プロトンポンプインヒビター(PPI)やヒスタミン2受容体阻害薬(H2ブロッカー)の誕生により、消化性潰瘍や逆流性食道炎などの酸関連疾患の治療は劇的に進歩しました。
現在、いくつかのPPIやH2ブロッカーが使用されていますが、その中でも2015年に発売されたボノプラザン(商品名;©タケキャブ)が注目を浴びています。
胃酸分泌の仕組みと酸抑制薬
胃酸は胃内に存在する壁細胞から分泌されます。胃酸は、もともと胃腸に侵入してくる菌を殺菌するという大切な働きをしています。
parietal cellが壁細胞 photo by WIKIMEDIACOMMONS
胃腸が弱っていたり、胃酸過多の状態ですと強い酸により自身の細胞が傷つき、炎症や潰瘍を生じることがあります。そこで、胃酸の分泌を抑えて、症状の改善に効果があるのがPPIです。
PPIは胃の粘膜の壁細胞にあるH+,K+-ATPaseとよばれるプロトンポンプに作用することで胃酸の分泌を抑制します。
従来のPPIは胃酸により活性化して、活性型PPIがプロトンポンプに結合することで胃酸の分泌を阻害します。一方で、酸性の環境だと不安定であるという性質も持ち合わせていて、酸条件下では、長くとどまることができないことが難点でした。
そのため、従来のPPIは飲んですぐ効くというわけではなく、十分な効果があらわれるまでに数日間かかると言われていました。
また、従来のPPIがCYP2C19により代謝されることも問題のひとつでした。CYP2C19は日本人に遺伝子多型が多くみられる代謝酵素であり、従来のPPIだと個人差が出ると不安視されていました。
タケキャブの作用機序と効果
これらの問題点を解決するべく開発されたのが、今回紹介するタケキャブです。タケキャブも従来のPPIと同様、プロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑えますが、プロトンポンプへの作用の仕方が、従来のPPIとは異なります。
タケキャブは、酸条件下でも効果を失わずに壁細胞の周りへと集まる性質があります。
集まったタケキャブは、壁細胞のプロトンポンプにおいて可逆的かつカリウムイオン競合的にプロトンポンプを阻害することで、胃酸分泌を抑えます。
写真はイメージです。photo by Marcin Chady
酸による活性化が必要ないため、作用発現までの時間が短く、酸条件下で安定した作用を発揮して、持続時間が長いという利点があります。タケキャブは服用開始初日くらいから効果が期待できると報告されています。
代謝酵素も従来のPPIとは異なります。タケキャブはCYP2C19ではなく、CYP3A4という日本人ではあまり遺伝子の違いがみられない酵素により代謝されます。
そのため、効果の個人差は生じにくいと言われています。
発売時からじょじょに、使用数が増えているタケキャブですが、高い効果を期待してピロリ菌の除菌にも使用されるようになっています。
ピロリ菌の除菌にも、タケキャブの服用により高い成功率が報告されています。
タケキャブの登場により、急性期の胃腸障害やピロリ菌の除菌に、より高い効果が期待できるようになりました。今後も、より早くより適切な効果のある新薬の登場が期待されます。
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