冠動脈ステント 生体吸収スキャフォールドと金属ステントの比較

食生活の欧米化や生活様式の変化により狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の患者数は増加し、現在では80万人以上にのぼると言われています。虚血性心疾患は命に関わる疾患であるため、早めの発見、治療が大切です。

心疾患のステント治療

心臓が正常に拍動し続けるためには、酸素や栄養分が不可欠です。その酸素、栄養分を含む血液を心臓に運ぶ役割を果たしているのが冠動脈です。

虚血性心疾患は動脈硬化や血栓などで冠動脈の内腔が狭窄または閉塞することで生じます。冠動脈からの血液供給が上手くできなくなることにより、必要な血液が不足し、心臓が正常に働かなくなります。時には壊死を引き起こし、命をおとすこともあります。

このような状態になる前に、まずは予防に努めることが大切ですが、もし症状がみられた場合には早めの治療が必要となります。治療は、基本的に薬物治療が行われますが、病態によっては手術が併用されることもあります。


写真は冠動脈ステント photo by Wikipedia

虚血性心疾患の手術では、狭まった冠動脈を拡張し血流を改善させる経皮的冠動脈形成術(PCI)や心臓へ血液が流れるように血管を移植する冠動脈バイパス術が行われます。

中でもPCIの進歩は目覚ましく、初期ではバルーンのみを使用し狭窄した冠動脈を拡張していましたが、その後血管内部から支える金属ステントが開発され、さらに現在では再狭窄を防止する薬剤が塗布されている薬剤放出型金属ステントが主流になっています。

進化を続けるPCIですが、いまだ課題も残されています。金属ステントは一生血管内に留まり続けるため、将来的に治療の選択肢が限定されることや血管本来の運動機能を妨げることなどが問題視されていました。


写真は金属ステントです。 photo by A.M.D.

そこで、その弱点を解決すべく開発されたのが生体吸収されるスキャフォールドです。生体吸収性スキャフォールドは留置後3年程度で完全に吸収されて無くなると言われており、今までの課題を解決するのではと期待が集まっています。

しかし、開発されて間もないため十分なデータがなく、さらなる研究が必要とされています。そこで2017年6月に発表された論文「Bioresorbable Scaffolds versus Metallic Stents in Routine PCI」では従来の薬物溶出性金属ステントと生体吸収性スキャフォールドを比較し検討しています。

PCI施行予定の患者さんを対象に金属ステント群と生体吸収性スキャフォールド群に分け、約700日の経過観察を行い、治療血管での障害(心臓死や治療血管による心筋梗塞、治療血管の再血管再建術の施行)ついて解析を行っています。

その結果、2年間の治療血管障害発生率は生体吸収スキャフォールド群で11.7%、金属ステント群で10.7%となりました。生体吸収スキャフォールド群と金属ステント群での心臓死、治療血管による心筋梗塞、再血管再建術の発生率はそれぞれ2.7% vs 2.0%、5.5% vs 3.2%、8.7% vs 7.5%となり、2群間に有意差はみられませんでした。しかし、ステント血栓形成について解析すると生体吸収スキャフォールドで3.5%、金属ステントで0.9%という結果となり大きな差がみられました。

このことから、生体吸収スキャフォールドは金属ステントに比べて血栓形成のリスクが高くなることが示唆されました。

現時点では、金属ステントの方に歩がありそうですが、今後改良が重ねられ、よりよい治療法が開発されることが期待されます。

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