ヒトパレコウイルス 新しい感染症が流行-乳児がかかると重症化も


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新しい感染症が流行しています


ヒトパレコウィルスを御存じでしょうか?
あまり、聞き慣れない名前ですが、決して、珍しいウィルスではなく、私たちの身近に存在します。

20歳までに約8割の方は、このウィルスの抗体を保有しています。感染しても、症状がでないか、症状がでても胃腸炎や軽い風邪程度の症状で済んでしまい、このウィルスによる感染かどうかわかりません。

ところが、近年、このウィルスが定期的な流行を起こしています。特に、乳児(生後3ヶ月未満)が感染すると深刻な症状を引き起こしますので、十分な注意が必要です。

ヒトパレコウィルスとは


ヒトパレコウィルス(英語名/略称:Human parechovirus/HPeV)は、新しいウィルスではなく、従来、エンテロウイルス属エコーウイルスに属していました。1999年に、他のエンテロウイルスとは血清学、遺伝子的に異なるため、パレコウイルス属に分けられ、ピコルナウイルス科とされました。

この時に、エコーウイルス22型(Echo22)がヒトパレコウィルス1型(HPeV-1)、エコーウイルス23型(Echo23)がヒトパレコウィルス2型(HPeV-2)と命名されました。

2004年に、日本でヒトパレコウィルス3型(HPeV-3)が報告されました。以降、ヒトバレコウィルスは16型まで報告されています。

ヒトパレコウィルスによる感染症は、一般的に、主に小さな子供にみられ、上気道炎、胃腸炎を起こし、咳、鼻水、発熱、下痢、嘔吐などの症状がみられます。成人も感染しますが、感染しても、症状がみられないか軽い風邪の症状がみられる程度です。

ヒトパレコウィルス1型感染症とヒトパレコウィルス3型感染症


ヒトパレコウィルス感染症の中で、よく見られるのが、ヒトパレコウィルス1型感染症、乳児に重篤な症状を引き起こすのがヒトパレコウィルス3型感染症です。

※ヒトパレコウィルスの16の型のうち、症状を引き起こすことが報告されているのは、1型~6型、8型、10型、 11型、13型、15型です。

それぞれのウィルスの特徴を簡単に纏めてみます。

ヒトパレコウィルス1型感染症
発生時期主に秋から冬
症状以前は「小児夏季下痢症」といわれていました。主に、下痢、嘔吐の胃腸炎の症状が多く、咳、鼻水などのかぜ症状もみられます。ごくまれに、心筋炎、無菌性髄膜炎などがみられる場合がありますが、予後は良好です。
ヒトパレコウィルス3型感染症
発生時期主に夏から秋。2-3年毎周期で流行しています。日本では2004年発見され、その後、2006年、2008年、2011年、2014年、2016年に流行しています。
症状通常は、ヒトパレコウィルス1型のような症状を示し、予後は良好なものです。しかし、乳児においては重症化しやすく、死亡例も報告されています。


乳児には、以下のような症状がみられ重症化していきますので、入院、PICU(小児集中治療室)での管理が必要になります。特に、敗血症へと移行し、重症化する例が多く見られます。

・39度から40度の発熱

・水様性の下痢

・手のひらや足の裏に赤い発疹(紅斑)。身体への発生もあります。

・頻脈、手足などの末梢循環不全による末梢冷感

・多呼吸もしくは無呼吸

・腸管麻痺に腹部膨満

・痙攣発作

・髄膜炎、脳炎

・肺炎

・敗血症及びそのショック状態


手のひらや足の裏に赤い発疹(紅斑)ができる病気といいますと、同じような症状を示す病気(手足口病等)がありますが、生後3か月未満乳児で、39度から40度の発熱があり、紅斑の症状が出た場合には、ヒトパレコウィルス3型感染症の可能性も疑う必要があります。

ヒトパレコウィルス3型感染症の診断


ヒトパレコウィルス3型感染症であると診断を確定するには、患者の血液、便、喉の粘膜から検体を採取して行うことになりますが、インフルエンザの診断に用いられるような迅速検査キットはありません。PCR法といわれる方法でウィルスを確認します。PCR法によるウィルスの検出は特定の機関でないと行えません。

症状からヒトパレコウィルス3型が疑われる場合には、速やかに、対応できる施設がある病院で診断、治療を受ける必要があります。

ヒトパレコウィルス3型感染症の治療


ヒトパレコウィルス3型の特効薬はなく、対症療法が主体となります。なお、ヒト免疫グロブリン製剤が、ヒト-パレコウイルス3型に高い抗体価を認めたという報告はあります。今後、ヒト免疫グロブリン製剤のヒト-パレコウイルス3型感染症に対する予防、治療の効果が期待されています。

2011年6月から8月に、山形でヒト-パレコウイルス3型感染症の流行がありました。この時に、成人男性5人が発熱や咽頭痛などの感冒症状と腕や脚の筋肉痛・脱力がみられ、流行性筋痛症と診断されています。検査したところ、成人男性5人全員からヒト-パレコウイルス3型が検出されましたことも附記しておきます。

ヒトパレコウィルス3型感染症の感染通路


現在、感染経路として家庭内感染が考えられています。多くのケースで、先行して、家族が風邪のような症状があったことが確認さています。

新潟大学の研究では、感染には、移行抗体が関連するという研究結果を発表しています。

移行抗体とは、生まれてくる新生児へ母親の胎盤を介して移行される抗体のことです。乳児の免疫機構が発達するまでの生後数か月間は、乳児の血液中で抗体として機能します。

研究結果では、母親の約40%がヒトパレコウィルス3型の抗体価が十分ではなく、特に、「母親の年齢が高ければ高いほど、ヒトパレコウィルス3型に対する抗体価は低い」としています。

言い換えますと、母親の年齢が高いほど、生まれてきた乳児の発症率が高くなるということです。

若い母親の抗体価が高いのは、ヒトパレコウィルス3型が現れたと推定される20年ほど前の時期に、感染する機会が多いと思われる保育園や幼稚園で過ごしたために、抗体価が高いと推測されています。

生後3か月未満乳児が、何故、重症化するか明確な理由はわかっていませんが、この研究は、今後の予防や治療への可能性も示唆しています。

ヒトパレコウィルス3型感染症の予防が大事です


風邪にかからないように予防すると同じよう観点から、乳児のいる家庭においては、外出から帰った時の「手洗い」、「うがい」を、必ず、行いましょう。

また、家族間でタオルや食器を共有しないことも注意すべき点です。便も、感染源になる事がわかっていますので、トイレの後の「手洗い」を怠る事のないようにしてください。

特に、家人が風邪にかかっている場合には、家庭内での「マスクの着用」や「手洗い」を徹底して行うことが必要で、乳児への接触はできうる限り避けてください。

大人にとっては、軽い風邪でも、乳児にとっては、命取りになる可能性がある事を意識して頂ければと思います。

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