クッシング病にたいする新たな治療薬 パシレオチド(商品名;シグニフォー)

クッシング病は、下垂体腺腫が原因となりコルチゾールの過剰分泌が引き起こされる疾患です。稀な疾患であり、日本における患者数は450人程度と推定されています。

外見的や精神的な変化をともない、患者さんのQOLを低下させることから、効果的な治療薬の開発が求められてきました。


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クッシング病とは?

クッシング病は、脳の下垂体に発生する良性の腫瘍(下垂体腺腫)から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌され、副腎でのコルチゾールの生産・分泌が過剰になることで発症します。

コルチゾールは、副腎皮質ホルモンの一つで、糖・脂質・タンパク質の代謝に関わっています。また、炎症を抑える作用や血圧の調節にも関与しており、私たちの身体には欠かせないホルモンです。

コルチゾールの分泌は、下垂体から出るACTHによりコントロールされており、ACTHもまた視床下部のCRHにより調節を受けています(視床下部CRH-下垂体ACTH-副腎コルチゾール系)。クッシング病では、下垂体にできた腺腫により、ACTHの分泌が過剰となるため、その結果、副腎でのコルチゾールの過剰分泌が起こります。

症状としては、満月様顔貌や中心性肥満などの体形変化をともなう兆候が特徴となります。高血圧症や糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの合併症を発症することも多く、うつ傾向などの精神的な変化がみられることもあります。病気が進行すると、免疫機能の低下から感染に弱くなり、敗血症で命を落とすこともあります。

クッシング病の治療では、原因となる下垂体腺腫の外科的切除が第一選択となっています。切除不能または切除により寛解できない場合には、放射線療法や薬物療法が行われます。


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クッシング病にたいする新たな治療薬

クッシング病の治療では、手術が第一選択となりますが、切除不能または切除により寛解できない場合には治療が難しく、有効な治療薬が望まれていました。

そこで、2018年3月にクッシング病にたいする適応が追加されたのが、「パシレオチド(商品名;シグニフォー)」です。従来、先端巨大症および下垂体性巨人症を適応として使用されていましたが、今回、“クッシング病(外科的処置で効果が不十分又は施行が困難な場合)”の効能・効果が追加され、用法・用量は“通常、成人にはパシレオチドとして10mgを4週毎に、臀部筋肉内に注射する。なお、患者の状態に応じて適宜増量できるが、最高用量は40mgとする。”となっています。

パシレオチドは、ホルモンを過剰分泌する良性腫瘍で発現しているソマトスタチン受容体に結合し、活性化することにより、ホルモン分泌を抑制する持続性ソマスタチンアナログ製剤です。クッシング病の患者さんでは、下垂体腺腫にソマトスタチン5受容体が高率で発現していることがわかっており、パシレオチドは、ソマトスタチン5に結合することでACTH分泌およびコルチゾール分泌を抑制すると考えられています。

実際に臨床試験では、クッシング病患者さん150名を対象に、パシレオチド10mgまたは30mgを投与したところ、投与7カ月後の奏効率は、10mg群で41.9%、30mg群で40.8%となり、有効性が確認されています。

試験中に観察された主な副作用として、高血糖(46.7%)、下痢(32.0%)、胆石症(31.3%)、糖尿病(20.7%)が報告されています。


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既存の治療薬には、下垂体腺腫にたいして効果を発揮するものはなく、新たな治療薬の開発が望まれていました。今回、パシレオチドがクッシング病治療薬として承認されたことにより、治療の選択肢が広がり、患者さんの症状改善に寄与することが期待されています。

 

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