角膜移植が必要となる水泡性角膜炎とは 再生医療による新しい治療法の取り組みが進んでいます

目の病気というとどのような病気を思い浮かべますか?。結膜炎、麦粒腫(ものもらい)など比較的に身近な病気から白内障、緑内障などいろいろな病気がありますよね。

目の病気の中には角膜移植を必要とする重い病気がいくつかあります。そのような病気のひとつに「水泡性角膜症」という病気があります。

2018年3月15日に京都府立医大と同志社大学の研究チームが角膜移植とは異なる水泡性角膜症の治療法に関する論文をアメリカの医学誌「The New England Journal of Medicine」に「Injection of Cultured Cells with a ROCK Inhibitor for Bullous Keratopathy」として掲載しました。

臨床研究は2013年12月から実施されました。論文にまとめられた臨床研究における最初の11例では2年間の経過観察を経て全例で視力が回復するといった良好な結果が報告されています。

水泡性角膜症はあまり耳にしない病気ですよね。最初に水泡性角膜症についてみてみましょうね。

[水泡性角膜症ってどんな病気なの]

-目の角膜は-

目の角膜は目の黒目の部分の一番前面にあるドーム状の透明な膜の部分のことです。中央部の厚さが約0.5mmあって眼球内への光の入口にあたります。角膜の全体の約80%は水分を含んでいます。

眼球の構造photo by wikimedia

角膜は5層構造でできていて一番内側にある「角膜内皮」は角膜から水分を排泄する機能を持っています。角膜内皮の働きで角膜内の水分が常に一定に保たれます。その働きでわたしたちの角膜は一定の厚さと透明な状態に保たれています。

角膜内皮の細胞は生また時から同じ数です。なんらかの原因で減ることはありますが増えることはありません。通常は1平方ミリメートルあたり2000個以上の細胞があります。

-水泡性角膜症の原因と症状は-

原因

以下にあげるような原因で角膜内皮細胞が減ってしまい1平方ミリメートルあたり500個未満になると角膜の水分の排泄がうまくできなくなって水泡性角膜症を発症します。

・遺伝的(フックス角膜内皮ジストロフィなど)な要因

・外傷、角膜感染、白内障などの手術、緑内障のレーザー手術

・緑内障による急激な眼圧の上昇や眼内の病気

・コンタクトレンズの長期装着による酸素不足や加齢に伴う角膜内皮細胞数の減少

症状

角膜がむくんではれたようになって角膜の厚さが1mmほどになります。眼の不快感、角膜がにごる、視力障害、かすみ目などの症状現れます。角膜表面に水泡が形成され痛みを伴います。そのために角膜の上皮がはがれやすい状態になってはがれると激痛を伴います。

-水泡性角膜症の治療は-

症状が軽い場合には経過観察をします。角膜上皮がはがれて痛みがでている場合には治療用のソフトコンタクトレンズの装用、高張食塩水の点眼などをおこなって進行を抑えるようにします。これらの治療方法はあくまでも対処療法です。

視力の低下著しい場合や対処療法で症状が抑えられない場合には「角膜移植」が唯一の治療方法になります。

写真はイメージです。photo by pixaboy

水泡性角膜症の角膜移植では角膜のすべての層を移植する「全層角膜移植(PKP)」と角膜内皮のみ移植する「角膜内皮移植(DSAEK)」の2種類があります。それぞれの手術方法にメリット、デメリットがあります。

移植手術による拒絶反応は10%~30%ぐらいの割合でみられます。術後に角膜内皮細胞の機能が低下することが知られていて再手術が必要となることも少なくありません。決して予後が良い病気ではなく難治性の病気とされています。

角膜移植の問題点は手術だけではなくアイバンクなどから提供されるドナーの角膜です。水泡性角膜症の患者数は国内で約1万人と推定されていますが提供可能な角膜は不足しています。

研究チームが報告した治療方法はこれらの問題に対して再生医療という考えからアプローチした治療法です。

[角膜移植でない治療法とは]

-どのような治療法?-

研究チームはアメリカのアイバンクから提供を受けた角膜から内皮細胞のみ取り出して最新技術を駆使して細胞移植に適した角膜内細胞の選別と安全で安定的に生産が可能な人工培養の技術の開発に成功しました。

実際にどのように治療を行うのかみてみましょう。目に局所麻酔を行い病的になっている角膜内細胞を除去したうえで人工培養した内皮細胞と角膜内皮細胞の増殖させる効果があるとされる「Rhoキナーゼ阻害剤」を角膜内に注射によって注入します。

そのまま3時間ほどうつむき姿勢とることで角膜内での細胞の生着をうながします。あわせて抗炎症剤、抗菌剤、免疫反応抑制剤なども使用します。

-結果は全例で良好な結果に-

論文にまとめられたのは臨床研究が開始された最初の40歳代から80歳代の11例(男性5名、女性6名)について報告したものです。

2年間の経過観察において全例で角膜の厚さが0.6mm未満になり角膜の透明化が維持されていることが認められました。術後の感染症や拒絶反応については確認されませんでした。

視力の回復についても全例で確認されました。平均で術前は「0.2」程度が術後は「1.0」程度まで上昇しています。もっとも顕著だったのが50歳代女性の症例で術前「0.03」から術後「1.0」まで回復した例もみられました。

写真はイメージです。photo by pixaboy

これらの結果から研究チームは角膜内皮細胞の再生医療の有効性と安全性が確認されて実現可能であることが検証されたとしています。

-角膜移植に代わる治療法へ-

研究チームでは報告した11人を含めて35人の臨床研究を実施しています。論文にまとめられた11例以外でも安全性と有効性は確認がされました。さらに2017年5月からは医師主導治験をほかの施設を含めた他施設治験で15例実施しています。

今後は実用化を目指して医師主導治験の結果を踏まえたうえで3年後をめどにして再生医療製品によるあらたな治療方法として「角膜移植に代わる治療法にしたい」として国の承認を目指しています。

医師主導治験の結果や長期的な効果などの検証もありますが水泡性角膜症をわずらっている方への新しい治療方法となるといいですね。

用語解説

再生医療

生物の細胞や組織には再生する能力が備わっています。この再生能力を利用して病気やけがで損なわれた臓器や組織を正常な状態に回復させることを目的とした医療のことをいいます。

フックス角膜内皮ジストロフィ

遺伝性の病気で白人に多く日本人には少ない病気です。女性に多くみられます。遺伝性の病気ですが原因遺伝子ははっきりとしていません。成長とともに両眼に角膜浮腫や混濁がみられて最終的には水泡性角膜症を発症します。治療方法は角膜移植以外に方法はありません。

医師主導治験

未承認の医薬品や医療品などを医師もしくは医療機関が自ら治験すべての計画、立案から実施、報告書作成までを行うことで薬事承認を得て臨床の場で使えるようにしようとするものです。海外の薬など国内で未承認のものや使用が適応外とされているものを別の治療で使うことなどのために行われます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました