「かかりつけ歯科医」と「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」ってなに?

■はじめに

保険診療の診療報酬は、2年おきに大きく改定されます。小さな改訂は、その都度行なわれることもありますが、2年おきの大幅改定という路線は変わりません。

最新の大幅改定は平成28年度に行なわれました。その時の保険診療の報酬改定において、歯科医療機関の機能の分化に重点が置かれ、特にかかりつけ歯科医の推進が図られました。

そこで、新しく登場した歯科医療機関のかたちが、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所というものです。このかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所って何なのでしょうか?まとめてみました。


写真はイメージです。 photo by pixabay.com

■かかりつけ歯科医ってなに?

来院した患者さんのむし歯治療や歯周病治療、そしてその予防などの歯科治療を一人でおこなう歯科医師のことです。

かかりつけ歯科医であれば、その歯科医院で歯科疾患の治療が、完結出来ます。患者さんが複数の歯科医院を掛け持ちして治療を受けなければならない様な状態になることを防ぐことが可能になります。

 

■かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所ってなに?

かかりつけ歯科医を名乗るだけではなく、厚生労働省が設けたいろいろな条件をクリアしたことを認められた歯科医院のことです。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所は、地域ごとに完結した治療を受けられるようにする厚生労働省の方針に沿って、設けられた新しいコンセプトの歯科医院になります。

その目的は、むし歯や歯周病が重症化する前に治療する、もしくは予防するだけではありません。高齢化により食べたり話したりするというお口の機能が低下する前に、そうしたことを予防することで、生活の質を向上させることも目的のひとつです。


写真はイメージです。 photo by Sacha Chua

■かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所に認められる条件とは?

実は、どの歯科医院でもかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所を名乗ることが出来るわけではありません。かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所を名乗るためには、厚生労働省が決めた以下の①から⑦までのすべての施設基準を満たしていなければなりません。

 

○施設基準について

①保険診療を行なっている歯科診療所であること。

保険診療制度に基づくかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所になるわけですから、当然ですね。

②歯科医師が2名以上いること、そして歯科衛生士も勤務していること

歯科医師が1人で診療を行なっている歯科医院では、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所になることはできないということです。ただし、歯科医師の人数は、常勤に限りません。パートで週1回勤務のような歯科医師であっても大丈夫です。

③医療安全についての研修などを受けた常勤の歯科医師が1名以上いること。

歯科治療は、基本的に外科治療にあたる医療行為です。歯科治療を安全に行なうための研修を受けた、もしくはこれからも増えてくる高齢者に関する研修を受けた、歯科医師が所属している必要があります。

この歯科医師は、パートでは認められません。いつでも対応が出来るように常勤の歯科医師である必要があります。

④過去一年間に定められた診療行為を行なっていること。

ここで要求される診療行為とは、訪問診療や、歯科疾患の治療計画などの管理、毎月の歯周病安定期治療、銀歯などの被せものの2年間の管理などです。

⑤緊急時の他病院との連携体制の構築

前述したように、歯科医療は外科治療でもあります。近年、高齢化の進展に伴いいろいろな病気を持っている患者さんが増えてきました。

こうした患者さんは、さまざまなリスクを抱えているともいえます。もし、治療中に何らかの異常が生じたとき、速やかに他の病院に転院する手続きが行なえるよう連携が、構築されていることが求められています。

⑥医療安全を確保するための体制の構築

治療中の安全を確保するために、必要な器材を整備している必要があります。具体的には、自動体外式除細動器、いわゆるAED、パルスオキシメーターという血液中の酸素濃度を測定する機器、酸素ボンベ、血圧計、救急蘇生セットなどです。また、口腔外バキュームとよばれる、歯を削ったときなどに生じる粉じんを吸引する器械も必要とされています。

⑦地域での在宅診療を行なうための連携の構築

歯科医院が在宅診療を行なうために、介護施設や福祉関係者との連携体制を構築していることが要求されています。


写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

このようないろいろな条件をクリアできているということは、患者さんにとっても安心して治療を受けることができるので、有益なことと言えるでしょう。

 

■かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の特徴

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所には、3つの特徴があります。

 

○初期う蝕が進行しないように管理してくれる

歯の最も外側の部分のことをエナメル質といいます。エナメル質はとても硬く、その硬さは骨以上で、身体の中で最も硬いといわれています。その反面、ストレプトコッカス・ミュータンスに代表されるむし歯菌の出す酸によって溶かされやすいという弱点もあります。


