トルバプタンの常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)に対する有効性

常染色体優性多発性のう胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:ADPKD)は、腎臓にのう胞ができて腎機能が低下する遺伝性の疾患であり、難病に指定されています。遺伝性の腎臓病のなかで、最も患者さんが多い疾患であり、約4000人に1人が発症すると推定されています。

ADPKDとは

ADPKDは遺伝性の疾患であり、尿細管の太さを調節しているPKD遺伝子の異常が原因となります。PKD遺伝子変異により、尿細管の太さを調節することができなくなり、のう胞が形成されると考えられています。ADPKD患者の約85%がPKD1の遺伝子変異が原因で、残り約15%ではPKD2遺伝子変異が原因といわれています。

のう胞は、生まれたときから少しずつ作られていますが、多くの患者さんは成人になってから症状が発現します。自覚症状がなく、健康診断や人間ドックなどで発見されることもあります。


常染色体優性多発性のう胞腎 photo by wikipedia

進行して、腎臓全体が大きくなってくると、腹痛や腰痛、血尿などの症状がみられるようになります。また、のう胞がふえて大きくなると、正常な腎臓の組織が圧迫され、腎機能が低下していきます。腎機能が低下するスピードは人により異なりますが、60歳までに約50%の患者さんが、透析療法が必要な末期腎不全になるといわれています。

さらに、ADPKDの患者さんは、のう胞出血やのう胞感染、肝のう胞、尿路結石、高血圧、心臓弁膜症、脳動脈瘤などを合併しやすいことがわかっており、定期的な検査が必要となります。

ADPKDの治療法

ADPKDを根治させる治療は現在のところなく、腎機能障害の進行を抑制する治療や、合併症にたいする治療が行われます。

腎機能の悪化を防ぐためには、血圧の管理が重要となるため、生活習慣の改善や、レニン・アンジオテンシン系阻害薬などの降圧薬を用いた降圧療法が行わます。そのほか、塩分制限やタンパク質制限、適切なカロリー摂取などの食事管理や飲水が行われる場合もあります。


写真はイメージです。 photo by photo AC

近年では、バソプレシン2受容体拮抗薬であるトルバプタン(商品名;サムスカ)が腎のう胞増大と腎機能の低下を抑制することが報告されており、「腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制」での適応が承認されています。

ADPKD患者さんではPKD遺伝子の異常により、細胞内シグナルを伝達する役割をもつcAMPの活性が高まっていることがしられています。cAMPの活性上昇により、細胞増殖や、のう胞内への溶液分泌の亢進などが起こり、最終的にのう胞の増大や、腎機能の低下が起こっていると考えられています。

バソプレシンは、cAMP活性を高める作用があることがしられています。そのため、トルバプタンを服用することにより、バソプレシン受容体を阻害し、細胞内cAMPの上昇を抑えることで、腎容積および腎のう胞の増大が抑制されると考えられています。

ADPKDにたいするトルバプタンの効果

早期のADPKD患者さん(推定クレアチニンクリアランス 60 mL/分以上)を対象とした臨床試験では、トルバプタンにより、アミノトランスフェラーゼとビリルビン値の上昇がみられたものの、総腎容積の増大速度と推定糸球体濾過量(GFR)の低下速度が抑制されたことが報告されています。


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また、「Tolvaptan in Later-Stage Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease」では、進行したADPKD患者さんに対するトルバプタンの有効性について報告しています。

18~55 歳で推定 GFR が 25~65 mL/分/1.73 m2 または 56~65 歳で推定 GFR が 25~44 mL/分/1.73 m2 の ADPKD 患者を対象に、12カ月間のトルバプタンまたはプラセボの投与を行い、各群の推定GFRのベースラインからの変化を解析しています。なお、この研究では、無作為化の前にプラセボとトルバプタンを順次投与する導入期間を設定し,各患者さんが用量制限副作用なくトルバプタンの投与が可能かどうかを評価したのち、無作為に割り付けを行っています。

その結果、推定GFRのベースラインからの変化は、トルバプタン群で -2.34 mL/分/1.73 m2、プラセボ群では -3.61 mL/分/1.73 m2となり有意差がみられました。正常値上限の3倍を超えるアラニンアミノトランスフェラーゼ上昇は,トルバプタン投与群で5.6%、プラセボ投与群で1.2%にみとめられ、この上昇は,トルバプタン中止後に回復しました。正常値上限の 2 倍を超えるビリルビン上昇はみとめられませんでした。

このことから、進行したADPKD患者さんでは、トルバプタンの投与により、推定GFRの低下速度が抑制されることが示唆されました。


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長い間、ADPKDの治療は対症療法しかありませんでしたが、トルバプタンがADPKDの進行を抑制することが解明され、現在では、世界で初めてのADPKD治療薬として臨床で使用されています。ADPKD治療の研究がすすみ、今後は、根治できる治療法も開発されることが望まれています。

 

 

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