インドにおける妊娠高血圧症候群がみられる妊婦さんの分娩誘発

妊娠は新しい命がお腹の中に宿り、よろこばしいことである反面、さまざまなリスクも伴います。妊娠に伴うリスクの中には妊娠高血圧症候群と呼ばれる症状があり、妊婦さんの20人に1人の割合でおこると言われています。母子ともに危険な状態となることもあるため、適切な治療が必要です。

妊娠高血圧症候群とは

妊娠20週以降、産後12週までに高血圧(140/90mmHg以上)を発症した場合に、妊娠高血圧症候群と診断されます。発症のメカニズムはいまだ解明されていませんが、妊娠初期に胎盤の血管が正常につくられないことが要因となるという説が有力視されています。

血圧が高くなることにより血管が傷つき、母子ともに多くの合併症が起こる危険性があります。重症の妊娠高血圧症候群になると、子癇や脳出血、赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう常位胎盤早期剥離、肝機能障害や溶血、血小板減少などを引き起こすHELLP症候群がおこることがあり注意が必要となります。


写真はイメージです。 photo by Pixabay

子癇は急激に血圧があがることによって脳内の血液量がふえ、むくみが生じることで起こるけいれん発作のことをさします。

子癇が治まらないと脳のむくみが進み、母子ともに命の危険にさらされることもあり、赤ちゃんをできるだけ早くお腹から出してあげることが必要となります。

日本では、妊娠高血圧症候群の治療は安静入院が基本となり、妊婦さんでも使える降圧薬が用いられます。合併症がみられた場合には、状態にあった治療が選択されます。

インドにおける妊娠高血圧症候群

日本では医療の進歩により、妊娠高血圧であっても多くの場合、出産後は母子ともに健康に過ごすことができますが、発展途上国では命の危険にさらされることも多く、たくさんの方が亡くなっているのが現状です。

インドでは、妊娠高血圧症候群および子癇により毎年7万人前後のかたが亡くなっており、低コストでありながら効果的で安全性の高い治療法が求められています。

前述したとおり、子癇が起こった場合、赤ちゃんをお腹から出すことが必要となる場合があります。そこで、現在インドで使用されているのが低用量経口ミソプロストール法とFoleyカテーテル法です。

ミソプロストールは消化性潰瘍の治療薬ですが、副作用として子宮の収縮作用があり本来は妊婦さんには禁忌のお薬です。しかし、この療法ではその副作用を逆手に取り、分娩の誘発に使用しています(日本では未認可)。

Foleyカテーテル法は、カテーテルの挿入によって子宮頸管を人為的にひらき、出産を促す療法です。

これらの治療は、低コストであり臨床現場で使用されていますが、相対的なリスクやどちらがより効果的かについてはあまり評価されていませんでした。そこで「Foley catheterisation versus oral misoprostol for induction of labour in hypertensive women in India (INFORM): a multicentre, open-label, randomised controlled trial」では分娩が必要な妊娠高血圧症候群の患者さんに対する低用量経口ミソプロストール法またはFoleyカテーテル法の効果、リスクの比較について報告しています。

調査結果と今後への期待

子癇前症または高血圧にて出産が必要となった妊婦さん602人を対象に、ミソプロストール経口投与群またはFoleyカテーテル挿入群に分け、24時間以内に経腟分娩が起きた件数と有害事象について比較しています。


写真はイメージです。 photo by Pixabay

その結果、ミソプロストール服用群では57.0%で経腟分娩を誘発したのに対し、Foleyカテーテル法では47.0%にとどまりました。有害事象をみると、子宮過敏症ではどちらも1%以下の発生にとどまり、新生児死亡も有意差はありませんでした。3%の母子に有害事象が報告され、ミソプロストール服用群で5件の新生児死亡、Foleyカテーテル群で腹腔内痙攣(1件)、播種性血管内凝固(1件)、死産(2件)、新生児死亡(3件)が発生しました。

このことから、経口ミソプロストール法のほうがFoleyカテーテル法に比べて効果的であることが示唆されました。

医療の発展により妊娠、出産のリスクは低くなってはいますが、発展途上国では高額な治療は行えず、命を落とすことも多々あります。

そのため、低コストで安全性・有用性の高い治療法が必要とされています。今後も研究が続き、世界中でより安心、安全な治療が受けられるようになることが期待されます。

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