右上がエナメル質 photo by WIKIMEDIACOMMONS

むし歯は、このエナメル質が溶かされることから始まります。これを脱灰といいます。

脱灰された歯には、特徴的な症状が現れます。歯の表面に、穴は空いていないけれども、濃い白い模様のようなものがついた状態のことです。

したがって歯に白い模様がついた場合、むし歯菌の出す酸によって歯が溶かされ始めているということを意味します。すなわちこれが、初期う蝕(初期むし歯のこと)とよばれる状態なのです。

むし歯が初期段階のうちに、適切に治療すれば、削ったり詰めたりしなくても、自然に治ってくることがあります。一度削られた歯は、人工物でしか修復出来ず、人工物は外れたり、むし歯が再発したりすることがあります。むし歯を削ることなく、自然に治すことができれば、そうしたリスクはありません。

自然に治すことが望める初期う蝕のうちに、治すということは、患者さんにとって大きなメリットがあるのです。

 

○歯周病の進行を抑え、安定した状態を維持してもらえる

歯周病とは、歯周組織とよばれる歯を支えている組織に生じる病気です。

歯周病は、歯肉炎と歯周炎に分類されます。歯肉炎とは、歯茎にだけ炎症が生じた状態のことで、歯周炎とは、歯茎だけでなく歯を支えている歯槽骨など、広い範囲に炎症が広がった状態をいいます。

Boneが歯槽骨 photo by WIKIMEDIACOMMONS

歯周炎になって、骨が溶けていくと、最終的には歯を支えきれなくなって、歯が抜けてしまうようになるので、そこに至らないようにするのが、歯周病治療の目的です。

歯周病治療がひと段落し、歯周組織の状態が落ち着いた状態の患者さんには、その安定した状態を維持するようにすることで、歯を長持ちさせます。

そのために、お口全体の歯周病の検査や、特にひどくなっているところを部分的に検査すること、そして、治療の効果を評価することが必要となります。また、お口全体の写真を撮影し、今後の治療の成果を比較出来るようにしておかなければなりません。

歯周病を治療するために、歯石の掃除や歯の表面の汚れを取り除いたり、必要に応じて薬を使ったりします。

このような歯周病を安定化させる治療は、とても時間がかかるため、かかりつけ歯科医が、長期的に歯周病の管理をすることが必要となってくるのです。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所では、こうした歯周病を安定化させる管理も重点的に行っています。

 

○往診でのお口のリハビリテーションや、いろいろな指導もしてもらえる

全ての患者さんが、歯科医院に通院できるのならいいのですが、通院することが難しい場合もあります。

そこで、かかりつけ歯科医が往診で歯科治療にあたります。往診で治療をしなければならないような場合、患者さんの多くは、お口から食べるということが難しくなっています。

かかりつけ歯科医は、往診での通常の歯科治療をするだけではありません。お口で食事をするためのリハビリテーションや、その場合の注意点などを30分以上の時間をかけて説明します。

具体的には、月に1回以上の摂食機能訓練を行ない、そして1回は歯周病の検査をすることが求められています。

摂食機能訓練とは、お口から食べ物を食べにくくなった患者さんに対し、再び食事をお口から摂れるようにするための訓練です。食べにくさの状態に応じて、いろいろな方法があります。摂食機能訓練は、誤嚥性肺炎という食べ物を誤って気管に流してしまうことにより起こる肺炎を予防するために、とても大切です。


写真はイメージです。 photo by vikvarga

また、高齢化すると歯周病の頻度も上がってきます。歯がぐらついてしまっては、食べ物をしっかりと噛むことができなくなります。歯周病の検査も定期的に行うことで、そうしたことを防ぐようにします。

そして、適切に歯周病の処置を行うことで、お口の中の状態を清潔に維持し、お口が汚れることで増えてくる細菌の繁殖を抑えます。細菌が増えることでも肺炎のリスクが上がってきますので、細菌を減らすという面からも、肺炎のリスクを下げるようにします。

 

■まとめ

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所であれば、設備や歯科医の能力の面からも、安心安全な歯科治療を提供することができます。

それだけでなく、むし歯の予防や、歯周病の安定化、往診でのリハビリテーションなど様々なサービスを受けることもできます。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所は、患者さんにとって、とてもメリットのある歯科医院と言えるでしょう。

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