児童養護施設における性教育

性教育と聞くと体の構造とか、性の仕組みとか、あるいは避妊や病気の知識といったものを想像なされる方が多いと思います。児童養護施設の性教育は、もちろんそれらを含みますが、さらに広い定義で、施設運営の根幹をなすという認識のもと、組織をあげて取り組んでいます。学校で行われる性教育と比較すると早い時期からかなり踏み込んだ内容で行っています。児童養護施設の性教育は幼稚園児から始めます。

 

児童養護施設には男女混合型と男女分離型と二種類の運営方法があります。施設ごとに違いはありますが、おおむね10人とか20人、これを一つのユニットとして子どもたちが共同生活をしています。そのユニットの中に男女を一緒にするのが混合型、男女別々にするのが分離型です。児童養護施設はなるべく家庭に近い環境を作ることを理想としていますので、その意味では男女混合の方が自然です。男女別々ですとどうしても合宿所のようになり家庭的になりにくいものです。


写真はイメージです。 photo by flickr

いずれにせよ、異性あるいは同性でも年頃の他人同士が共同生活をする難しさというのがあります。それが児童養護施設の性教育における一般家庭との大きな差になります。一番懸念されるのは性的な事件が起こるリスクです。混合型のユニットで何度も事件が起きて結局分離型に変えてしまった施設もあります。また同性同士だからと言って油断はできません。同性同士の性的ないじめや虐待は異性間と同じかむしろそれ以上に多くあるのです。

 

このような状況から児童養護施設での性教育の目的は「子どもたちの安心と安全を守る。」ということが第一になります。身体の安全と心の安全の両方です。異性同性に限らず性的な交渉があったり、また虐待やいじめがあったり、そこまで行かなくても子どもが他人からされて不愉快に感じるような言動があったりではとても安心安全とは言えません。

 

もちろん体の構造であるとか病気や避妊などについても教えます。そして、そういう大切なところだから、他人のプライベートゾーンを触ってはいけないし、また触られたりしたら嫌だから自分を守ろうね、と続きます。さらには勝手に人の物を使うとか、黙って部屋に入るのは止めようねと、プライバシーの話にも繋がります。行動だけでなく他人を傷つける言葉もダメだよね、となります。

 

施設には性教育を進める組織があります。性教育担当の職員が何人か選ばれて、例えば性教育委員会と名付けたりします。子どもたちを性別年齢などでグループ分けして一ヶ月または隔月くらいで性教育の時間を持ってもらいます。あるいは日常のコミュニケーションを通じても行います。性教育の時間は子どもたちの空いている時間、例えば夕食後の一時間とかになります。内容はその都度討議の上に決めていますが、子どもたちに興味を持ってもらえるように工夫します。例えば前振りとして髪の毛の手入れの仕方とかニキビなどお肌の手入れとかです。その後安心安全の本題に進みますが、要点は他人の気持ちとプライバシーを尊重して適切な距離を保ちましょう、と言うことです。そして自らを守るよう、あるいは侵害されたらきちんとイヤだと意思表示できるようになりましょうということです。性教育についてはこれを専門にやっていただけるNPOもあります。施設まで来ていただいて劇仕立てにして行ったりします。

 

このような性教育ですが、子どもたちが喜んで参加しているかというと、実はそうとは言えません。出たくないと反発する子もいます。自由時間はテレビでもゲームでもして楽しみたいものだからです。また何度も聞いている子には、わかっているよ、という内容でもあります。ただこの性教育は消防の避難訓練のようなものです。新たに入ってくる子どももいますから何度も繰り返すことが大切なのです。施設の職員は少しでも子どもたちに気持ちよく楽しく参加してもらえるように細かな努力をしています。


写真はイメージです。 photo by flickr

性教育は通常グループで行いますが、個々の子どもの事情も十分に勘案されます。過去に虐待で性的なトラウマを抱えている子には一様の性教育はできませんし、発達障害などある場合も本人の理解力に合わせた形にする必要があります。ですから個別に行うこともあります。一般家庭と同じく子どもと大人がフランクな会話の中で性教育を行う場合もあります。例えば自慰のマナーなどを個別に教えたりもします。

児童養護施設は入所に至る経緯から性的を含む虐待を受けた子どもが多くいます。児童養護施設での生活で安心安全を感じることで、自分は安全だ、大切にされている、と少しでも子どもの心が和らいでくれれば、それは自己肯定感を高めることにつながり前向きな思考が養われて行きます。子どもたちの成長にとってプラスに働きます。子どもたちの安心安全は施設の存在意義と言ってもよいくらい大切なものです。その根幹をなすのが性教育なのです。

 

 

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