトラコナゾールが広く使用されています。

イトラコナゾールは、錠剤での供給が可能であることや安価であること、重篤な副作用がアムホテリシンBより少ないことなどから代替薬として、タラロマイセス症の治療に用いられています。

いままで、アムホテリシンBとイトラコナゾールを比較した研究データは少なく、2剤が同等の有用性をしめすのかは明確ではありませんでした。

アムホテリシンBとイトラコナゾールの比較試験

写真はイメージです。 photo by hipohige.com


2017年6月にNEJMで発表された論文「A Trial of Itraconazole or Amphotericin B for HIV-Associated Talaromycosis」では、アムホテリシンBとイトラコナゾールの有効性を比較検討しています。

タラロマイセス症がみられたHIV感染者を対象に、アムホテリシンB投与群(0.7~1.0mg/kg/日;静注)とイトラコナゾール投与群(600mg/日を3日間服用後400mg/日を11日間;経口)に分け、投与開始から2週時点での全死因死亡の割合を解析しています。

2週以降は、全例にイトラコナゾール投与による維持療法を行い、24週時点での死亡率や症状消失までの期間などの解析も行っています。

その結果、2週時点での全死因死亡率はアムホテリシンB群で6.5%、イトラコナゾール群で7.4%となり、あまり差はみられませんでしたが、24週時点の死亡率をみるとアムホテリシンB群で11.3%、イトラコナゾール群で21.0%と大きな差がみられました。

アムホテリシンB投与群ではイトラコナゾール群と比較して、症状の改善と真菌の排除が早く、再発率と免疫再構築症候群の発生率が低い結果となりました。有害事象はアムホテリシンB群において多くみられました。

このことから、タラロマイセス症に対する治療は、アムホテリシンBのほうが、副作用のリスクは高いものの、有効であることが示唆されました。

しかし、高価が静注薬であるアムホテリシンBは発展途上国で使いにくいのが現状であり、今後、研究が進み安価で効果的な治療法が開発されることが望まれます。

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